24 / 26
ピンバッジ
理想の夫婦
しおりを挟む
マシロはミドリに比べると、ややアウトドアを好む傾向にありました。
2人そろって外で楽しむといえば、友人同士や職場でのバーベキューくらいで、マシロが山野草の写真を撮りに山に行き、ミドリは映画館をはしごした後、カフェでブレンドを1杯だけ飲んで心地よいため息をつき、夕飯の席でお互いの1日の出来事を話す――そんな休日もよくあります。
子供は「いつかは欲しい」くらいの気持ちで、いざというときのための貯金以外は自然に任せることにしました。
◇◇◇
2人が結婚して3、4年経った頃、ミドリは職場の後輩に、「ミドリさんみたいになりたい」と言われました。
「えーっ、どうして?」
「だって、ダンナさんとの関係がすっごくいいなって思うんです」
「いい、って?」
「子供いないけど仲良しだし、関係がイーブンだし、ストレス少なそう」
「……」
自然の流れに任せようと決めたものの、子供ができないことを気にし始めていたミドリは、複雑な思いで後輩の言葉を聞きました。
「てか、こんなお先真っ暗の時代に子供とか要らないかなって思うから、その方が賢いかもですし」
「お先真っ暗って…“一寸先は闇”かな?」
「あ、それですそれです。震災とかも多いし、疫病も戦争もあるし、何があるか分かんないでしょ」
“あなたみたいになりたい”というのは、多くの人を幸せに殺すフレーズですが、尻すぼみのように暗い展開になって、昼休みの何気ない雑談が終わりました。
後々、「あの子、悪い子じゃないんだけど、ちょっとデリカシーないよね…」と同僚に言われ、ミドリは曖昧に薄く笑うしかできませんでした。
その場には妊娠6カ月に入ったスタッフもいて、その雑談が耳に入っていた可能性があります。
「悪気は一つもないだろうけど、周りが見えてないっていうか」
「いつも思うんだけど、それ“悪気がない”のが一番問題じゃない?」
「うーん…」
◇◇◇
ちょうどその時期、マシロはかなり忙しい部署に異動になっており、残業や休日出勤も増えていました。
「おかえりー。お仕事お疲れさま」
「ただいま。ミドリもいろいろお疲れさま」
家事は手際のいいミドリの方がもともと多く担当していたので、ミドリとしては、マシロが仕事を理由に全く家事をできなかったとしても、さほど負担が増えたとは思っていませんでしたが、こうしていたわり合い、声を掛け合うのも、2人が円満の秘訣でしょう。
それはそれとして、マシロは、趣味の写真撮影の時間がなかなか取れないことや、ミドリと一緒に休日をのんびり過ごせていないことを不満に思い、仕事の愚痴や、「疲れたー」と発する頻度も多くなってきました。
ミドリはそれを黙って聞き、時々相槌を打つだけです。マシロの愚痴が、「ひょっとしてそれは自業自得では…」と思うような理不尽な内容だったとしても、否定することもありませんでした。
2人そろって外で楽しむといえば、友人同士や職場でのバーベキューくらいで、マシロが山野草の写真を撮りに山に行き、ミドリは映画館をはしごした後、カフェでブレンドを1杯だけ飲んで心地よいため息をつき、夕飯の席でお互いの1日の出来事を話す――そんな休日もよくあります。
子供は「いつかは欲しい」くらいの気持ちで、いざというときのための貯金以外は自然に任せることにしました。
◇◇◇
2人が結婚して3、4年経った頃、ミドリは職場の後輩に、「ミドリさんみたいになりたい」と言われました。
「えーっ、どうして?」
「だって、ダンナさんとの関係がすっごくいいなって思うんです」
「いい、って?」
「子供いないけど仲良しだし、関係がイーブンだし、ストレス少なそう」
「……」
自然の流れに任せようと決めたものの、子供ができないことを気にし始めていたミドリは、複雑な思いで後輩の言葉を聞きました。
「てか、こんなお先真っ暗の時代に子供とか要らないかなって思うから、その方が賢いかもですし」
「お先真っ暗って…“一寸先は闇”かな?」
「あ、それですそれです。震災とかも多いし、疫病も戦争もあるし、何があるか分かんないでしょ」
“あなたみたいになりたい”というのは、多くの人を幸せに殺すフレーズですが、尻すぼみのように暗い展開になって、昼休みの何気ない雑談が終わりました。
後々、「あの子、悪い子じゃないんだけど、ちょっとデリカシーないよね…」と同僚に言われ、ミドリは曖昧に薄く笑うしかできませんでした。
その場には妊娠6カ月に入ったスタッフもいて、その雑談が耳に入っていた可能性があります。
「悪気は一つもないだろうけど、周りが見えてないっていうか」
「いつも思うんだけど、それ“悪気がない”のが一番問題じゃない?」
「うーん…」
◇◇◇
ちょうどその時期、マシロはかなり忙しい部署に異動になっており、残業や休日出勤も増えていました。
「おかえりー。お仕事お疲れさま」
「ただいま。ミドリもいろいろお疲れさま」
家事は手際のいいミドリの方がもともと多く担当していたので、ミドリとしては、マシロが仕事を理由に全く家事をできなかったとしても、さほど負担が増えたとは思っていませんでしたが、こうしていたわり合い、声を掛け合うのも、2人が円満の秘訣でしょう。
それはそれとして、マシロは、趣味の写真撮影の時間がなかなか取れないことや、ミドリと一緒に休日をのんびり過ごせていないことを不満に思い、仕事の愚痴や、「疲れたー」と発する頻度も多くなってきました。
ミドリはそれを黙って聞き、時々相槌を打つだけです。マシロの愚痴が、「ひょっとしてそれは自業自得では…」と思うような理不尽な内容だったとしても、否定することもありませんでした。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる