【R18】Jasmine 俺のカノジョはとびきり魅力的で――飛び抜けてインランらしい

あおみなみ

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第37話 空白の5分間【三人称語り】

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 その地区の小学校新入生の保護者達は、4月のうちは子供と手をつないで集団登校の集合場所まで出向いていた。
 全員集まるのに5分程度かかるので、その場で父親・母親同士が顔を合わせ、挨拶を交わし、情報交換をしたりする。まだ何かと不慣れな親たちにとっては、格好の社交の場でもあるのだ。

 5月、6月となると、「お母さん、こなくていいよ」などと言う子供もぼちぼち出てきたが、ある「母親」は、何となく習慣的に子供に付き添い、「娘」もそれを喜んでいた。

***

 その日、「娘」は1人で集合場所に来た。
 「母」が体調を崩して起きられなくなっていたからだ。
 父親が一緒に行こうかと声をかけたものの、「だいじょーぶだよ」と断られてしまった。
 しっかり者の娘は、父の出勤時間が母より早いことを知っていたので、気を使ったのだろう。

 いつもより早目に着いてしまった場所には、まだ誰もいなかったが、背後から「今日はお母さんは?」と声をかけられた。

 聞き覚えのないバリトンボイスに、「娘」は少しびくっと反応し、振り返ったが、全く知らない背の高い男がいた。
 自分の親よりは年上そうだが、(父方の)おじいちゃんよりは若い――と思われる年格好で、目つきが鋭い。

「俺はお母さんの友達なんだ。名前は――「おじさん」って呼んで」

 「娘」は学校でも家でも、「親の友達だと名乗る人に声をかけられても、ついていかないように」と指導されていたので、それぐらいで警戒を解いたりはしない。
 ただ、理路整然と言い返すには、やや語彙力が足りていなかった。

「お友達とか、うそ…」
「おじさん、お母さんのことなら知ってるよ。得意な料理とか、好きな花とか小説とかね。だから」

 「おじさん」と名乗るこの男は、傍から冷静に見れば、ただただ不審人物でしかないのだが、「娘」はこの飄々とした調子で「母」についてあれこれ話す男を見ているうちに、説明のつかない安堵感のようなものを覚えてしまった。その場にひとりで不安だったせいもあったろう。

「お母さん、ぐあいが悪くて寝ているの」
「そうなんだ?心配だね」
「うん。さんはどうなっちゃうのかな」
「学童って…保育園みたいなところ?」
「うん、いつもお母さんが来てくれるんだけど」

 男は少し置いてから「娘」に言った。

「あ、思い出した。今日は「おじさん」が頼まれて迎えに行くんだよ」
「本当に?」
「うん。友達だって言ったろう?困ったときはお互い様って言うんだよ」
「うふふ」

 「娘」が笑いながら、「パパとママもよくそれ言ってるよ」と言った。

「そうか。いいパパとママだね」
「うん!」

***

 そんなやりとりの後、三々五々にやってくる子供たちを見て、「じゃ、また後で」と言いながら男は去っていった。

 5年生で登校班副班長の女子が、「ねえ、今の人誰?」と興味津々で尋ねてきた。
 不審人物を警戒したわけではないようで、「俳優さんみたいに格好いい!」と、少し興奮気味に言った。

「おじさん、だって」
「おじさん?」
「お母さんの友達。お母さんのこと、何でも知ってるの」
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