短編集「なくしもの」

あおみなみ

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インナーカラー

インナーカラー

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 コトブキ市に住む大学生のまなは、気分転換に髪を切ろうと思った。

 ついでに、憧れていた真っ赤なインナーカラーを入れて、ピアスの穴も開けようか…と思い、美容院を探そうと「インナーカラー ko」まで入力したら、「1、後悔 2、コトブキ市」の順番で補完語が出た。

 失敗することもあるし、リタッチも大変なので、やるんじゃなかったってなる人も多いらしい。

「そっか…だよね…」

 そこで冷静になり、自分が気分転換で髪を切ろうとしていたのかを思い出す。

 初見だとシンプルに「あい」と読まれるので、いちいち説明しなきゃいけないこの面倒な名前を自分につけた人。
 嫌いな玉ねぎを残したり、寒い日にミニスカートを履いたりするとガミガミうるさかったは、もういない。
 「インナーカラーを入れる」なんて言ったら、泣いて反対したかもしれない。

 そして愛は、入れようとしたのかもしれない。

「ねえ、あの耳障りな声で「やめなさい、みっともない!」って言ってよ」
「口応えさせてよお」
「いつもみたいに、人の話ろくに聞かないで「何ブツブツ言ってるの?」とか言ってよ!ねえ!」

 受け止める人のいない愛の言葉は、余韻も残さず次々と消えていった。

[了]
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