短編集「めおと」

あおみなみ

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もし彼女だったら

孝雄の爆弾宣言

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 私は高校を卒業するとすぐ、小さな縫製会社の事務員になった。
 佐野君は(そのころには「孝雄」と呼んでいたけれど、)東京の専門学校に行った後、こっちに戻ってきてお父さんの仕事を手伝い始めた。

 ずっと遠距離恋愛の状態だったけれど、その間、孝雄の浮気疑惑が出てきたり、私にも見合いの話が持ち上がったりした。
 私の母は孝雄と私の交際を知っていたし、孝雄が嫌いではなかったが、チャラチャラして遊ぶにはいい相手ぐらいにみなし、「どうせ結婚はしないでしょ?」って思っていたみたいだ。

 それでも結局、私たちは25歳で結婚した。
 30歳までに2人の子供ができ、平凡だけど楽しく暮らしていたんだけれど、孝雄が40歳を目前に「俺、市議会議員選挙に出馬するよ」と言い出した。
「ちょっと!突然何を言うの?」

 私たちの住む片山は、少し前の大地震で起きた原発事故の後、少し不安定になっていた。
 場所的に事故現場からは何十キロも離れていたから、事故の影響で住めなくなったところから一時的に避難していた人たちも大勢いるけれど、その一方で、「こんなに原発から近いところでは暮らせない」って不安がって、もともと片山に住んでいたのに、他所に出ていく人たちも多かったのだ。

「そういう現状を見て、何かすべきだって思ったんだよ」
「だからって、何も孝雄あなたがやらなくても…」
「でも、何もしないで手をこまねいているのは嫌なんだ」

 孝雄はお父さんの家業のつながりで、ある業界団体みたいなのに所属していたので、そこでの応援も期待できるし、勝算は十分あるという。
 今までも子供の小学校のPTA役員とか買って出てくれていたので、先頭に立って何かするのは性に合っているんだとは思う。
 でも、選挙にはお金もかかるし、生活もがらっと変わってしまうだろう。PTAとはわけが違う。
 私は不安で不安で仕方がなくて、「どうしても出るというなら、離婚します」と言った。それは脅すというよりは賭けのつもりだった。

 孝雄はそれで「そうだな、頭を冷やして考え直す」って引っ込めてくれたけど、正直、4年後にまた同じことを言うような気もしている。

 私はそのときやっぱり反対するだろうか。それとも考えが変わっているだろうか。
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