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第8話 おじいちゃんっ子優等生
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しおりを挟む「おじいちゃんいつも楽しそうに、このお茶会の話をしてて。私くらいの子で常連さんがいるよって聞いて、今日は頑張って早起きしてきたんだ」
「そうだったんだ。私は1年のときからで…」
咲良は自分がここに参加するきっかけになった「詩」の話をした。
「そうか。でも――ひょっとして、その詩、結構直されなかった?」
「え、あ、うん」
「最後はまっ赤っかで、自分の書いたものが跡形もなくなってて…」
「ひょっとして、副田さんも経験あるの?」
「うん、それでコンクールに出品しないでって頼んだことがあった」
「すごい…」
考えてみたら、咲良の詩だってどうしてもコンクールに出してほしかったわけではない。あのとき思い切って「ここを削るなら、コンクールには出しません」と言ったのは、咲良にしては大胆な行動だったが、入選したときは、やはり少しうれしいと思ったのも事実だった。
「でもさあ、3年になったら富江賞に出品できるでしょ?そのときも添削をあの先生がやるのかと思うと、ねえ」
「富江賞、ねらってるんだ」
「うん。ちょっと頑張って書いてみたい小説があって。テーマとかプロットとかも決まってるんだけど」
「すごいな。私は詩ぐらいしか思いつかないから、無理っぽい」
「思いついたことをまずノートに書き出すんだ。そういうのを後で拾い読みしながら組み立てると、意外と書き進むの」
富江賞というのは、「片山の中学3年生女子」限定というピンポイント過ぎる文芸賞である。
片山ゆかりの女流作家の名前にちなんでいるらしいが、その作家自体はあまり知られておらず、「富江賞」の名前が独り歩きしていた。ちなみに男子部門も別にあり、もっと有名な作家の名前が冠されている。
原稿用紙20枚以上の「長編」、4、5枚程度の「中編」と「詩」の3つを提出しなければならないのだが、中編に関しては、授業の中で書いたものを代用することも多いようだ。詩以外は、小説でもエッセーでも旅行記でも自由に書けるので、文字書きが好きな生徒は結構応募を意識していることが多い。
しかし学校を素通りできない賞なので、どうしても検閲のごとき添削が入る。実際、「こういうことを書くのは望ましくない」という理由で直されることも多い。
うわさだが、咲良たちの学校でも、深夜ラジオをテーマに書いたエッセーが、「深夜ラジオなど聞いていると、不良だと思われるから」と丸ごとボツを食らった先輩がいたとかいないとかで、表現の自由以前の話である。
「まあ、駄目元で書くけどね。そもそもあの先生、自分がそこまでして直して入選しなかったらどうする気なのかな?面目丸つぶれじゃないの?」
「手柄は自分のおかげ、失敗は生徒のせい、とか?」
玲香の意外なほどラフな言いぶりに乗せられ、咲良まで、いつもらしからぬことを言っていた。
「へえ、工藤さん、結構言いますねえ…」
失言だったかなとちらっと思ったが、玲香が愉快そうに言ったので安心した。
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