短編集「めおと」

あおみなみ

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パパは不器用

“散歩”ってそういう…

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 まだモエカが小学生高学年の頃、コウタが「散歩に行こう」と誘ってきたことがあった。

「ママも行く?」
「私は片づけものをしちゃいたいから家にいるわ。モエちゃん、行きたいなら連れていってもらいなさい」
「うん!」

 そこでお気に入りのワンピースにポシェットといういでたちで出かけようとすると、コウタにダメ出しされてしまった。

「だめだめ。そんなに肌が出る服じゃ、虫に刺されるだろう?下はズボン、上はパーカーか何か、あまり厚くなくて調節の利くものがいいかな。汗かくだろうし」
「虫?汗?」

 コウタはモエカの“疑問形”には反応せず、こう続けた。
「そんな小さいバッグじゃ何も入らないでしょ。リュックなら両手が空くよ」
「リュックって…」
「あと、靴はこの間買ってあげたトレッキングシューズがいいね。履き慣らしておいたよね?」
「えー…」

 それはたまたまホームセンターに行ったとき、在庫処分で売っていたものだった。
 有名なアウトドアブランドのもので、デザインもおしゃれでサイズもモエカにぴったり。それが半額になっていたので、コウタは一もニもなく衝動買いした。

 モエカは少し前、トレッキングシューズ状のものをファッションとして街中で履いている、モエカより「ちょっとお姉さん」ぐらいの若い娘さんを見たことはあるが、「履くのが面倒くさそうな靴」と思って敬遠し、コウタに「普段から慣らしておいてね」と言われたことも聞き流していた。

「お父さん、ただのお散歩でしょ?一体どこに行くつもり?」

 モエカにとっての「散歩」は、近所の中規模の書店に行って、漫画やお気に入りのジュブナイル小説のレーベルをチェックしたり、店内に少しだけ置いている駄菓子を金額しばりで買えるだけ買ったり、住宅街の各家ご自慢の花壇や花木を見て、季節感を味わうことだった。

「天気がいいから、山城やまじろ公園に行こうかと思って」

 コウタがいう「山城公園」とは、その名のとおり、かつて山城のあった城址周辺を整備して公園にしたところで、歩いてみると分かるが起伏が激しいし、足場の悪いところもある。しかも隣の市にあって、家から20キロは離れていた。モエカはそこに学校の遠足で行ったことがある。

「えー。遠いじゃん」
「うん。だからもちろん車で行くんだ。で、山城公園の散歩するの。山の中だから虫も出やすいし、足元も…」
「…私、行かない。ママとおうちにいるよ」
「えー、連れていってと思ったのに」
「この近所のお散歩ならいいよ。パパはあんまり歩いたことないでしょ?」
「うーん…平らなアスファルトの道って苦手なんだよなあ。そろそろ紅葉してるみたいだから、写真も撮りたいって思ってたし…」
「じゃ、ひとりで行ってくれば?」
「そう、だな。そうするよ」

 コウタは少し残念そうな顔をしたものの、リュック型のカメラバッグを片方の肩にひっかけ、「じゃっ」と笑顔で出かけていった。

 モエカもハルナも(最初から1人で行けばよかったのに…)と内心思ったけれど、いつだったかみたいに、嫌がるモエカを無理無理山歩きに付き合わせたときに比べたら、大分進歩だった。
 父も案外、あのときのモエカの不機嫌な顔や、コンディションを崩して車の中で吐いてしまったことを思い出して、「やばっ。くわばらくわばら」という心境で、嬉々として出かけたのかもしれない。
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