短編集「なくしもの」

あおみなみ

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根古柳四丁目2番15号

ひとり暮らしのおばあちゃん

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 その頃の私は父、母、そして4歳年下の弟と、市の郊外で暮らしていた。つまり絵に描いたような核家族だ。
 といっても、同じ市内のもう少し中心市街地に近いところに、母方のお祖母ちゃんがいて、私と弟が小さい頃は、よく預けられていた。

 その3年前にお祖父ちゃんが死んだ後、お祖母ちゃんは大きな家に1人で暮らしていたので、私は時々泊まりにいったりしていた。
 賑やかなのが大好きな人だから、私と特に仲のいい友達をたまに連れていったりすると、お茶やらお菓子やらを大喜びで振る舞ってくれて、私たちが他愛もない話をしているのをニコニコ聞いていた。

「アヤちゃんのお祖母ちゃんって、いつもニコニコしてて、何かカワイイ人だよね」
「でっしょー?」
「うちなんか遠くに住んでて滅多に会わないけど、すっごい意地悪のクソババァだよ。交換してほしいくらいだよ」
「やだね、絶対あげないよ!」

 私は「彩乃あやの」という名前なので、友達からはアヤちゃんと呼ばれていたけれど、この名前は、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが考えてくれたものだ。

+++

 私がわざわざ友達を連れてお祖母ちゃんちに行ったのは、自慢のお祖母ちゃんを友達に会わせたいというのもあったけれど、実は私が入学した高校は、お祖母ちゃんの家から歩いて5分くらいと物すごく近所だからだ。
 レベル、校風、制服その他もろもろ気に入って受験を決めた「県立屋布やしき高校」だったけれど、無事合格したので、しょっちゅうお祖母ちゃんの家に立ち寄れるのは具合がよかった。
 お母さんに頼まれごとをされて行くこともあったけれど、「嫌なことがあったから話聞いて!」とか、「お腹減った。何かない?」というノリで行くことが多かった。

 高校とお祖母ちゃんちの間に、愛宕山あたごやまという名の中規模の公園がある。
 お祖母ちゃんは時々、この公園の中のあずまやで、お友達と日向ぼっこしながらおしゃべりしていることもあるので、私は必ずそこの様子を見てから、お祖母ちゃんを訪ねていた。
 お祖母ちゃんの友達は、私にとっても友達みたいなもので、小さい頃からの顔見知りだから、お菓子やみかんをもらったり、時には「これでアイスでも食わっせ[食べなさい]」と言って、ティッシュに包んだ1,000円札を渡してきたりするんだよね♪

 それにしても、どうしてお年寄りというのは、お小遣いを渡すとき、「これでアイスでも」って言うのかな?1月でも11月でもそう言うような気がするんだけど、気のせいかな。

+++

 私の記憶が確かならば、お祖父ちゃんは亡くなったとき70歳だった。だからそんなに高齢でもなかったけれど、60代の初めぐらいから、直腸がんの手術を受けたり、入院が多くなったり、いろいろと「不調」が出てきて、亡くなる直前には年齢よりもずっと老けて見えたし、何となく気弱な感じになっていた。

 お祖母ちゃんはお祖父ちゃんより4歳年上って聞いたから、ざっと計算すると、その当時77歳?平均寿命が年々延びている日本では、もう特に高齢ってわけでもないけれど、いわゆる後期高齢者の仲間入りはしていた。
 それでもシャンシャン歩くし、身の回りのことは大抵自分でできるし、元気そのもの。乳製品が好きで、骨もしっかりしていたらしい。

 お父さんが気を使って「そろそろお義母さんとの同居も考えた方がいいかな」なんて言っても、お母さんは「それがね、「別居で気楽にしているのが、元気と円満の秘訣だよ」なんて言われて…」と説明していた。
 私も弟の隆正たかまさもお祖母ちゃん大好きだし、同居も異議なしなんだけど、いざ一緒に暮らすとなると、それはそれでいろいろあるのかな。
 何にせよ、今のお祖母ちゃんとの関係や距離感は、とても心地のいいものだ。私は自分にできる範囲で、お祖母ちゃん孝行していきたいと思っている。

「お祖母ちゃんもいいけど、私たちへの親孝行は?
 成績アップでもお手伝いでもいいんだけど?」

 なーんてお母さんに言われたから、言ってやった。

「お母さんたちがもう少しお年寄りになったら、幾らでも孝行するよ。
 それに、お祖母ちゃんのお使いとかよく行ってるし、
 それだって間接的には「家の手伝い」みたいなものじゃない?」

 お祖母ちゃんのお使いは、「毛糸屋さんに水色の20グラムのレースを3玉」とか、「コーヒー屋さんにオリジナルブレンド100グラム」とか、「お肉屋さんでコロッケ三つ買ってきて。一つはアヤちゃんがおやつに食べてもいいよ」とか、「図書館の分館のオススメコーナーにある推理小説借りてきて。誰の作品でもいいよ」とか、妙に心ときめくフレーズが多いので、それで楽しみというのあったんだけどね。
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