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家族

ベルの懐胎

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 結果、ベルはナルの子供を身ごもりました。

 ベルはナルとの「あの行為」の後、しばらくしてから生理がとまり、吐き気と倦怠感に襲われたので、大いに戸惑いましたが、ナルが(いつもの薬で)何とかしてくれると考え直すと、気が楽になりました。

「ごめんね。ベルは病気じゃないからお薬を飲ませるわけにはいかないんだ」
「病気じゃないの?」
「ベルはあと7カ月くらいしたら――3つ先の季節になったら、赤ちゃんを産むんだよ」
「私が…赤ちゃん?」
「そう。栄養をちゃんと摂って、しっかり眠って、元気でかわいい子を産むんだ」
「赤ちゃん…」
「私がお父さんで、ベルがお母さん、そして生まれてきた赤ちゃんと3人で、また楽しく暮らしていくんだよ」
「カゾク?」
「そう、家族だ。ベルのこと、これからもっともっと大事にするからね」

 体調こそ悪そうでしたが、ベルの表情には明るいものが戻ってきました。
 「赤ちゃん」「家族」という言葉に希望を見出しているのでしょう。
 「体が辛いのは、赤ちゃんが元気な証拠だよ」とナルが言ってくれたので、つわりの吐き気すらも「いこと」に思えるほどです。

***

 ナルは多分ベル以上に、彼女の妊娠を喜んでいました。

 「赤ちゃんのためにならない」という一言で、ベルの行動を今までよりずっと制限できるからです――それも、あまり不自然のない形で。

 「目を使うと体に負担がかかる」と言われれば、一日中でも目を閉じて寝ています。
 そうしている間は、余計なものに興味を示すことも、物を考えることもないでしょう。
 
 「胎教」の名目でモーツァルトを聞くように勧め、密閉型のヘッドフォンもこだわって買い与えました。
 これで外で多少雑音がしても、気にすることはないでしょう。

 例えば、2人の「白い家」は周りから絶妙な分断感があったものの、それでも迷い込んだように見知らぬ車が走り寄ってくることはありました。
 ベルは大抵、そういうものには興味を示しませんが、これからもそうとは限りません。
 「タカ」のように、自分の留守中に他人が家に入り込んでくるパターンもあり得ます。
 あれは門扉に鍵をかけていなかったという、ナルは珍しいミスでした。
 2人だけで心穏やかに過ごす日が続いたせいか、油断をしてしまったことを悔いて、その後は監視カメラも設置するようになりました。 

 ナル自身は世の中と全く隔絶された生活はできないが、ベルには「この世に2人だけ」の気持ちでいてほしいと切望していたせいか、ベルが出産した後のことは、実は全く考えていませんでした。
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