短編集「なくしもの」

あおみなみ

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根古柳四丁目2番15号

プロローグ

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 あれはたしか私が高校に入った年だから、10年ほど前のことだ。

 そういえば自分の通っている学校の「住所」なんて意識したことないなあ。ざっくりした地名で覚えているくらいだなあ――なんて思いつつ生徒手帳を見て驚いたこと。

 おばあちゃんが「かなり」元気だったこと。

 暑くも寒くもない日で、庭先の真っ赤なキョウチクトウが美しかったので、7月ぐらいだっけ?ということ。

 そして、あのとき老婦人の背後にあった、アレの箱のこと。

 トピックスはそのくらいかな。

 正直、目の前で何が起きているのか全く分からず、したがって言語化が難しいせいか、記憶まで薄れてきたのだけど、ひょっとして「今私はけっこう貴重な体験をしているかも…」という思いだけは強かったので、そんな私の話を聞いていただけたらうれしい。
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