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第16章 エンディングβ
同級生の「斉木君」
しおりを挟む翌日、日高君は私の家に朝早く来た。
私はまだご飯の最中だったけど、ママが日高君に「じゃ、お茶でもどう?」って言いながら、焼き立てスコーンを勧めた。
「これもうまいっすねえ」と、結局私の朝食の分量ぐらいぱくばく食べる。
あんなに細いのに、一体どこに入ってるんだろう。
遅刻こそしないものの、朝は苦手だと言っていたので、「早起き頑張ったんだね」と言ったら、「斉木に先を越されるかもしれないからな」と、晴れ晴れとした顔で言った。
「…レイはうちに迎えに来ることなんてないよ」
「え?意外」
「私が家を出ると、大体前の通りで顔を合わせるの。登校タイミングが一緒みたい」
「はーん。それ、絶対お前に合わせてんじゃないの?」
「え、何でそんなまどろっこしいことをするの?」
「そりゃ、お前に気を使わせないためだろ?想像つくよ」
「……」
「まあ、いいじゃん。そういうことなら明日はもっとゆっくり来るよ」
「…明日は私から行くから待ってて。通り道だし」
「やったね。登校デートだ!」
こういうことを包み隠さず言ってしまうのも、彼のいいところなんだろうけれど、私、ちゃんとこの人のこういうところについていけるかな?
その日の朝は路上でレイに会うことはなかった。
私たちが教室で落ち着いた頃、レイは教室に入ってきた。
「おはよう」と声をかけると、「おはよう」と返してくれるけれど、それ以上会話はない。
それは部活でも全く同じだった。
彼とこんなに口を利かないのは、小学校高学年のほぼ接触がなかった時期と、合宿や東京に行っていた間だけかもしれない。
一番ショックだったのは、部活後、塾がないのにさっさと1人で帰り支度を始め、
「さよなら、桐野さん」と、ほぼ顔も見ずに言ったことだった。
でも多分今の私には、ショックを受ける資格もないんだと思う。
◇◇◇
あいさつ以外の会話をレイと交わさないまま3学期を過ごし、気づけば彼は3年生になると同時に、東京のご親戚の家に行ってしまった。学校はもちろん転校。
母方の親戚(お母さんのお兄さんの家)だから、両親が離婚した今、関係は他人と変わらないが、「ああいう理由で離婚することになった妹」の子供への負い目からか、受け入れてくれたということだ。
「まあ、要するに居候よ。高校生になったらひとり暮らしもいいかなって言っているけど」
3月末、明日香さんが大学のそばのアパートに引っ越す前に顔を合わせたとき、教えてくれた。
「レイとまつりちゃんが付き合ってくれたらうれしいなって思ってたけど、こればかりは本人同士のことだしね」
レイは単純に「彼女は今、同じ部活のやつと付き合っている。いいやつだよ」とだけ明日香さんに話したらしい。
◇◇◇
私と日高君は、塾で励んだかいもあり、3年生になると、それぞれ50位以内に入ったり入らなかったりというレベルで安定してきた。
優香と同じ片山暁高校の受験も少し考えたけれど、日高君と2人で市立高校を受験しようと相談している。
ここは私服校なので結構人気があるし、競争率も高いけど、とにかく頑張らないと。
喜多川君は南高か市立高かでまだ迷っているようだ。
「お前らと同じ学校に行きたいけど、邪魔してもアレだしな」などとからかわれる。
穏やかに、しかしにぎやかに日常を過ごしながら、何をしても、どんな話題になっても、「レイだったらこんなとき」「レイはどう考えるだろう?」って思う癖はまだ抜けていない。口に出さないだけだ。
レイはどこに行ってもみんなから好かれるし、興味を持たれる人だと思う。
東京の高校に進学して、多分そのまま東京(というより、ここではないどこか)の大学に行って、もう二度と戻ってこないかもしれない。
それでも何かの折に帰省などして、もし顔を合わせてしまったら、私はもう「幼馴染のまつりちゃん」ではなく、「クラスメートだった桐野さん」の顔をしなくちゃいけない。
◇◇◇
私は今、とても満たされている。
勉強を頑張れば行きたい高校に行ける環境があって、いい友達がいて、時々けんかもするけれど、好きなことを言いあえるカレシがいて、楽しく過ごしている。
この街にはおいしいスイーツもたくさんあるし、実りの季節には新鮮な果物も簡単に手に入られるんだけど、今でもメディアや SNSなんかで、うちの県の悪口を言う人が有名無名問わず結構いる。
「放射能汚染地で無理しちゃってかわいそう」とまで言う人もいる。
そういう人たちにとって、この土地の食べ物はぜんぶ毒物らしいが、私たちから見ると、情報のアップデートに失敗し、おいしいものを食べ損ねているかわいそうな人たちでしかない。
レイのお母さんもその1人だから、この言葉を絶対使いたくなかったんだけど、正直「闇落ちしちゃった人」くらいに思っていたりする。
東京に行ったレイ――じゃない。「斉木怜君」が、そんな人たちに嫌なことを言われていたらと思うと、心配できる筋合いじゃないんだけど、やっぱり時々心配になる。
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