プロポーズ 「君は何を考えているか全然分からないから」

あおみなみ

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MEMENTO MORI

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MEMENTO MORI 死を 忘ることなかれ

◇◇◇

 私は「死んだ」という経験も記憶もないから、「死ぬ」ってことを具体的にイメージできない。

 身近でその旅立ちを目の当たりにした人たちは、みんな病気か老衰かだった。
 しかも、60歳より下の人は滅多にいない。

 交通死亡事故、水難事故で命を落とした、ストーカーにめった刺しにされた…など、あんまり想像したくない最期を迎えてしまった人たちのニュースをテレビで見ることがある。
 今までの生涯で一度も会ったことがない、そしてこれからお互い生きていても、会うこともなかったであろう人たちばかりだけれど、それでも思うところはある。

 苦しかった? 痛かった? それとも意外とあっけなかった?
 死ぬ前にどんなことを考えていたの?
「ああ、自分は死ぬな」と思ったのは、どの時点?
 絶対に答えは返ってこないけれど、下世話で無遠慮なインタビュアーになりきって、聞いてみたいことがたくさんある。

「車内に4遺体 練炭による集団自殺か」

 ネットで知り合ったらしい、当日まで全く面識がなかった人々の事件。
 こんなニュースの中で、小さな子供たちを残して死んだ母親の『私はあなたたちを産んで幸せだった』という遺書が取り上げられていたけれど…。ごめんなさい、何がしたいのか、私には全然わかんないや。
 自殺した母親も、これを報道したメディアもって意味ね。

 泣けって? 怒れって? 私にはどっちも無理だよ。
 その女性に、子供を残して集団自殺の輪に入るほどのどんな事情があったのか、残された子供がどんな気持ちなのか、想像することはできたとしても、理解することはできない。
 ただの想像で泣いたり怒ったりするのは傲慢というものだ。
 それでも、何かの意図をもってこういう報道をするメディアのことは、心の底から「ゲッスいなあ…」と思う。

◇◇◇

「夜の海って静かでいいな」
「そうだね(…っても、波音は結構やかましいけど…)」

 私はある夏の夜、和志かずしと2人で海岸にいた。
 雨は降っていないけど、厚い雲が空を覆っているみたいで、星は見えない。

 遊泳禁止区域だから、多分夏場の日中来ても、そんなに人はいないだろう。

 遊泳禁止区域というだけで、立ち入り禁止ではない。
 その気になれば、ここで入水自殺を図ることだってできるだろう。
 ざあ~ん、ずずっーと寄せては返す波を見て、あんまり朗らかでないことを考えてしまったのは、多分こんな連想からだったろう。

 といっても、私も、多分かずしも、まだ死ぬ気は全くないけど。
 あまり適切ではないけれど、単なる好奇心というか興味だ。

「ねえ…」
「ん?」

 和志が私を抱き寄せて、唇を重ねてきた。
「二人きりで、波の音を聞きながらキスしたい」という動機だけで、仕事が終わって疲れて帰ってきて、シャワーを浴びてビールを1本――を我慢し、15分車を走らせて海まで来ちゃう、それが彼という人間だ。
 口づけが深くなり、手はせわしなく、私の体の裏側をまさぐるように這う。

「…帰るか」
「そだね…」

 もっとカップルだったら、その場で愛し合ったり、車の中で【自主規制ピーッ】ってこともあるんだろうけれど、彼はそういうことのできない人だ。
 また15分車を走らせて彼の部屋に戻り、ベッドの上で絡み合う。
 明日は2人とも休みだから、裸のまま寝落ちするだろう。

 彼とは今のところ、半同棲っぽい間柄だ。
 いつかは正式に結婚して、周囲が私たちを「夫婦」というユニットとしてみなすようになって、どちらかが死んだ後の面倒事をお互いが何とかする、そんな関係に、なるかもしれないし、ならないかもしれない。

 今の率直な気持ちを聞かれれば、「そうなってもいいな」と答えると思う。

 けど世の中には、「あなたを世界一愛してる! 結婚したい! 自分たちの子供だけでバスケの対戦できるほどいっぱい産みたい!」とでも答えないと気が済まない男性というのが存在するので、疲れてしまう。

 付き合い始めて6カ月なので、彼がそういう男性でないという保証はどこにもないなと思っている、そんな段階である。
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