短編集「なくしもの」

あおみなみ

文字の大きさ
7 / 26
根古柳四丁目2番15号

見覚えのある住所

しおりを挟む

 さて、お祖母ちゃん孝行の私めは、お使いだけでなく、時にはお出かけに同伴することもあった。

 その日はいつものように、何も考えないで行った。
 そうしたら、お祖母ちゃんはどうやらお出かけするところだったみたいで、「1時間、2時間くらいかな?お留守番してて」と言った後、「あ、せっかくだから、一緒に来てもらおうかね」と言い直した。

 それはどこかと聞くと、「行ったことはない」と言う。
 そして、「さっき電話で予約したから、4時半には行きたいのよ」と、メモ片を渡された。

根古柳ねこやなぎ四丁目2十五15って…あれ、うちの高校がある辺りの地名だよね」
「そうなんだよ。ひょっとして近くかね」
「うーん――あ、ちょっと待って」

 私は生徒手帳を出し、学校の住所を確認した。すると、「根古柳四丁目2番23号」と書いてある。ご近所もご近所、何なら同じブロックのようだ。

「ここって誰かの家なの?街区表示見ながらなら、行けそうだけど」
「普通の家だとは思うけど、多分看板出てるから、近所に行ったら分かると思うんだ」
「看板?」
「それにアヤちゃんの高校の近くなら、意外と知ってるかもしれないよね」
「多分知らないけど…でも――うん、一緒に行ってみる」

 私はちょっとした好奇心と、お祖母ちゃんが「行ったことはない」「よく分かっていない」場所に行こうとしていることに軽い警戒心を覚え、同行することにした。
 もし怪しげな場所だったら、私が注意することもできるしなんて、生意気盛りらしく、不遜なことを無意識に思ったのだと思う。
 ちょうどお年寄りを集めてミニ講演やらパーティーやらで関心を引いて、高額商品を売りつけるとかいう、「ナントカ商法」の話を聞いたことがあったし、少し心配だったのだ。

 住所と電話番号はちょっと癖の強い達筆で、数字も全部漢数字だった。お友達の紹介らしい。

+++

 まずは屋布高校の正門前まで行って、すぐ近所にあった大きな街区案内を見た。これで多分番地が分かるはずだ。

「ここが23だから、15は――あっちだね。多分この通りだ」
 私は北を指さした。
「やっぱりアヤちゃんは賢いね。お祖母ちゃんは地図見るのは苦手だよ」

 そこから何分も歩かないうちに、大きくて立派な家が目に入った。何と書いてあるかは近くまでいかないと見えないけれど、白い立派な看板が家の前に出ていた。道場か何かみたい。

「ここ…なの?」
 〇〇宗(仏教の宗派名)とか△△院管長とか書いてある。
「拝み屋さんっていうのかね。巫女みこさんだっけ?」
「えーと…つまり霊媒師れいばいしってこと?」
「そういう言い方もあるんだね」
 青森の恐山のイタコとかが有名だけど、こういう人、本当にいるんだ…。
 何とか商法じゃなかったけれど、これはこれで大分怪しい気がする。大丈夫なのかな。

+++

 中に入ってみると、玄関を上がってすぐリビングみたいな造りになっていて、そこでは2人の人が、ソファに腰掛けたり、カーペットの上にじかに正座したりして、麦茶を飲んでいた。玄関の開く音に一瞬少しだけ反応したが、特に私たちに関心はなさそうな様子が分かる。
 家の奥から穏やかな雰囲気の初老の女性がやってきたので、お祖母ちゃんが「予約した者ですが…」と名前を言った。

 大きな窓は開放され、とても風通しがよくて、特段怪しげな雰囲気もない。
 小さい頃少しだけ習っていたエレクトーンの教室が、やはり先生個人の家だったけれど、やっぱりこんなふうにリビングで順番を待っていたなあ、なんて思い出した。

 「拝み屋さん」はそんなに遠くないところでをしているらしく、ぼそぼそという聞き取れない声の合間に「キーッ」とかいう奇声が少し混じったりして、ちょっとだけ怖かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...