14 / 28
カフェオレボウル【千弦と聡二】
別れと出会い【聡二】
しおりを挟む
未知の年長の男を「おじさま」と呼ぶのは、ちよつとよろしく、しかし男の子は少なくとも「さま」でなく「さん」にしてもらいたい。
大下宇陀児『擬似新年』
◇◇◇
今回の設定
佐倉千弦 15歳
英明大附属高1年
学校近くの「カフェhinoki」でいつもカフェオレを注文
檜聡二 34歳
カフェhinokiオーナー 離婚歴あり
「杉村蓮」というペンネームで活動する小説家でもある
聡二は千弦の名前の音だけを知っていて、どんな漢字を書くのかが少しだけ気になっており、千弦は聡二の名前は知らず、「心の中だけでも名前を呼びたい」と思っています。つまり、まだそういう段階です。
◇◇◇
「お前はなろうと思えば何にでもなれたはずなのに、どうしてそうなった?」
実際にこんなぶしつけな質問を俺にするやつはいないが、俺は勝手に周囲からそんな声を拾いながら生きてきた。
名門私立6年制一貫校から、官僚を嫌というほど輩出している大学に入学。そこで千聖と知り合った。
俺は大学在学中に、ある文学新人賞で佳作入選した。
もちろん、それですぐにどうこうできるほど世の中甘くはないが、当時からやっていた家庭教師のバイトと文筆の仕事でそこそこ何とかなりそうと計算し、あとは嫌らしいが実家が裕福なこともあり、就職は考えていなかった。
というよりも、「作家である」という大義名分を得たことで、就職しなくてもいいと周囲に思わせればいいだろうというのが本音だった。
特段怠けたいわけではないが、しんどい生き方をしたくなかった。
対する千聖は、いわゆるキャリア志向だった。
となると、俺が家事をしながら仕事を続ければ、千聖を支えていけるだろうと気楽に考えてプロポーズし、大学卒業後にすぐ結婚した。
俺たちは甘い恋人たちというよりも、最も仲のいい友人同士だった。
息の長い付き合いができるだろう――と信じていた。
◇◇◇
6月4日。
俺の28歳の誕生日は5年目の結婚記念日でもあったが、俺はこの日、千聖から「別れたい」と切り出された。
千聖は、さも俺のためという空気を醸成するように、「あなたはまだ若いから、これからだって何かできると思うわ」と言う。
わけが分からずおろおろと「どういう意味だ?」と尋ねると、「あなたは私の犠牲になっていたのよね?もう解放してあげる」とも。
俺は自分で好きこのんでそのときの境遇に身を置いていたつもりだったのだが、千聖にはそれが根本的に理解できていなかったようだ。
大学や会社の同期、外野のエリートの皆々様から、俺の立ち位置的なものについて、何か言われたのかもしれない。
「君がそうしたいなら…」
快諾はしかねるものの、千聖が俺と別れたいと言うなら、その意志を尊重すべきだろうと思い、そう答えた。
千聖が「別れたいと思うほどの男」と暮らしていくのは地獄だろうが、俺の方は「最初から千聖がいない人生だったんだ」と思い込めばいい。
「あなたっていつもそうね!もういいわ」
俺は固辞したが、千聖は慰謝料100万円を押し付けるようにして、俺のもとを去った。
◇◇◇
何のことはない、俺以外に好きな男ができたのだなと知ったのは、その日から2年ほど経った頃、「千聖はアメリカ人の男と再婚し、ハワイで子育て中だ」という話を大学時代の友人から聞いたからだ。というより、どうやら口が滑ったらしい。
「離婚してから、2年も経っているんだ。もうただのよその女だろう?」
「ああ、別に気にしてはいないよ」
正直言って、本当にどうでもいいと思ってそう答えた。
別れて2年、一度も会っていないが、そうそう急展開でアメリカ人と知り合い、結婚して子供を産んで…とも考えにくい。
俺との別れ以前に、その男と何らかの出会いがあったのだろう。お互いあまり干渉しなかったのでよく覚えていないが、そういえば英会話を習いたいだか習うだか言っていたような気もする。
点と点がつながった気がして、なぜか可笑しくなった。
俺は30歳になったことだし、少し気分転換したいし…というノリで、カフェを開くことにした。
実家で幾つか持っている物件の一つを借り、住居もそこに移した。
マリンスポーツの趣味はないが、海を日常的に見ながらの生活も悪くない。
本業を圧迫しない程度の働き方なので、営業時間も短く、休みも安定はしないが、コーヒーの評判は悪くない。
アレンジメニューも幾つか出すようにしたら、近くの英明大学やその附属校の女の子たちもぼちぼち来るようになった。
そして34歳のとき、たまたま店を訪れた「チヅル」という少女に一目ぼれした。
単に美少女というだけでなく、何というか、感受性の豊かさがにじみ出ているような、存在自体が初恋の思い出のような、キュンとさせる何かを持っている。目が離せない娘だと思った。
(そんな形容しかできないとか、お前は本当に作家か?というツッコミはナシでお願いしたい。本気でときめくとと、語彙力が追いつかなくなると俺自身が学んだ)
しかし相手は英明大の高等部の制服に身を包んでいるから、最年長でも18歳。少なく見積もっても16歳は年齢差があることは明白である。
恋してしまったからこそ、墓まで持っていく勢いで隠さなければいけない気持ちというのも、残念ながらあるのだ。
大下宇陀児『擬似新年』
◇◇◇
今回の設定
佐倉千弦 15歳
英明大附属高1年
学校近くの「カフェhinoki」でいつもカフェオレを注文
檜聡二 34歳
