ぼくの中の探偵

パプリカ

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きみと双子の自宅は離れているので、気楽に放課後に会うというわけにはいかない。猫殺し事件の調査は休日に限られる。相手は小学生でもあるから、こちらから会いに行く必要がある。

まずやることは、エッジリンクの強化。もっと遠くに行けた方が効率的だし、その力を深化させれば動物との会話ももっとスムーズなものとなるのかもしれない。

基本的には妹である優希が座り、姉の優花が歩く役割を担っているという。受け手であるほうが危険な場合があるので、姉の優花としては妹を守る意味合いがある。
まだ不完全だからか、もう一方の意識を受け入れているとき、ふいにめまいを覚えることもあり、ふらふらと道路へと踏み出してしまうようなことも経験しているという。

それを聞いたきみは、ならスーパーで試してみたらどうかと提案した。
この近くには大型のスーパーがあり、きみも何度か訪れたことがある。

テナントがずらりと並ぶ店内は端から端まで歩くだけでも疲れるほどで、高齢者の需要を取り込むためかウォーキングキャンペーンなるものも催されている。他の客に迷惑にならなければ散歩コースとしての利用もありだ。

「それはいいかもしれない」
「うん、そっちのほうが涼しいしね」

すでに七月も中旬。夏休みは目前に迫っている。日差しの強い日が続き、エッジリンクをしたまま歩いていては優花の消耗も早くなってしまう。
二人の自宅の近い公園からは離れたほうが良いという判断もきみにはあった。きみたちは大型スーパーへと移動した。

エッジリンクの最中、きみは優希に眠っているふりをするよう頼んだ。通路に設置されたソファで買い物に疲れた妹に肩を貸す兄、そんなふうを装うのが一番自然だと感じたからだ。

優希は目をつむったまま、小声でなにかを呟いている。それは意識の結合テストのようものらしい。

優希が指示した通りに優花がスムーズに動けるのかを試しているようだ。本来は頭だけで考えていることを、つい口に出してしまっている。
きみが隣にいる安心感がそうさせているのかもしれない。

ある程度の訓練が終わると、きみは二人にご飯をおごることにした。
低価格を売りにしているファミリーレストランがテナントのひとつとしてあったので、そこに入った。小学生の女の子の食欲なら中学生のきみでも十分に払える。

ちょうどお昼時で、店内は混んでいた。
きみたちは幸運にも最後のテーブルにつくことができた。二人はデザートを、きみはパスタを頼んだ。

きみは双子にご飯ものは食べなくていいのかと聞いた。二人は食べなくていいと答えた。普段あまりデザートみたいなものを食べられないので、ここでは甘いものを堪能したいらしかった。

「親がダメって言ってるの?」

きみがそう聞くと、二人は無言でうなずいた。しつけの厳しい家庭らしい。

「お父さんにこっそり頼んだらどうかな。お母さんが厳しくても、お父さんならきっと願いを聞いてくれるよ」
「うちにお父さんはいないよ。お母さんだけ」

先入観で決めつけてしまったことにきみは恥じらいを覚えた。

「ごめん、先に聞いておくべきだったよね」
「別にいいよ」

普段甘いものを食べられないというのは本当らしく、食事が始まると二人は無我夢中でフォークとスプーンを動かした。
パンケーキとパフェをおいしそうに食べる二人の姿を見ていると、きみの表情も自然と綻んだ。ここ最近は夏休みのイベントを考えて心がぎすぎすしていたので、そのストレスが少し和らいだような気がした。

「それじゃあ、これからどうしようか。もう帰る?」

食事が一通り終わると、きみは二人にそう聞いた。

「まだちょっとできそう」
「お店の端のほうにペットショップがあったから、そこで動物と話す訓練ができるかも」
「そういえば、うちではペットとか飼ってないの?そうすれば簡単に訓練ができるよね」
「飼ってないよ。お母さんがお仕事の邪魔になるからって」
「お母さんは自宅で仕事をしてるの?」
「うん。ほとんど家にいるよ」
「なんの仕事をしてるの?」
「わかんない。教えてはくれないから。もしかしたら働いてないのかも」
「動物が嫌いなのを誤魔化すためにそう言ってるだけかも」

どちらにしても、謎が多い。もちろん、自宅でできる仕事というのはいくつもあるだろうが、それを娘に教えないというのはやはり奇妙だ。

「どうしてお父さんがいないの?」
「すごく前に亡くなったって言ってるけど、それもよくわかんない」
「写真とかも見たことないから」

あまり家族の問題に深入りしないほうがいいのかもしれない。
少なくとも知り合ったばかりのいまの段階でこれ以上聞くのは礼儀に反するような気がした。もっと重くはない、普通の話題がいいかもしれない。

「えっと、じゃあ、二人の趣味は?」
「ゲームかな」
「わたしは歌を聞いたり歌ったりするのが好き」

家庭内で趣味は認められていることに、きみはほっとした。甘いものを与えないというのは虐待みたいなものかもしれないと疑う気持ちもあったが、あくまでも健康を気遣ってのことかもしれない。

「お兄ちゃんはなにが好きなの?」
「ぼくは本だよ」
「そういえば、この前も本を買いにきたんだよね」
「うん。この辺りには古本屋も多いからね」
「うちのお母さんもたくさん本を持ってるよ」
「へえ。小説?漫画?」
「どっちも。お兄ちゃんは?」
「ぼくは小説ばかりだね。絵と文字を同時に理解するのは難しいから」
「変なの」

こうして二人と過ごしていると、きみは弟のことを思い出してしまう。弟の悠馬も小説ばかり読んでいるきみを不思議に思っていた。文字ばかりでなにが楽しいかわからないといって。

男女の違いはあれど、年齢は弟とほぼ一緒。思い出すなというほうが無理かもしれない。

「……悠馬」
「ユウマ?誰、それ」

二人に家族関係のことを質問した以上、ここで口をつぐむわけにもいかない。きみは弟について二人に伝えることにした。

「ぼくの弟。いまはいないけどね」
「どうして?」
「数年前に、失踪したんだ」
「どこかへ消えたってこと?」
「うん。結構大きく報道されたけど、知らないかな」
「そういえば、なんか聞いたことあるかも」
「学校の先生が言ってような気がする」

大きく報道された事件とはいえ、二人はまだ幼い。あの事件が起きたときはもっと小さかったことを考えれば、記憶がぼんやりとしているのも当然かもしれない。

「ぼくはいまも弟を探しているんだ。弟を見つけるためには、なんだってするつもりなんだ」
「ユウマくんのことが好きなんだね。どういう子だったの?」
「弟はぼくとは違って活発なタイプだったね。外で友達と遊ぶのが好きだった。家で本ばかり読んでいるぼくとは正反対だったよ」
「どうしてユウマくんはいなくなったの?家出とか?」
「わからない。ひとつ、可能性として考えてることはあるけど」
「なに?」

迂闊にでも口にしていいことではなかった。とくに子供相手には。

「内緒。まだ確信はないから」
「ふーん。見つかるといいね」

少しずつ真相に近づいている気はする。問題はその解決がきみにとって幸せものであるとは限らない、という点だが。
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