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第45章 「あんな大輔さん、見たくない」【メグと大輔】
自主トレ中の英明大附高陸上部員【メグ】
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とかく、痴話喧嘩と申すものは、仲がよいと、始まりやす。
直木三十五『南国太平記』
◇◇◇
まさかこんなところで会うとは思わなかった。
まあウチの近所ってことは、英明も近所なんだから、会っても不思議はないんだけど。
「カイ…」
「よお…」
さすがに彼も、きまり悪そうな顔をしている。
私は大輔さんとしっかり手をつなぎ、いつものように海岸を散歩していた。
「誰だ?」
なぜか大輔さんはつないでいた手を離し、私の肩を抱き寄せた。
こういうのも初めてではないけれど、さすがにクラスメートの前でされるのは恥ずかしい。
「あの…クラスメートの貝沼君です」
大輔さんと付き合う前、私はカイと付き合っていたが、カイに振られる形で2年の交際が終わった。
そのことは大輔さんも知っているけれど、名前までは教えていない。
「クラスメートの」とだけ紹介して、あとは深く突っ込まれないことを祈る。
「そうか。俺は大倉大輔。東京の玉成学園高校の3年だ」
「あ、ども…貝沼です」
私はカイが部活のジャージ姿で1人でいることが気になって、「ここで部活なの?」と尋ねた。
「いや、今日は休みだが自主トレだ。じゃな」
気を使ったらしい彼がくるっと背を向け、私たちから遠ざかろうとしたので、ジャージの背中の「英明大附属陸上競技部」というロゴが確認できた――確認、できてしまった。
「陸上部か。なるほどな。あれがお前の元カレか」
さすがに勘のいい大輔さんは、それだけで察してしまったようだ。
私も観念して、「そうです…」とだけ答える。
「今日は少し肌寒いな。俺たちも場所を移動しようか」
◇◇◇
いつものようにママのお店かウチに誘おうと思ったら、手を引っ張るようにして神社に連れて行かれた。
私たちが毎年、二年参りに来ているところで、去年の暮れは大輔さんも私たちに合流するようになった。
檜先輩は、4年前に偶然(本当に偶然かはともかく)ここで会って以来、翌年からは私たち母娘と一緒に参拝するのが恒例になっている。
だから、おなじみといえばおなじみの場所なんだけど、中途半端な時期の小さな神社には人もいない。要するに「そういう場所」で話したかったようだ。
「お前あいつと付き合ってたのか。チビだし女みたいな顔してるな」
そうかもしれないが、わざわざひと気のない神社まで連れてきてする話とは思えない。
「で、部活の成績もパッとしないんだよな?自主トレったって、ポーズだけじゃ…」
大輔さんは本音できつい物言いをするけれど、人をやたら見下したり、悪口を言ったりする人ではない。
初対面で、多分檜先輩から聞いたであろう情報でしか知らないカイのことを、やたらあしざまに言うのがちょっと癇に障って、ついつい言い返してしまった。
「強豪チームの部長だった大輔さんから見たらアレかもしれませんけど、努力している人にそんな言い方しなくても…」
「なんだそれは、皮肉か?」
「どうしてそうなるんですか!そんなこと言ってないでしょう?」
大輔さんの先代の部長に当たる兵部さんという人は、テニスの実力の確かさだけでなく、とにかく存在感があって華やかで、何かと話題になる人だった。
大輔さん自身も既に部活は引退していたけれど、部長を務めていた1年間は、何かと兵部さんと比べられることが多く、きっとそれなりに嫌な思いもしていたのだろう。
「努力しても結果につながらないなら、足りないか方法が間違っているかだろう?努力していること自体は褒めるほどのことでもない」
「でも…」
「何だよ、俺よりも元カレの肩を持つのか?あんな貧弱で女みたいなやつ」
「“女みたい”って言いますけど、私だって女ですよ?」
「それはそうだ。俺は異性愛者だからな」
「そういうことじゃなくて、女って言葉を悪口に使うのが不愉快だって言っているんです」
「お前がそんな堅苦しいフェミニストみたいなことを言うなんて、がっかりだな」
「フェミニストだろうがなかろうが、悪く言われて愉快な人なんていません」
多分いつもの軽いケンカだったら、ここで大輔さんがわびていただろう。
自分で言うのもナンだけど、これ「正論」だと思うし、大輔さんも正論を支持する人だ――と思う。
でも、この日はそう易々とは収まらなかった。
「…もういいよ、俺、今日は帰る」
こうなると意地張り合戦だ。
「そうですか!お帰り気を付けて!」
「ああ。俺はお前と違ってフラフラしてないから、心配は無用だ」
「あー、そうですか!」
付き合い始めて1年以上になるが、こんな本格的なケンカは初めてかもしれない。