カフェhinokiオーナー 離婚歴あり
「杉村蓮」というペンネームで活動する小説家でもある
聡二は千弦の名前の音だけを知っていて、どんな漢字を書くのかが少しだけ気になっており、千弦は聡二の名前は知らず、「心の中だけでも名前を呼びたい」と思っています。つまり、まだそういう段階です。
◇◇◇
「お前はなろうと思えば何にでもなれたはずなのに、どうしてそうなった?」
実際にこんなぶしつけな質問を俺にするやつはいないが、俺は勝手に周囲からそんな声を拾いながら生きてきた。
名門私立6年制一貫校から、官僚を嫌というほど輩出している大学に入学。そこで千聖と知り合った。
俺は大学在学中に、ある文学新人賞で佳作入選した。
もちろん、それですぐにどうこうできるほど世の中甘くはないが、当時からやっていた家庭教師のバイトと文筆の仕事でそこそこ何とかなりそうと計算し、あとは嫌らしいが実家が裕福なこともあり、就職は考えていなかった。
というよりも、「作家である」という大義名分を得たことで、就職しなくてもいいと周囲に思わせればいいだろうというのが本音だった。
特段怠けたいわけではないが、しんどい生き方をしたくなかった。
対する千聖は、いわゆるキャリア志向だった。
となると、俺が家事をしながら仕事を続ければ、千聖を支えていけるだろうと気楽に考えてプロポーズし、大学卒業後にすぐ結婚した。
俺たちは甘い恋人たちというよりも、最も仲のいい友人同士だった。
息の長い付き合いができるだろう――と信じていた。
◇◇◇
6月4日。
俺の28歳の誕生日は5年目の結婚記念日でもあったが、俺はこの日、千聖から「別れたい」と切り出された。
千聖は、さも俺のためという空気を醸成するように、「あなたはまだ若いから、これからだって何かできると思うわ」と言う。
わけが分からずおろおろと「どういう意味だ?」と尋ねると、「あなたは私の犠牲になっていたのよね?もう解放してあげる」とも。
俺は自分で好きこのんでそのときの境遇に身を置いていたつもりだったのだが、千聖にはそれが根本的に理解できていなかったようだ。
大学や会社の同期、外野のエリートの皆々様から、俺の立ち位置的なものについて、何か言われたのかもしれない。
「君がそうしたいなら…」
快諾はしかねるものの、千聖が俺と別れたいと言うなら、その意志を尊重すべきだろうと思い、そう答えた。
千聖が「別れたいと思うほどの男」と暮らしていくのは地獄だろうが、俺の方は「最初から千聖がいない人生だったんだ」と思い込めばいい。
「あなたっていつもそうね!もういいわ」
俺は固辞したが、千聖は慰謝料100万円を押し付けるようにして、俺のもとを去った。
◇◇◇
何のことはない、俺以外に好きな男ができたのだなと知ったのは、その日から2年ほど経った頃、「千聖はアメリカ人の男と再婚し、ハワイで子育て中だ」という話を大学時代の友人から聞いたからだ。というより、どうやら口が滑ったらしい。
「離婚してから、2年も経っているんだ。もうただのよその女だろう?」
「ああ、別に気にしてはいないよ」
正直言って、本当にどうでもいいと思ってそう答えた。
別れて2年、一度も会っていないが、そうそう急展開でアメリカ人と知り合い、結婚して子供を産んで…とも考えにくい。
俺との別れ以前に、その男と何らかの出会いがあったのだろう。お互いあまり干渉しなかったのでよく覚えていないが、そういえば英会話を習いたいだか習うだか言っていたような気もする。
点と点がつながった気がして、なぜか可笑しくなった。
俺は30歳になったことだし、少し気分転換したいし…というノリで、カフェを開くことにした。
実家で幾つか持っている物件の一つを借り、住居もそこに移した。
マリンスポーツの趣味はないが、海を日常的に見ながらの生活も悪くない。
本業を圧迫しない程度の働き方なので、営業時間も短く、休みも安定はしないが、コーヒーの評判は悪くない。
アレンジメニューも幾つか出すようにしたら、近くの英明大学やその附属校の女の子たちもぼちぼち来るようになった。
そして34歳のとき、たまたま店を訪れた「チヅル」という少女に一目ぼれした。
単に美少女というだけでなく、何というか、感受性の豊かさがにじみ出ているような、存在自体が初恋の思い出のような、キュンとさせる何かを持っている。目が離せない娘だと思った。
(そんな形容しかできないとか、お前は本当に作家か?というツッコミはナシでお願いしたい。本気でときめくとと、語彙力が追いつかなくなると俺自身が学んだ)
しかし相手は英明大の高等部の制服に身を包んでいるから、最年長でも18歳。少なく見積もっても16歳は年齢差があることは明白である。
恋してしまったからこそ、墓まで持っていく勢いで隠さなければいけない気持ちというのも、残念ながらあるのだ。
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妹の仇 兄の復讐
MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。
僕、孝之は高校三年生、十七歳。妹の茜は十五歳、高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。
その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる