短編集「めおと」

あおみなみ

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もし彼女だったら

瑛子ちゃんの事件

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 「瑛子ちゃんが駅前のホテルから出てきたところを見た」と学校に密告した人がいた。
 でも今みたいにみんながスマホやケータイでぱっと写真を撮れる時代ではなかったので、証拠になるような写真とかはない。
 それでも学校は一応問題視し、瑛子ちゃんは呼び出されて事情を聞かれた。

 もともと生活態度は真面目な方だったし、「私は身に覚えがありません」で通したら、「痛くもない腹をさぐられないいように、身を律しろ」とか言われて解放されたらしい。

 実をいえば私は、瑛子ちゃんが誰かとホテルに行ってても別に構わないと思っていた。
 表に出ないだけで、お付き合いしている人とをする子は結構いただろうし、中には売春ウリ(当時は援交とかパパ活とか言わず、「少女売春」という言葉を露骨に使われていた)をしているうわさのある子だって1人や2人ではなかった。

 ただ問題は、「瑛子ちゃんが誰と行ったか」ってことだった。

 うわさの相手は「瑛子ちゃんの幼馴染の男子(みたいな背格好)」らしいけど、具体的に誰とか、どこの学校とかという名前は出ない。
 私が知らないだけで、佐野君以外にもそういう男子がいるのかな…?
 巨乳だから意外と男子に人気があるのかもしれないし、瑛子ちゃんにも佐野君にも(怖くて)確かめられない。
 私が知らないふり、気にしてないふりをすれば済む話だと思って飲み込んだ。

◇◇◇

 でも、瑛子ちゃんは高校2年の2学期に入ったタイミングで、突然高校をやめた。修学旅行から帰ってきたばかりの頃だったから、そのときには既にいろいろ決まっていて、最後の思い出作りだったのかもしれない。

 15歳年上の男性との間に子供ができて、結婚して赤ちゃんを産むためらしい。
 私は直前まで何も知らなかったし、「妊娠」って聞いたときにも、相手は佐野君じゃないかって一瞬思ったほどだった。

 瑛子ちゃんのクラスの人に聞いたら、「何かお騒がせしてすみませーん。元気な赤ちゃん産みまーす」って言葉を残し、あっけらかんと去っていったのだそうだ。
 相手はある企業のこの街にあった支社でたまたま働いていた人で、10月1日付で転勤になるときに一緒についていくんだという。
 そちらに引っ越して落ち着いたらしいとき、瑛子ちゃんから電話があった。

『ごめんね、ろくに連絡できなくて。元気――だよね』
 瑛子ちゃんの、本当にいつもと変わらない声や話し方を聞いていたら、私は何だか腹が立った。
「どうしてこんな大事なこと話してくれなかったの?」
『うーん、堕胎おろそうっていうのも視野に入ってたしね。そんな話、あなたにしたくなかったんだよ。でもちゃんとプロポーズされたから、それを受け入れただけ』
「瑛子ちゃんなんか…」
『え?』
「そうやって大事な話全然してくれなくて、心配したのにケロっとしてて!」
『だからそれは…』
「佐野君だって、気が強くて全然好みじゃないって言ってたもん!大っ嫌い!もう絶交!」

 どうしてここで佐野君の名前が出てきたのか、自分でもよく分からない。
 瑛子ちゃんは「ごめんね…」と言って、静かに電話を切った。

 その後何年も瑛子ちゃんには会っていない。
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