短編集「めおと」

あおみなみ

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パパは不器用

【終】母の思い出話

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 コウタを送り出した後、モエカは母・ハルナが押し入れの中の私物をゆっくり片付けているそばで、ゲームをしていた。

「まだパパと結婚する前にね…」
「え?」

 ハルナはいつものように静かな口調で、しかし唐突に話し始めた。

「お付き合いを始めて最初のママの誕生日に、「どこか連れていってあげるから、好きなところを言って?」と言われたことがあって」
「うん」
「ちょうど気になる展覧会をやっていたから、美術館に行きたいって言ったんだけど…」
「『人工物のところに行くのは味気ない』って?」
「そう!モエちゃんも言われたことあるの?」

 言葉を先取りされて、ハルナは驚いたような笑顔を浮かべた。
「言われたことあるし、いかにもパパが言いそうだなあって思った」

 コウタは悪い人間ではない。真面目で温厚で、家族思いではある。
 しかし、欲しいものを言ってとか、どこに行きたいと聞く割に、その答えが自分の物差しに合わないと、「そんなものはつまらない」「そういうんじゃなくて」と悪気なく言うこともあり、モエカは軽くがっかりする場面も多かった。ハルナは付き合いが長い分、さらにあるだろう。

 自分の中に答えがあるなら、最初からそれを出せばいいのに、どうしていちいち聞くんだろうという疑問を、モエカはハルナに言ってみた。
「そりゃ…『そんなのは嫌、そういうんじゃない』って言われるのが嫌だからじゃないの?」
 ハルナがちょっといたずらっぽい表情で言ったので、2人で顔を見合わせて笑った。

「でもね、パパが私たちに喜んでほしいって思っているのは本当だと思うよ」
「そうかな」
「モエちゃんが生まれたばかりの頃、あなたの寝顔を見て、「こいつを守るためなら、俺は何だってできると思う」って言ってた」
「へえ…」

 最初のうちは、家に帰って直行でモエカのベビーサークルに行き、何も考えずに抱き上げようとしたコウタを、ハルナはいつも注意した。

「まず手を洗って!相手は新生児なのよ?」とか、「寝ているところを抱き上げたら、起きちゃうかもしれないでしょ」と、ややとがった口調と声音で言ってしまったが、コウタはちゃんと聞き入れてくれ、寝顔も見るだけで我慢した。

「そっか。パパってやればできる人なんだね」
「あらら、モエちゃんもなかなか言うわね」

◇◇◇

 親が子供の要望のぞみに無頓着になり、「自分のしたいこと」をしてあげようとして拒否されることはよくある。お出かけ先や、高価だが見当違いな贈り物などは、まさにそれだろう。

 モエカはかなり成績が優秀なので、地域トップ校の受験を学校から勧められたが、志望しているのはその1ランク下で、放送部の活動が盛んなところだった。
 コウタに自分の志望を話したとき、少し考えてから、「そうか。油断しないで頑張れ。応援しているよ」とだけ言った。

 その言葉がモエカにとって、コウタから最近もらった「一番うれしい贈り物」である。

【『パパは不器用』了】
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