「いち」の年 DECADE

あおみなみ

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謝らなくちゃ

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 部活が何時に終わるかは分からなかったが、8時頃電話をしてみた。
 
『はい、篠田です』

 第一声でカナエちゃんだと分かったけれど、念のための確認するつもりで言った。

「あの…私、小原っていいます…」

『ああ、アカリちゃん?どしたの?』
「あの、カナエちゃん、ごめんね。今日の掃除の時間、花瓶割っちゃって…」
『ああ、いいよ別に。形あるもの必ず壊れるってじいちゃんも言うし』

 これは、おじいさんの普段からの口癖なのか、「花瓶を割った子がいる」と報告した結果なのか、その両方なのか、よく分からない。
 私はカナエちゃんと違って「ビビりの気にしい」なので、電話口のやりとりだけで、そんなふうに悶々としてしまった。とにかくカナエちゃんが「許してくれた」ことは間違いないようだ。

「そうだね…でも完全に私の不注意だったし」
『気にし過ぎだって。もっと気楽にしなよ!』

 カナエちゃんの明るい声を聞いていると、自分はなんとウジウジした人間なのだと、なお自己嫌悪に陥っちゃう。
 それこそがカナエちゃんが「いい子」であることの証だと思った――思い込もうとした。

『ボクが似合わない女っぽいことやったから、罰当たったのかな』
「そんな!」
『冗談だよ、ハハッ』

 カナエちゃんはずっと笑っていたけれど、「罰が当たった」という言葉を使った。
 単なる言葉えらびのミスなのか、花瓶が割れたことを気にしているという本音が出たのか、そのあたりは分からない。

(やっぱり――私はカナエちゃんが嫌いだ…)

 うまく言えないけれど、そう感じた。

◇◇◇

 翌朝、また花田君から、「ちゃんと電話したか?」と声をかけられ、私はちょっとつっかえて、「う、うん」と答えた。
「あいつ、笑って許してくれたろ?」
「まあね…」
「時々きついことも言うけど、さっぱりしてて本音で話すやつだからな」
「そう、だね」

 後々、「花田君って絶対カナエちゃんのこと好きだよね」という、想像はしていたが一番聞きたくない情報が耳に入ってきた。

 言いたいことも言えず、ウジウジ思い悩む自分と、サバサバした態度には定評のあるカナエちゃん。勝負にすらならない。

 花田君がカナエちゃんを好きだという事実と、カナエちゃんの「罰が当たった」という言い方。
 自分が本当に傷付いたのは、どちらに対してだろう?。
 誰に聞いても正解が出そうにない悩みが増えちゃった。
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