5 / 17
4
しおりを挟む
文芸部はとくに大会などはないため、三年生の引退時期はそれぞれの判断になる。
一週間に一度しか部活はないので受験勉強の合間の気分転換に、と参加する生徒もいれば、まったく顔を見せないものもいる。
とりあえず秋の文化祭が一区切りと言われて、部長の交代もその辺りになる。
現部長の片岡春人は熱心に部活に参加するタイプだった。情熱的と言ってもいいかもしれない。
きみが記憶している限り、一度も部活は休んだことがない。本に対する熱量はきみを上回っており、知識量もかなりものだ。
片岡春人は優秀な学生でもあり、志望している大学にはほぼ受かることは間違いないらしい。彼にとっての心配は進路ではなく、この文芸部の将来だった。
「五、四、三。これはこの文芸部の上から数えた人数だ。三年が五人、二年が四人、一年が三人。年々部員が減っていることになる」
部活が始まってすぐひとり立つ片岡春人が、椅子に座る下級生を前にしてそう述べた。三年で部活に参加しているのは彼ひとりだった。
「これは由々しき事態だ。このままでは文芸部がいずれ消滅してじうかもしれない。橘くん、きみもそう思うだろう?」
「いえ、とくには、文芸部のわりに、結構部員はいると思いますから」
文芸部は地味な部活で、むしろ十人以上も部員が揃うことは珍しいかもしれない。
きみたちの通う中学の文芸部は確かに有名で、それはなぜかと言えば有名な作家を排出したことがあると言われているからだ。この片岡春人もその人物のファンで、だからこそ強く文芸部の存続を願っていた。
「きみは来栖先生のファンではなかったのか」
来栖カナタはミステリー作家だった。性別年齢不詳の素性が隠された作家で、実際にこの中学出身なのかもわからない。
ただそういう噂は広がっており、それはどうやら以前この文芸部が廃部の危機に瀕したときに来栖カナタが後輩たちに激励のメッセージを送ったということが発端となっているようだ。
「嫌いな作家ではないです。ただライトミステリーがメインなので、ぼくの趣味とはちょっと違うというか」
「ミステリー好きなら、ミステリー業界に貢献している人をむやみに否定するべきではないと思うが」
「否定しているわけでは」
「それに来栖先生は最近、子供の虐待や貧困といった問題を取り扱った社会派ミステリーにも進出している。ライトミステリーという先入観だけで語るのは間違いではないかと思うのだが」
「すいません。勉強不足でした」
きみは来栖カナタの本は読んだことがあるが、新刊までは把握していなかった。
「とにかく、文芸部の認知度をあげるための方策を考えなくてはいけないとぼくは思っている。せっかく来栖先生が存続の道を開いてくれた文芸部。なんとしてもぼくが現役のうちに盛り上げたい」
きみも文芸部が発展することは望ましいと考えているので、とくに否定するつもりはなかったが、めぼしいアイデアは浮かんではこなかった。
「どうやって盛り上げるんですか?さすがに来栖カナタに頼むことはできないですよね」
「もちろん、そんな下品な真似はしない。まあ、有名人にお願いするということは同じではあるが」
「有名人?片岡先輩は作家の知り合いとかいるんですか?」
「作家ではない。本好きな有名人のインタビューを部誌にのせ、それを一般人も入る文化祭で配ろうかと考えている」
影響力のあるような存在が、中学の文芸部のインタビューを受けるとは思えなかったが、片岡春人には何かしらのあてがあるようだった。
「誰ですか、その有名人というのは」
片岡春人の視線がきみの隣に向けられる。隣には芹沢優愛が座っている。
「まさか」
「芹沢くんの父親はこの辺りではもっとも全国に名の知れた人だ。起業家としての注目度も高いが、マスコミ嫌いであまりカメラの前では話したがらない。その人物のインタビューを部誌にのせることができれば、この上ないインパクトになると思うが、どうだろうか」
その問いかけは部員全体に向けられたものだ。片岡春人の発言は、すでに芹沢優愛とその父親の了解は取り付けてあることを匂わせている。それでもきみは確認せずにはいられなかった。
「忙しい社長がわざわざインタビューに応じてくれるんですか?」
「安心したまえ。すでに芹沢社長とは話がついている。快くインタビューに応じてくれるそうだ」
これは片岡春人の発案ではないのかもしれない、ときみは思う。芹沢優愛から提案されたものである可能性が高い。
きみは芹沢優愛の自宅への誘いを断っていた。
それに業を煮やした芹沢優愛の父親が部活という口実を使ってきみを自宅に呼ぼうとしたのではないのか。
少なくとも、一部員の片岡春人が提案して受け入れられるものではないように思う。
「どうやら、反対意見はないようだね。では向こうのスケジュールに合わせて、夏休みに芹沢家を訪問するとしよう」
