【R15】いなか、の、じけん~ハートは意外と頑丈だった

あおみなみ

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第12話 ふと立ち止まる【終】

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 結局久美は、よくも悪くもごく普通に大人になった。
 勉強したり、就職したりして、金を稼ぐ苦労や煩雑な社会的手続もそれなりに経験した。
 そんな中、当時の自分の母の心配や気苦労も一応理解はしたものの、やはり尊敬はできないし、手放しで愛を表現する気にもなれずにいる。

 年頃になって、それなりに異性からアプローチされたり、好きだと思った相手にこちらからアプローチして、うまくいったりいかなかったり。

 浮気は「した」経験も「された」経験もある。
 自分がしてしまったときは、「心が一番自分の自由にならない」ということ実感したが、されたときは、相手の言い分など一切聞かず、火がついたように泣きわめき、怒り、物に当たった。

 そして紆余曲折の末、結婚して子宝にも恵まれた。
 夫はよりによって「眼鏡をかけた細面の男(趣味はバイク、400ccライダー)」だったが、穏やかで、人の話をしっかり聞いてくれるところが気に入った。

 久美は妊娠したとき、意を決したように、「私、この子がどんなオカメちゃんでも、絶対に銀河系一の美女として扱うわよ」と夫に言ったが、「僕らの子供なら、銀河系一の美女に決まってるじゃん」と、長閑のどかな顔で楽天的な返答をされ、気が楽になった。

 人間、外見が全てとは言わないが、「外面は一番外側の内面である」と表現されることもあり、久美はこれを支持していた。
 「ブス」と一言言われただけで、人格を丸ごと否定されているように感じた経験が、久美の「銀河系一の美女」宣言につながっている。

 子供たちは2人とも女で、超美形というわけでもないが、外見も内面も、それなりに魅力的に成長した。

◆◆

 久美が成長過程、そして今現在も、自分の中の嫌な性質に気づくたび、「子供の頃、もう少ししっかり“女の子”扱いされていたら」「兄がもっと優しかったら」「あんな目に遭わなければ」「兄の所業を母に打ち明けていたら」と、いかんともしがたい「たられば」で物を考える癖だけは、自分でもどうしようもなかった。
 「ああ」でなかったら、自分はもっとすんなり素直な性格になり、今とはまるで別の人間のように生きていたかもしれない。

 そして、「ま、今さらどうにもならないけどね」と、前向きな諦めで気持ちを落ち着かせる。

 地味に辛い子供時代はまた別としても、これまで潜り抜けてきた人生はそう「いいこと」や「楽なことばかり」でもなかった。
 かといって、世をすねたままでいたり、絶望し切ったりするには、面白いことも美しいと感じることも多過ぎたのだ。
 幼い日、自分を励ましてくれた警官の言葉をかりれば、「いい経験で悪い記憶を追い出した」とでもいおうか。

 そのおかげで、たとえ負の感情が自分の中で支配的になったとしても、「うぬぼれるな。あんたはそこまでの人間ではない」とか、「そう卑下しないの。あんたって割とイケてるよ」と都度都度自分で自分を値踏みし、適正価格を設定し、心の平穏を保つことができた。

 久美はそういう意味で「普通の大人」になれた喜びを、日々かみしめているそうだ。

[了]
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感想 1

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みんなの感想(1件)

このユーザは退会済みです

前にも拝読させていただいたんですけど、この間「みずいろ」であんな感想書いちゃったでしょ?これがどなたかの実話だったら申し訳なかったですね。俺にも妹がいますんで。もちろん俺には、そんな気はないよ(笑)。

あおさんに対してリクエストするの控えようかな。「ユウコとアキ」は俺の為に書いてくれたものだと勝手に思ってますので。あの作品は俺にとって一番の宝物です。

「いなか、の、じけん」も作品としては本当、素晴らしいですよ。

2024.04.12 あおみなみ

いつもありがとうこざいます。

私は年齢の割に人生経験が乏しいのですが、
基本的にちょっとした実話を針小棒大に
捉えて表現することで、
辛うじて創作っぽさを出そうとしております。

だから逆にリクエスト大歓迎です。
いつも書けるとは限りませんが、
読みたいと少しでも思ってくださるなら、
書くしかないでしょう!てな感じで。

解除

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