一輪と花束

あおみなみ

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【終】でも彼なら「へえ、そうなんだ」って、すっと聞き入れてくれそう。

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 彼は『アルジャーノンに花束を』を読んだことがなかった。
 なぜだか、何となく意外な気がした。

 サン・ジョルディの日は、私も名前くらいは知っていた。確かに4月になると、本屋さんでよく見かける字面。
 バラ(絵だけど)をもらったんだから、やっぱり本をお返ししなきゃね。

 私は、母がストックしていた中で一番おしゃれな紙袋(洋服と小物のお店のらしい)をもらって、何度も読んだ『アルジャーノンに花束を』を入れた。

 何て言って渡そう?

「私が一番好きな本なんだ」が無難かな?

「本なんか滅多に読まないけど、これはよかったから…」とか?

 本を読むのは嫌いじゃないけど、物語はあまり好きじゃない。
 これ、意外と分かってもらいづらい。
 でも彼なら「へえ、そうなんだ」って、すっと聞き入れてくれそう。
 根拠とかはないけどね。

 もし彼がちゃんと読んでくれたら――そして気に入ってくれたら、また話題が一つ増える。

 たったそれだけのことなのに、どうして私はこんなに浮かれているんだろう。
 一歩前に進める感じが、うれしくて仕方ないのだ。

【了】
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