一週間に一度しか部活はないので受験勉強の合間の気分転換に、と参加する生徒もいれば、まったく顔を見せないものもいる。
とりあえず秋の文化祭が一区切りと言われて、部長の交代もその辺りになる。
現部長の片岡春人は熱心に部活に参加するタイプだった。情熱的と言ってもいいかもしれない。
きみが記憶している限り、一度も部活は休んだことがない。本に対する熱量はきみを上回っており、知識量もかなりものだ。
片岡春人は優秀な学生でもあり、志望している大学にはほぼ受かることは間違いないらしい。彼にとっての心配は進路ではなく、この文芸部の将来だった。
「五、四、三。これはこの文芸部の上から数えた人数だ。三年が五人、二年が四人、一年が三人。年々部員が減っていることになる」
部活が始まってすぐひとり立つ片岡春人が、椅子に座る下級生を前にしてそう述べた。三年で部活に参加しているのは彼ひとりだった。
「これは由々しき事態だ。このままでは文芸部がいずれ消滅してじうかもしれない。橘くん、きみもそう思うだろう?」
「いえ、とくには、文芸部のわりに、結構部員はいると思いますから」
文芸部は地味な部活で、むしろ十人以上も部員が揃うことは珍しいかもしれない。
きみたちの通う中学の文芸部は確かに有名で、それはなぜかと言えば有名な作家を排出したことがあると言われているからだ。この片岡春人もその人物のファンで、だからこそ強く文芸部の存続を願っていた。
「きみは来栖先生のファンではなかったのか」
来栖カナタはミステリー作家だった。性別年齢不詳の素性が隠された作家で、実際にこの中学出身なのかもわからない。
ただそういう噂は広がっており、それはどうやら以前この文芸部が廃部の危機に瀕したときに来栖カナタが後輩たちに激励のメッセージを送ったということが発端となっているようだ。
「嫌いな作家ではないです。ただライトミステリーがメインなので、ぼくの趣味とはちょっと違うというか」
「ミステリー好きなら、ミステリー業界に貢献している人をむやみに否定するべきではないと思うが」
「否定しているわけでは」
「それに来栖先生は最近、子供の虐待や貧困といった問題を取り扱った社会派ミステリーにも進出している。ライトミステリーという先入観だけで語るのは間違いではないかと思うのだが」
「すいません。勉強不足でした」
きみは来栖カナタの本は読んだことがあるが、新刊までは把握していなかった。
「とにかく、文芸部の認知度をあげるための方策を考えなくてはいけないとぼくは思っている。せっかく来栖先生が存続の道を開いてくれた文芸部。なんとしてもぼくが現役のうちに盛り上げたい」
きみも文芸部が発展することは望ましいと考えているので、とくに否定するつもりはなかったが、めぼしいアイデアは浮かんではこなかった。
「どうやって盛り上げるんですか?さすがに来栖カナタに頼むことはできないですよね」
「もちろん、そんな下品な真似はしない。まあ、有名人にお願いするということは同じではあるが」
「有名人?片岡先輩は作家の知り合いとかいるんですか?」
「作家ではない。本好きな有名人のインタビューを部誌にのせ、それを一般人も入る文化祭で配ろうかと考えている」
影響力のあるような存在が、中学の文芸部のインタビューを受けるとは思えなかったが、片岡春人には何かしらのあてがあるようだった。
「誰ですか、その有名人というのは」
片岡春人の視線がきみの隣に向けられる。隣には芹沢優愛が座っている。
「まさか」
「芹沢くんの父親はこの辺りではもっとも全国に名の知れた人だ。起業家としての注目度も高いが、マスコミ嫌いであまりカメラの前では話したがらない。その人物のインタビューを部誌にのせることができれば、この上ないインパクトになると思うが、どうだろうか」
その問いかけは部員全体に向けられたものだ。片岡春人の発言は、すでに芹沢優愛とその父親の了解は取り付けてあることを匂わせている。それでもきみは確認せずにはいられなかった。
「忙しい社長がわざわざインタビューに応じてくれるんですか?」
「安心したまえ。すでに芹沢社長とは話がついている。快くインタビューに応じてくれるそうだ」
これは片岡春人の発案ではないのかもしれない、ときみは思う。芹沢優愛から提案されたものである可能性が高い。
きみは芹沢優愛の自宅への誘いを断っていた。
それに業を煮やした芹沢優愛の父親が部活という口実を使ってきみを自宅に呼ぼうとしたのではないのか。
少なくとも、一部員の片岡春人が提案して受け入れられるものではないように思う。
「どうやら、反対意見はないようだね。では向こうのスケジュールに合わせて、夏休みに芹沢家を訪問するとしよう」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる