短編集「つばなれまえ」

あおみなみ

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お姉ちゃんになった日~いちばん初めのプレゼント

シンスケのおくりもの【終】

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 あの「連帯責任」事件から1週間ほどして、母が弟を抱いて家に帰ってきた。
 退院前に一度だけ顔を見にいったけれど、丸々として、ゆでだこみたいに真っ赤で、その頃人気のあるテレビ番組で司会をしていた三波伸介さんというタレントにそっくりだったので、私は勝手に「シンスケ」と呼んだ。
 家族一同「確かに!」って感じで盛り上がった。

 ただ、その後父と母がつけた名前は「シンスケ」ではなかったので、呼び方を改めるのに苦労した。
 家に帰ってきた頃には、赤子特有の皮膚が剥けたようなみすぼらしさや頼りなさがなくなって、すっきりと真っ白い顔をしていた。
 時々開く目がとてもぱっちりしていて、本家・三波伸介さんにも負けないくらい、円らで愛らしい。
 毎日どんどんさらにかわいくなって、そしてやっぱり父そっくりになっていった。
 そういえば、父自身は三波伸介さんに全然似ていないのに、何でだろう?

◆◆

 どうしても「シンスケ」って呼びたくなる我が弟は、生まれたばかりで何もできず、寝ているか泣いているかだ。
 シンスケが泣くと、母は飛んでいって抱き上げ、おむつを替えたり授乳したり、眠るまで抱いていたりする。

 私は割と聞き分けのいい子だと言われていたけれど、それでもシンスケがお母さんを独り占めしているようで、ちょっと寂しい気持ちになった。

「お前にもああいうときがあったんだぞ」と、お兄ちゃんに言われた。
「お兄ちゃんも寂しかった?」と聞いたら、「オレは男だから平気だったけどな」と言われた。

 ちょっと意地悪を言うこともあるけれど、お兄ちゃんは優しくて面倒見がいい。
 そうか。お兄ちゃんはシンスケにとってもお兄ちゃんなんだと気づいたら、私は何となく左腕に絡みついてしまった。

「どうした?」
「だって…」

 シンスケがもう少し大きくなったら、お母さんだけでなく、お兄ちゃんも自分から取り上げてしまうかもしれない――言語化すると、そんな気持ちだったのだろう。
 お兄ちゃんは、私の真意が分かったかどうかはいざ知らず、「お前だってお姉ちゃんだぞ。弟を一緒にかわいがろうな」とだけ言い、右手で私の頭をなでた。

◆◆

 シンスケが大きくなるまでは、家族みんな彼のとりこで、彼のいいなりだろう。私だってなんだかんだいって、かわいいシンスケのほっぺたをつついたり、抱っこしたりしたい。
 もっと大きくなったら一緒に遊べるし、いろいろ教えてあげたりもしたい。
 甘えられたら、「しようがないなあ(お兄ちゃんのマネ)」とか言いながら、一生懸命面倒見ちゃうと思う。

 つまり、私はのことさえも独り占めできなくなるってことだし、それを喜んで受け入れようとさえしているのだ。

 夢に出てきたシンスケ(確信)は、そうなる前に、園庭の遊具やお砂場道具を、独り占めさせてくれるつもりだったのかもしれない。

 ありがとう、シンスケ。楽しかったよ。

【『お姉ちゃんになった日~いちばん初めのプレゼント』了】
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