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告白【3】
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次は慧が手を挙げた。
彼はいまだに中学生と間違われるほど童顔で小柄なため、「映画の入場料をごまかしたことがある」と、恥ずかしそうに言った。
「でも、そういうのって詐欺になるんじゃないの?」と、万引き英輔に少し厳しく言われたが、「本気で金ないときだけだよ」と反論した。
「いや、金ないときに映画とか見にいくなよ」
「どうしても封切見たくて……でも、滅多にやらないよ」
「生徒手帳とか、身分証明するもの出せって言われないの?」
「忘れたっていうと、意外と見のがしてくれる。めちゃくちゃ厳しい人だと駄目だろうけど」
そんな流れの中で、由樹子は「ユッコちゃんもその手、使えるんじゃない?」と、可南美にからかい口調で言われたが、そんな発想すらなかったので、返答に困り、たじろいでしまった。
***
そんな由樹子を特に気にする様子もなく、「じゃ、次は私ね」と可南美が話し始めた。
「私、売春しかけたことがあるんだよね」
この当時はまだ「援助交際」や「パパ活」という言葉はなく、「売り」や「売春」といった露骨な表現をすることが多かった。
可南美は地方の女子高出身だが、偏差値はそこそこ堅いものの、意外と遊び人が多く、中には「おじさんと遊んだお金で服買ったり、友達におごったり……」という子もいるという環境だったようだ。
「ちょっと派手目の子だと、実態はどうでも「多分ウリやってる」みたいにうわさ立ってさ。私もその一人だったみたいで」
可南美は顔立ちが大人っぽい美人系で、佐恵や由樹子よりも派手に見えるタイプだが、根は真面目で人当たりのいい普通の子だ。
しかし、広い交友関係の中には、若干きな臭い人物とつながりのある子もいた。
そんな1人に、「可南美ちゃんの写真見せたら紹介してって言ってる人がいてさ」と声をかけられた。
当時の可南美には彼氏はいなかったが、特に欲しいとも思っていなかったので、その声がけ自体にはあまりそそられなかったものの、「いいレストランで食事して、欲しいもの買ってくれるって。別にお付き合いまで考えなくていいよ」と言われ、暇と好奇心から話に乗った。
相手の顔も知らなかったが、(知り合いの大学生ってところだろう……)と思いながら待ち合わせ場所に行ってみると、スーツを着た40歳くらいに見える男性だったので面喰ってしまった。
「道理で「化粧して、できるだけ大人っぽい服着てきて」なんて言われたわけだと思ったよ」と可南美は思い出して苦笑する。
といっても、男性は清潔感があって感じがよく、聞き取りやすい言葉でしっかりと話す。
年上過ぎて、かっこいいかどうかはよく分からないが、自分の父親よりは男前だと思った。
(食事くらいならいいかな?)と思っていたら、できたばかりのイタリアンレストランに連れていかれた。
ピザやスパゲティくらいしか食べたことのない舌でも、「イカのスミ煮をちっちゃいトーストに載せたやつ」や、「なんかマリネっぽいやつ」や「豚肉に何かつけて焼いたやつ?」は美味しかったし、話題が豊富なので、会話も楽しかった。
「で、調子に乗って勧められたワインとか飲んでたんだけど……」
そこで男は唐突に、「君なら3万――いや、5万出してもいいかな」と言い出した。
「さすがにさーっと酔いが醒めたよね。こっちとしては、普通に食事してただけだもん」
可南美はすばやく危機を察知し、「あのお、お化粧直してきていいですか?」とトイレに立って、そのまま逃げたということだ。
「うわ、間一髪だったね」と佐恵が言った。「でも、その後大丈夫だったの?」
不思議なことに、連絡先すら交換していなかった男自身はもちろんのこと、デートをセッティングした友人からも何も言われなかった。
後で分かったことだが、男は市議会議員(38歳・2期目)だったらしい。
可南美が住んでいるエリアからの選出ではないから、街角に貼られた看板やポスターでお目にかかることもなかったし、女子高生は選挙公報など見ないから、なじみのある顔ではなかったようだ。
そんなバックもあってか、深追いは危険だと判断したのではないか――と、可南美は勝手に想像した。
結果的に男が犯した「罪」は、未成年の可南美に酒を勧めたことくらいだろう。
「って、未成年が6人そろって酒飲んでる席で言うのもアレだけどさ」
「そりゃそうだ。でも、ああいうのってその場に成人がいたら、その人が罰せられるんだよな?出した店とかも」
「分かんないけど、そうなんじゃない?」
***
大人っぽい遊び人に見える可南美らしい暴露が終わったところで、文也が名乗り出たが、「俺はまあ、筆おろし先が教育実習のおねーさんだった、くらいの話かな」と、一言で終らせようとした。
英輔に「お前そういう話、どうせ友達に自慢しまってたろう?秘密でもなんでもないだろ」と見透かされた。
その話が秘密かどうかよりも、「状況描写」のほうがおいしそうな話ではあるが、「でも、さすがに女子の前じゃ……」ということになり、後日、女子禁制の場で披露することになったらしい。
由樹子たちは、どこかはぐらかされたようなものを感じつつ、それ以上は追及しなかった。
