2 / 4
ペアチケット
しおりを挟む
史雄は家が割と裕福なのと、本人があまり精力的でないことが手伝い、大学を卒業後、適当にアルバイトをしている身だった。
専門学校の学生で、1年のうちはアルバイトをせず勉強に打ち込めと親から言われていたみすずは、自由に使える小遣いが少ないので、「デート」(といってよければ)費用は全て史雄が負担することになる。
そんな事情もあって、ホテル休憩の数千円の利用料、ビデオレンタル料で済むのは好都合だと考えていたし、みすずも多くは望まなかった。
史雄がみすずに要求する負担といえば、ホテルに行く前に立ち寄ったスーパーやコンビニで、「自分の食べたいおやつは自分で買ってね」と言う程度である。
◇◇◇
そんな中で、みすずは学校の同級生である麻子から、映画のチケットを2枚もらっていた。
正確にいえば、1人分の料金が割安になるペア券だが、どちらも自分で使うつもりだったらしい。
もともとは、その映画の主演俳優が好きだった彼女が早いうちから買い、封切を楽しみにしていたものだったが、家の事情で退学して故郷に帰ることになってしまったという。
事情を知り、せめて買い取りたいと言ったみすずに、「ううん。みすずちゃんって彼氏とよく映画見にいくんでしょ?私の代わりに楽しんできてよ」と、麻子は押し付けるように渡してきた。
全国で使えるチケットならよかったのだが、劇場限定のチケットだったので、「映画のためだけに東京に出てくるのは無理そうなんだよね」と、無理してつくったような笑顔を向けられると、断る理由もなかった。
「じゃ、お言葉に甘えて…。ありがとう」
「こっちこそだよ。仲良くしてくれてありがとね」
後から手紙に映画の感想でも書きたいと思い、住所を尋ねた。
しかし、「それがさ…引っ越すことは決まってるんだけど、まだいろいろバタバタしてて。落ち着いたら私から書くね」ということなので、(思ったより複雑な事情を抱えてそう…)と、みすずはそれ以上追及できなかった。
わずかな間だが親しくしていた麻子からもらったチケットは、ほんの数グラムの、ミシン線の入った紙切れだったが、みすずには重く感じられた。
専門学校の学生で、1年のうちはアルバイトをせず勉強に打ち込めと親から言われていたみすずは、自由に使える小遣いが少ないので、「デート」(といってよければ)費用は全て史雄が負担することになる。
そんな事情もあって、ホテル休憩の数千円の利用料、ビデオレンタル料で済むのは好都合だと考えていたし、みすずも多くは望まなかった。
史雄がみすずに要求する負担といえば、ホテルに行く前に立ち寄ったスーパーやコンビニで、「自分の食べたいおやつは自分で買ってね」と言う程度である。
◇◇◇
そんな中で、みすずは学校の同級生である麻子から、映画のチケットを2枚もらっていた。
正確にいえば、1人分の料金が割安になるペア券だが、どちらも自分で使うつもりだったらしい。
もともとは、その映画の主演俳優が好きだった彼女が早いうちから買い、封切を楽しみにしていたものだったが、家の事情で退学して故郷に帰ることになってしまったという。
事情を知り、せめて買い取りたいと言ったみすずに、「ううん。みすずちゃんって彼氏とよく映画見にいくんでしょ?私の代わりに楽しんできてよ」と、麻子は押し付けるように渡してきた。
全国で使えるチケットならよかったのだが、劇場限定のチケットだったので、「映画のためだけに東京に出てくるのは無理そうなんだよね」と、無理してつくったような笑顔を向けられると、断る理由もなかった。
「じゃ、お言葉に甘えて…。ありがとう」
「こっちこそだよ。仲良くしてくれてありがとね」
後から手紙に映画の感想でも書きたいと思い、住所を尋ねた。
しかし、「それがさ…引っ越すことは決まってるんだけど、まだいろいろバタバタしてて。落ち着いたら私から書くね」ということなので、(思ったより複雑な事情を抱えてそう…)と、みすずはそれ以上追及できなかった。
わずかな間だが親しくしていた麻子からもらったチケットは、ほんの数グラムの、ミシン線の入った紙切れだったが、みすずには重く感じられた。
5
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる