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第32章 毛ほども嫌われたくない!【千弦と聡二】
図書館【聡二】
しおりを挟む「なあ、聡二。前に顔を見たときも気になっていたんだが……桜井さん、どこかで見たことがある気がするんだよ」
「そうなのか?」
「何なら声にも聞き覚えがある」
「何だと?」
「だが、それがどこだったか…」
「まあ、他人の空似というのも…」
と言って、自分の発言を内心密かに否定した。
年齢は30代後半であるが、凡百な中年の女性でも、悪あがきの美魔女でもない。あんな魅力的に女性はそうそういないはずだ(色ボケの自覚は少しあるので、放っておいてほしい)。
骨格が似ると声も似るというから、顔も声も似ているということはあり得るだろうが……。
「それは――気になるな」
「ちょっと整理してみる。このシチュエーションにも関係がある気がするんだ」
◇◇◇
本を物色しながらも、ハルは頭の中で情報を整理し、結び付けや切り離しを繰り返していたようだ。
そして10分後、「そうだ、図書館で会ったんだ」と来た。
「ハル、それは新手のジョークか?残念ながら俺には面白さが……」
「そうじゃない。ここではなく別の図書館だ」
「え?」
「覚えていないか?まだ俺たちが小学生の頃、バスを乗り間違えてS区のこども館に行ったことがあったろう?」
「あ…そういえば」
「あのとき同じ長椅子に座っていた女性を覚えているか?」
「それは…あ…しかし、だったら俺はなぜ今まで気づかなかった?というか、本当にあのときの女性か?」
「俺は――顔や声で記憶していたというのは確かにあるが、この騒々しい図書館が思い起こさせた可能性も高い。
思い出さなかったからと、そう気に病むものではないぞ」
「いや、別に気に病んでいるわけでは……」
◇◇◇
俺は本当に気に病んでいないのか?
ハルに言われたことで、うっすら微笑んで本を読んでいた、あのかわいい大人の女性のことを確かに思い出した。
そのくせ実は顔をよく覚えていない。
多分あの女性は20代か、せいぜい30歳くらいだったろう。
優しく感じのいい物腰は、確かに千弦さんに通じるものはある。
約束の時間には少し早かったが、待ち合わせ場所で先に待っていると、千弦さんが向こうからやってきた。
たすき掛けにしたバッグとは別に、肩からトートバッグをかけている。
借り出した本をそこに入れたらしい。
「ほら、物証もあるようだ」
「でも、あれはありふれた市販品じゃないのか?」
「あのバッグはアメリカの書店のオリジナルトートだったが、その店は2007年に閉店しているんだ。今は少し手に入りにくいはずだ」
「……なぜそんなことを知っている?」
「一度見たものは忘れないし、気になれば調べる。それだけのことだ」
それは俺も同じだ。だが、本件に関しては「見て思い出した」に過ぎないので、やはり忘れていたということになる。
「何にしても、せっかくだからご本人に確かめてみよう」
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