でも、私も折れる気になれなかった。
どういったらいいか、「あんな大輔さん、見たくない」という気持ちだったのだ。
直木三十五『南国太平記』
◇◇◇
まさかこんなところで会うとは思わなかった。
まあウチの近所ってことは、英明も近所なんだから、会っても不思議はないんだけど。
「カイ…」
「よお…」
さすがに彼も、きまり悪そうな顔をしている。
私は大輔さんとしっかり手をつなぎ、いつものように海岸を散歩していた。
「誰だ?」
なぜか大輔さんはつないでいた手を離し、私の肩を抱き寄せた。
こういうのも初めてではないけれど、さすがにクラスメートの前でされるのは恥ずかしい。
「あの…クラスメートの貝沼君です」
大輔さんと付き合う前、私はカイと付き合っていたが、カイに振られる形で2年の交際が終わった。
そのことは大輔さんも知っているけれど、名前までは教えていない。
「クラスメートの」とだけ紹介して、あとは深く突っ込まれないことを祈る。
「そうか。俺は大倉大輔。東京の玉成学園高校の3年だ」
「あ、ども…貝沼です」
私はカイが部活のジャージ姿で1人でいることが気になって、「ここで部活なの?」と尋ねた。
「いや、今日は休みだが自主トレだ。じゃな」
気を使ったらしい彼がくるっと背を向け、私たちから遠ざかろうとしたので、ジャージの背中の「英明大附属陸上競技部」というロゴが確認できた――確認、できてしまった。
「陸上部か。なるほどな。あれがお前の元カレか」
さすがに勘のいい大輔さんは、それだけで察してしまったようだ。
私も観念して、「そうです…」とだけ答える。
「今日は少し肌寒いな。俺たちも場所を移動しようか」
◇◇◇
いつものようにママのお店かウチに誘おうと思ったら、手を引っ張るようにして神社に連れて行かれた。
私たちが毎年、二年参りに来ているところで、去年の暮れは大輔さんも私たちに合流するようになった。
檜先輩は、4年前に偶然(本当に偶然かはともかく)ここで会って以来、翌年からは私たち母娘と一緒に参拝するのが恒例になっている。
だから、おなじみといえばおなじみの場所なんだけど、中途半端な時期の小さな神社には人もいない。要するに「そういう場所」で話したかったようだ。
「お前あいつと付き合ってたのか。チビだし女みたいな顔してるな」
そうかもしれないが、わざわざひと気のない神社まで連れてきてする話とは思えない。
「で、部活の成績もパッとしないんだよな?自主トレったって、ポーズだけじゃ…」
大輔さんは本音できつい物言いをするけれど、人をやたら見下したり、悪口を言ったりする人ではない。
初対面で、多分檜先輩から聞いたであろう情報でしか知らないカイのことを、やたらあしざまに言うのがちょっと癇に障って、ついつい言い返してしまった。
「強豪チームの部長だった大輔さんから見たらアレかもしれませんけど、努力している人にそんな言い方しなくても…」
「なんだそれは、皮肉か?」
「どうしてそうなるんですか!そんなこと言ってないでしょう?」
大輔さんの先代の部長に当たる兵部さんという人は、テニスの実力の確かさだけでなく、とにかく存在感があって華やかで、何かと話題になる人だった。
大輔さん自身も既に部活は引退していたけれど、部長を務めていた1年間は、何かと兵部さんと比べられることが多く、きっとそれなりに嫌な思いもしていたのだろう。
「努力しても結果につながらないなら、足りないか方法が間違っているかだろう?努力していること自体は褒めるほどのことでもない」
「でも…」
「何だよ、俺よりも元カレの肩を持つのか?あんな貧弱で女みたいなやつ」
「“女みたい”って言いますけど、私だって女ですよ?」
「それはそうだ。俺は異性愛者だからな」
「そういうことじゃなくて、女って言葉を悪口に使うのが不愉快だって言っているんです」
「お前がそんな堅苦しいフェミニストみたいなことを言うなんて、がっかりだな」
「フェミニストだろうがなかろうが、悪く言われて愉快な人なんていません」
多分いつもの軽いケンカだったら、ここで大輔さんがわびていただろう。
自分で言うのもナンだけど、これ「正論」だと思うし、大輔さんも正論を支持する人だ――と思う。
でも、この日はそう易々とは収まらなかった。
「…もういいよ、俺、今日は帰る」
こうなると意地張り合戦だ。
「そうですか!お帰り気を付けて!」
「ああ。俺はお前と違ってフラフラしてないから、心配は無用だ」
「あー、そうですか!」
付き合い始めて1年以上になるが、こんな本格的なケンカは初めてかもしれない。
でも、私も折れる気になれなかった。
どういったらいいか、「あんな大輔さん、見たくない」という気持ちだったのだ。
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