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第8章 日常
苦行[※性的表現あり]
しおりを挟む「何だよあのジジイ。胴上げと一緒にするとかバカだよね。どうせ大学の合格発表で調子こいたバカか、スポーツバカだろ?僕は大事なお姫様をしっかりキャッチするから、大丈夫だっつーの」
あたりから始まり、
「大体、君があんな声上げるから注目集まっちゃうんだよ。ま、幸奈はかわいいから、黙ってても注目の的だけどね。君は年の割にはかわいいけど、大声出してあのジイさん1人しか釣れなかったか。お気の毒にね」
と、雲行きの怪しいことを言い出し、さらに帰宅後は、
「あんなジジイにまで色目使うとか、どれだけ飢えてるの?
仕方ないな…抱いてやるから落ち着けよ」
…私はパントリーに保存食を入れる作業を強引に中断された。
「全く望んでいない行為」によって、だ。
子供部屋で幸奈が泣いている声がする。
急にパパやママが視界から消え、不安になったんだろう。
「幸奈を…見ていて…ほしかったのに…」
「今はお姫様より、…インランの…ご機嫌を取りたいから…ね…」
◇◇◇
いつだったか寝ているところに上からまたがられ、嫌なそぶりを見せたら、
「どうせ誰にでも体を開くエロ女の分際で、夫の僕は拒否するのか!」
と、ほほをぶたれたことがあった。
少しお話して似顔絵を描いてもらっただけの、名前も知らない「スケブ青年」のことを、いまだにこういう形で持ち出される。
ゴキブリの個体数じゃあるまいし、1回そういうことがあったら20回は同じことしてるとでも言いたいのか(そもそも「そういうこと」なんかないが)、彼の頭の中には、「いろいろな男性に抱かれている私」がいるらしい。
そんな妄想を燃料にして、言葉で、行為で私を攻め立てる。
私がそれに呼応して、適当なところで適当な嬌声を上げると、大体その辺で果てる。
言うこととヤルことは勇ましいが、長持ちはしない。
もっともあの調子で長く続けられたら、ただの地獄絵図だけどね。
幸奈が母乳を拒絶後、ほどなくして生理は再開したんだけど、ちょっと早過ぎる気がして産婦人科で相談したら、ピルを勧められた。
「立て続けの妊娠は体への負担が大きいから、用心のためにどうかな」と言われ、なるほどと思って飲み始めたんだけど、お薬を出す前に言われたことが本当に役に立った。
「旦那さんには「生理不順の治療」とでも言った方がいいわ。
結婚しているのにピル飲むのは、浮気をしているからだって考える男性も結構いるらしいから」
もっとも彼の場合、「ナマでヤッても妊娠しないなんてサイコー!」くらいの認識のようで、前述のような「プレイ」に時々付き合わされる。
とても残念な話だけど、いつ地雷を踏むか分からず、とんだ屁理屈でいろいろ不愉快なことを言われるよりは、セックスでご機嫌を取る方が何十倍もマシだという現実がある。
◇◇◇
高2の春休み、「大学の合格祝いが欲しい」と言われ、初めて彼に抱かれた。
かなり痛かったけれど、大好きな彼(当時)に抱かれたという事実だけで、気持ちは満たされた。
それ以来、ほかの男性を知らない。
あれからもう10年近く経つけれど、この年齢で既に(彼のおかげで)男性に失望気味のところがあるし、別に浮気しようとも思えない。
もしほかの男性を少しでも知っていたら、彼が(あらゆる意味で)最低の男で、彼とのセックスなど苦行でしかないのだと気づくのも早かったろう。
それでいて、欲求不満だけが積もり積もってしまい、恥ずかしがら、この年齢で自分を「慰める」ことを覚えてしまった。
恋したいとか、ほかの男性が知りたいというよりも、「いいセックスというものをしてみたい」という欲望があることは否定できない。
彼にしてみれば、「従順な」妻のこんな欲望は、確かに危険だろう。
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