3 / 28
美人ライターとクールな中学生【千弦と聡二】
千弦のもうひとつの仕事
しおりを挟む
彼を知つてゐるだらうといふ質問は決して見当外れではない。
どこかで必ず会つてゐていいはずだと自分でもさう思ふ。
佐藤春夫『新詩社と石川啄木――一つのおぼえ書き』
◇◇◇
娘の芽久美が英明大附属中に入学し、間もなく2カ月になろうという頃、義兄が店を訪れた。
義兄はアスリートやeスポーツのプレーヤーなどを取材した記事を扱うメディアを運営しているので、私とは親戚というより仕事上の結びつきが強い。
というのも、義兄の奥様――私から見ると2つ年下の義姉は、どうも私にあまりよい感情を持っていないことがうかがわれるので、親戚付き合い的な顔合わせを避けているからだ。
例えば芽久美が義兄宅のクリスマスパーティーに招かれることがあっても、私は「仕事の都合で」欠席するのがお決まりになっている。
とてもよくできた奥様だし、芽久美のこともかわいがってくれるようだが、まあ年齢の近い女同士、いろいろとあるのだ。
断じて諸悪の根源は「人たらしな義兄」だと、私としては主張したいところなのだが、何しろ人たらしなので、私としても憎めないし、大切なクライアントであることは否定できない。
義姉にしてみると、たとえ仕事上でも私と接触があるのは愉快ではないのだろうが、そこは目をつぶっていただくしかない。
義兄は「コーヒーちょうだい」と言いながらカウンター席に着き、まずは出されたコップの水を一口飲むと、私にこう言った。
「今度、千弦にインタビューに行ってほしいんだ。英明大附属の硬式テニス部」
「テニス部?私にスポーツの取材をしろと?」
普段あれだけ人をスポーツ音痴だの見当違いなことを聞きそうだからインタビューはさせられないだの言っておきながら、どういう風の吹き回しだろう。
「いや、スポーツの取材じゃない。テニス部の副部長と話をしてきてほしいんだ」
「どういうこと?」
義兄によると、今大会の戦歴とか注目選手とか意気込みやらは、アンケート用紙に回答してもらっても用が足りるし、英明大附属中が強豪校であることを前提に記事を読む人が多いだろうから、周知の話ばかりで終わってしまう可能性も高い。
そういったものとは一線を画す記事にしたいので、スポーツ記事の巧者というよりは、人の話を聞き慣れている人間に、話者の人となりが分かるようなエピソードを引っ張ってきてほしいというのだ。
インタビューシートは形だけ用意するが、アドリブで聞いてもかまわないし、何ならテニスのテの字も出てこないようなインタビューでもいいという。
「ま、下手なバイアスをかけずに中3男子の本音を聞く、みたいな感じでさ」
仕事には変わりないし、そういうことなら引き受けないでもないんだけれど。
「でも何で私に?義兄さんならもっといいライターいっぱい知っているだろうに」
「いやいや、ここは君が最適なんだって」
「どうして?」
「まず、家が英明から超近いから交通費が省ける」
「そこかっ」
「それに相手は男子中学生だ。美人が行った方がしゃべってくれるかなーと」
「ちょっと、バカにしてんの?」
「心外だなあ。君の手腕を見込んだ上で美人だと褒めているんだよ。武器は多い方がいいだろう?」
まあ初対面でロリちゃん呼ばわりされた頃からすれば、大分進歩ではある。
日程的にも何とかなりそうだし、引き受けることにした。
娘が通っている学校に、そういう形でアクセスするというのにも興味がある。
「分かったわ。私でお役に立つなら」
副部長は檜聡二君という3年生の男子とのこと。
「かなり読書家の文学好きらしいから、そういう話から攻めてもいいかもね。頼りにしてるよ、短大国文科卒」
四大社会学部卒の義兄は、からかい口調で言った。
どこかで必ず会つてゐていいはずだと自分でもさう思ふ。
佐藤春夫『新詩社と石川啄木――一つのおぼえ書き』
◇◇◇
娘の芽久美が英明大附属中に入学し、間もなく2カ月になろうという頃、義兄が店を訪れた。
義兄はアスリートやeスポーツのプレーヤーなどを取材した記事を扱うメディアを運営しているので、私とは親戚というより仕事上の結びつきが強い。
というのも、義兄の奥様――私から見ると2つ年下の義姉は、どうも私にあまりよい感情を持っていないことがうかがわれるので、親戚付き合い的な顔合わせを避けているからだ。
例えば芽久美が義兄宅のクリスマスパーティーに招かれることがあっても、私は「仕事の都合で」欠席するのがお決まりになっている。
とてもよくできた奥様だし、芽久美のこともかわいがってくれるようだが、まあ年齢の近い女同士、いろいろとあるのだ。
断じて諸悪の根源は「人たらしな義兄」だと、私としては主張したいところなのだが、何しろ人たらしなので、私としても憎めないし、大切なクライアントであることは否定できない。
義姉にしてみると、たとえ仕事上でも私と接触があるのは愉快ではないのだろうが、そこは目をつぶっていただくしかない。
義兄は「コーヒーちょうだい」と言いながらカウンター席に着き、まずは出されたコップの水を一口飲むと、私にこう言った。
「今度、千弦にインタビューに行ってほしいんだ。英明大附属の硬式テニス部」
「テニス部?私にスポーツの取材をしろと?」
普段あれだけ人をスポーツ音痴だの見当違いなことを聞きそうだからインタビューはさせられないだの言っておきながら、どういう風の吹き回しだろう。
「いや、スポーツの取材じゃない。テニス部の副部長と話をしてきてほしいんだ」
「どういうこと?」
義兄によると、今大会の戦歴とか注目選手とか意気込みやらは、アンケート用紙に回答してもらっても用が足りるし、英明大附属中が強豪校であることを前提に記事を読む人が多いだろうから、周知の話ばかりで終わってしまう可能性も高い。
そういったものとは一線を画す記事にしたいので、スポーツ記事の巧者というよりは、人の話を聞き慣れている人間に、話者の人となりが分かるようなエピソードを引っ張ってきてほしいというのだ。
インタビューシートは形だけ用意するが、アドリブで聞いてもかまわないし、何ならテニスのテの字も出てこないようなインタビューでもいいという。
「ま、下手なバイアスをかけずに中3男子の本音を聞く、みたいな感じでさ」
仕事には変わりないし、そういうことなら引き受けないでもないんだけれど。
「でも何で私に?義兄さんならもっといいライターいっぱい知っているだろうに」
「いやいや、ここは君が最適なんだって」
「どうして?」
「まず、家が英明から超近いから交通費が省ける」
「そこかっ」
「それに相手は男子中学生だ。美人が行った方がしゃべってくれるかなーと」
「ちょっと、バカにしてんの?」
「心外だなあ。君の手腕を見込んだ上で美人だと褒めているんだよ。武器は多い方がいいだろう?」
まあ初対面でロリちゃん呼ばわりされた頃からすれば、大分進歩ではある。
日程的にも何とかなりそうだし、引き受けることにした。
娘が通っている学校に、そういう形でアクセスするというのにも興味がある。
「分かったわ。私でお役に立つなら」
副部長は檜聡二君という3年生の男子とのこと。
「かなり読書家の文学好きらしいから、そういう話から攻めてもいいかもね。頼りにしてるよ、短大国文科卒」
四大社会学部卒の義兄は、からかい口調で言った。
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妹の仇 兄の復讐
MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。
僕、孝之は高校三年生、十七歳。妹の茜は十五歳、高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。
その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる