短編集「めおと」

あおみなみ

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その名は「ぴあの」

その名は「ぴあの」

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「というわけで、アナタのおつまみ失敬しちゃったんだけど」

 もともと猫好きのかすみの夫は、別にそれに文句を言うでもなく聞き、思い出したように言った。

「それって俺の知ってると同じかな?だったら結構近所のほかの家でもエサもらってるはずだよ」
「そうなんだ。じゃ、また来るかもね」

 すると、なぜか得意げな顔で続けて言った
「それにここの大家さん、結構ペットに寛容らしいよ?」
「え、そうなの?」 

 夫は社交的なので、休日や夜間の町内会の集まりにはよくいき、情報を仕入れてくる。

「ほら、ここと似たような造りの借家、県道の向こうにも建ってるじゃん?」
「ああ、そういえば」
「そういうトコで、結構犬小屋のある家多いんだよね」
「…言われてみれば、そうだね」
「猫は室内飼いだから事情違うけど、ネズミよけとか言って飼ってるお年寄りも多いらしい」
「へえ…」

 かすみも猫は好きだが、飼うまでのことを考えていたわけではない。
 しかしこの分なら、夫も猫を飼うことには割と積極的なようだ。

 いざ飼うとなったら、今日見かけたハチワレちゃんをそのまま、というわけにもいかないだろうが、例えばもしあの子に名前をつけるなら何がいいだろう。
 夫によると、「2軒隣の川森のおばあちゃん」は、「みー」と呼んでいたらしい。
 自分なら白と黒の毛色にちなんだ名前をつけたい。
 白と黒――鯨幕、パトカー…ピアノ、そうだ「ぴあの」がいい。
 ぴあのちゃんのために、おやつのジャーキーでも買っておこうか。
 また来てくれるとうれしいな。

 いやいや、やっぱりそれはダメか。
 飼うなら飼うで、ちゃんとしなきゃ。

 市でやっている譲渡会の情報とか、集めようかな。

 かすみのイマジネーションは、際限なく広がっていった。


【『その名は「ぴあの」』】
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