町のユキコと田舎のユキコ

あおみなみ

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ユキコの告白

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「私、本当になくて……だから、実行はしなかったけど想像しちゃったことでもいいかな?」
「なになに?殺人計画とか?」
「そうじゃないけど……ええとね……」

***

 由樹子は高校2年のとき、本気で好きになった男がいた。
 たまたま書店の文庫本コーナーで小説を物色していたら、「随分熱心だね。本好きなの?」と声をかけてきた。

 由樹子はナンパされた経験がなかったので、少し警戒した。
 推定身長170センチの中肉中背で、飛び抜けて美形ではないが、優しげでさわやかな笑顔。
「悪い人ではなさそう」程度の印象は、簡単に作られた。

 その後、流れで一緒に喫茶店に行き、「可愛い子だなって思って、思い切って声かけたんだよ」と言われた。
 お互いひとしきり自己紹介的な話をした後、連絡先の電話番号を渡された。

 その日はその程度だったが、4度目に会ったとき、「うちに来いよ」と、一人暮らしのアパートに誘われた。

 男の年齢は8歳年上で、既に大学を卒て働いていた。だから「俺もう働いてるし、もし妊娠しても責任取るから」と無責任に言い、彼女の「初めて」をサラリと奪った。

 「初めてのときは、ナマでお前を感じたいから」という理由で避妊もしなかったので、本当に妊娠するのでは?という懸念はあったものの、幸か不幸か妊娠はしなかった。

 男に溺れた由樹子は、そのうち「学校をやめて彼と結婚したい」と本気で考えるようになった。
 成績が停滞気味で、少し破れかぶれになっていたことも無関係ではなかったが、自分はこの恋に真剣なだけだと思い込んでいた。
 親に嘘をついて外泊しようとしたり、深夜に及ぶ長電話をしたりで、家族からはしきりに注意された。
 時には二人の関係について、かなり際どい質問をされ、挑戦的に「ゴソーソーニオマカセシマース」と笑いながらはぐらかしたこともある。

 服装や容姿の変化こそなかったが、うちの娘(孫)は、不良になってしまったのではと、大人たちはおろおろするばかりだった。

 一方、徐々に冷静になり、惰性で由樹子を抱くようになった男は、逆にきっちり避妊するようになった。
 それだけでなく、どこか冷たくよそよそしい態度を取るようになっていった。

 正直この告白だけで、その「由樹子らしくなさ」が十分に衝撃的だが、なんと由樹子はこの前提の部分を「人間関係で悩んでいて」の一言でひっくるめて話し始めた。

***

「どうしても学校をやめたくて、親を納得させるだけの理由っていうか口実が欲しくて」

 そこで由樹子は何を思ったか、「校内で教師にされた」という事件をでっち上げ、「そのショックで学校をやめる」という方向にもっていくことにした。

 何とかターゲットの教師と二人きりの状況に持ち込み、自分で自分の服を引きちぎって大声を上げる――程度のラフデサッンを描いた。少しのがあれば、楽に実行できそうだと思った。

 正直誰でもよかったが、かといって全く罪のない「いい」教師を陥れるのでは、良心の呵責かしゃくにさいなまれそうだ。

 由樹子がねらいを定めたのは、「ブラジャーの色は肉色(ベージュやピンクか?)以外認めない」という名言ならぬ迷言をもって生徒の服装指導をしたことで、生徒たちから「気持ち悪い」「変態」とすこぶる評判の悪い、40代の社会科教師だった。

 人畜無害そうな外見で、たいていの生徒の第一印象はそう悪くなかったのに、「肉色」の一言で大いに嫌われた彼のことだ。多分、「あいつならやりかねない」とみんな思うだろう。
 ということは、私(由樹子)が騒ぎを起こすことで、くだんの教師も学校を去るかもしれない(いやむしろ、そうあってほしい)。

 (そして、ショックから立ち直れない私は学校をやめ、大好きな男性の若い花嫁になれる)

 由樹子はそんな妄想をめぐらせたが、もちろん実行はできなかった。

 男はほんの数カ月で由樹子に飽きて浮気をし、結局は別れることになったし、由樹子が3年生になるタイミングで、社会科教師はごく普通にほかの学校に転任した。

「本当にばかなこと考えたなあって思うよ。うまくいくわけないしね」

 由樹子は自嘲気味に笑ったが、その場の5人の顔は引きつっていた。
 正直、彼女が想定していたリアクションではない。

「想像とはいえ意外とやるね」「そういうエロ教師、うちの学校にもいたー」

 こんな声を想像していたが、みな無言である

 そして一呼吸置いた文也が、「お前って最低だな。実行するとかしないとかの問題じゃないだろ?」と、かなり怒気を含んだ調子で言った。

「え?」
「そういうの、冤罪えんざいっていうんだぞ。その教師には何の罪もないんだから」
「あの……実行したわけじゃなくて……」
「学校なんか、やめたきゃ勝手にやめろ。人間関係に悩んでたって?
いっそお前が自殺でもすればよかったんじゃないか?」
「ちょ、文也。さすがに言い過ぎだよ!」

 佐恵にたしなめられて冷静になった文也は、ぐっとこぶしに力を入れながら、それでも由樹子に詫びようとした。

 しかし由樹子はその声を聞くこともなく、自分のバッグをひっつかんで、英輔の部屋を飛び出した。
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