「さて、大トリは由樹子か。こういうおとなしそうな子に限って、すごいの持ってそうだよね」
優男で女子受けのいい顔立ちの文也が、少し下卑た表情が浮かべて言った。
彼はいまだに中学生と間違われるほど童顔で小柄なため、「映画の入場料をごまかしたことがある」と、恥ずかしそうに言った。
「でも、そういうのって詐欺になるんじゃないの?」と、万引き英輔に少し厳しく言われたが、「本気で金ないときだけだよ」と反論した。
「いや、金ないときに映画とか見にいくなよ」
「どうしても封切見たくて……でも、滅多にやらないよ」
「生徒手帳とか、身分証明するもの出せって言われないの?」
「忘れたっていうと、意外と見のがしてくれる。めちゃくちゃ厳しい人だと駄目だろうけど」
そんな流れの中で、由樹子は「ユッコちゃんもその手、使えるんじゃない?」と、可南美にからかい口調で言われたが、そんな発想すらなかったので、返答に困り、たじろいでしまった。
***
そんな由樹子を特に気にする様子もなく、「じゃ、次は私ね」と可南美が話し始めた。
「私、売春しかけたことがあるんだよね」
この当時はまだ「援助交際」や「パパ活」という言葉はなく、「売り」や「売春」といった露骨な表現をすることが多かった。
可南美は地方の女子高出身だが、偏差値はそこそこ堅いものの、意外と遊び人が多く、中には「おじさんと遊んだお金で服買ったり、友達におごったり……」という子もいるという環境だったようだ。
「ちょっと派手目の子だと、実態はどうでも「多分ウリやってる」みたいにうわさ立ってさ。私もその一人だったみたいで」
可南美は顔立ちが大人っぽい美人系で、佐恵や由樹子よりも派手に見えるタイプだが、根は真面目で人当たりのいい普通の子だ。
しかし、広い交友関係の中には、若干きな臭い人物とつながりのある子もいた。
そんな1人に、「可南美ちゃんの写真見せたら紹介してって言ってる人がいてさ」と声をかけられた。
当時の可南美には彼氏はいなかったが、特に欲しいとも思っていなかったので、その声がけ自体にはあまりそそられなかったものの、「いいレストランで食事して、欲しいもの買ってくれるって。別にお付き合いまで考えなくていいよ」と言われ、暇と好奇心から話に乗った。
相手の顔も知らなかったが、(知り合いの大学生ってところだろう……)と思いながら待ち合わせ場所に行ってみると、スーツを着た40歳くらいに見える男性だったので面喰ってしまった。
「道理で「化粧して、できるだけ大人っぽい服着てきて」なんて言われたわけだと思ったよ」と可南美は思い出して苦笑する。
といっても、男性は清潔感があって感じがよく、聞き取りやすい言葉でしっかりと話す。
年上過ぎて、かっこいいかどうかはよく分からないが、自分の父親よりは男前だと思った。
(食事くらいならいいかな?)と思っていたら、できたばかりのイタリアンレストランに連れていかれた。
ピザやスパゲティくらいしか食べたことのない舌でも、「イカのスミ煮をちっちゃいトーストに載せたやつ」や、「なんかマリネっぽいやつ」や「豚肉に何かつけて焼いたやつ?」は美味しかったし、話題が豊富なので、会話も楽しかった。
「で、調子に乗って勧められたワインとか飲んでたんだけど……」
そこで男は唐突に、「君なら3万――いや、5万出してもいいかな」と言い出した。
「さすがにさーっと酔いが醒めたよね。こっちとしては、普通に食事してただけだもん」
可南美はすばやく危機を察知し、「あのお、お化粧直してきていいですか?」とトイレに立って、そのまま逃げたということだ。
「うわ、間一髪だったね」と佐恵が言った。「でも、その後大丈夫だったの?」
不思議なことに、連絡先すら交換していなかった男自身はもちろんのこと、デートをセッティングした友人からも何も言われなかった。
後で分かったことだが、男は市議会議員(38歳・2期目)だったらしい。
可南美が住んでいるエリアからの選出ではないから、街角に貼られた看板やポスターでお目にかかることもなかったし、女子高生は選挙公報など見ないから、なじみのある顔ではなかったようだ。
そんなバックもあってか、深追いは危険だと判断したのではないか――と、可南美は勝手に想像した。
結果的に男が犯した「罪」は、未成年の可南美に酒を勧めたことくらいだろう。
「って、未成年が6人そろって酒飲んでる席で言うのもアレだけどさ」
「そりゃそうだ。でも、ああいうのってその場に成人がいたら、その人が罰せられるんだよな?出した店とかも」
「分かんないけど、そうなんじゃない?」
***
大人っぽい遊び人に見える可南美らしい暴露が終わったところで、文也が名乗り出たが、「俺はまあ、筆おろし先が教育実習のおねーさんだった、くらいの話かな」と、一言で終らせようとした。
英輔に「お前そういう話、どうせ友達に自慢しまってたろう?秘密でもなんでもないだろ」と見透かされた。
その話が秘密かどうかよりも、「状況描写」のほうがおいしそうな話ではあるが、「でも、さすがに女子の前じゃ……」ということになり、後日、女子禁制の場で披露することになったらしい。
由樹子たちは、どこかはぐらかされたようなものを感じつつ、それ以上は追及しなかった。
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