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第27章 決断
ファミレスにて
しおりを挟む私と千奈美は会計を済ませ、産院を出た。
「どういうつもり?話し合うって…」
私は気が逸り、外に出るなり詰問口調をぶつけてしまった。
「だって――幸助さん、私が妊娠していることすら知らないんです。
おろすにしても、せめて話しておかないと…」
「…分かったわ」
◇◇◇
『はい、〇〇市役所資産税課です』
「お仕事中恐れ入ります。私、相原幸助の家内でございます…」
私はあえて仕事中に、職場の固定電話にかけた。
スマホは電源を切られている可能性が高いし、何より仕事中なら絶対に捕まえられる。
「真奈美です」
『マナちゃん?どういうつもりだよ。仕事中に…』
「早退でも時間休でもいいので、今すぐ出て来てください。話があります」
『は?何言って…』
「松下千奈美さんのことです。ご存じですよね?」
『え…』
「来ないなら、あなたが親しくしている女性たちについて直属の上司さんにお話しすることになりますけど。代わっていただけます?」
『…わかった』
すぐ近くにファミレスがあったので、そこを指定した。
市役所から車で5分もあれば着くはずだ。
◇◇◇
「彼」は、「姫が熱を出してダメ女房が困っている」という態で、2時間だけ時間休を取ってきたという。
極めて不機嫌な顔ではあるが、衆人環視で暴れ出すには理性と見栄が勝つだろうからと、人目のある店を選んだ。
「で、話って?」
私と千奈美が並んで座っている向かいの席の真ん中に、腕組みしながら座った彼は、コーヒーだけ注文し、冷たい声で言った。
「あの…私、妊娠しました…」
「は?」
「にんしん…」
「いや、聞こえたけど――何の冗談?」
「さっき2人で病院に行ってきました。12週目だそうです」
「12週、って3カ月?なら、僕の子じゃ…」
出たよ、十月十日信奉者の逃げ口上。
「女性と関係を持った日は、今でも細かく手帳に付けていらっしゃるの?」
「え?」
「すぐ近所の病院です。何ならお医者さんに説明していただきましょうか?」
「あ、ああ?」
こんなにうろたえている「彼」を見るのは初めてかもしれない。
頭が悪い、気が弱いと見下している妻が、妙に堂々とよどみなく話しているのだ(と、彼の眼には映っていることだろう)。
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