ぼくの中の探偵

パプリカ

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「待って!」

きみが自宅への道を歩いていると、背後から声をかけられた。振り向くまでもなく、それが誰の声なのかはわかった。芹沢優愛だった。

「橘くん、いままでどこにいってたの」

芹沢優愛と会わなかったのはせいぜい二週間程度だったが、そのわずかな期間で彼女の容姿にも変化が起こっていた。全体的に暗い陰に覆われているような印象をきみに強く与えた。

肌に張りがなく、目の下にはクマが目立っていた。髪も整えられた様子がない。
寝起きという時間帯ではなかったので、きみは彼女が何かしらの病に犯されているのではないかと疑った。

「大丈夫?芹沢さん、体調がよくないんじゃないの?」
「どこにいってたのかって、聞いてるんだけど」

その口調は穏やかながらも、詰問するような響きを伴っていた。いつもの穏やかさが鳴りを潜め、目にも険しさが宿っていた。

「ぼくはちょっと、買い物に」
「手ぶらだけど」
「欲しい本がなかったんだよ」

楠姉妹については語ることができなかった。二人と何をしているのかを具体的に話すわけにはいかなかったし、変に嫉妬されるのも嫌だった。

嘘をつくことに罪悪感は感じなかった。それほど芹沢優愛の様子がおかしかったからだ。

「風邪を引いているなら、無理をせずに家で休んだ方がいいよ。もう帰ろう。ぼくが家まで送っていくから」
「わたし、会いたいって言ってたよね。どうして会ってくれなかったの」
「それは、まあ、ぼくにもいろいろあって」
「わたし、最近、とても怖い夢ばかり見るの。それがなにかはよくわからないんだけど、毎日のように深夜に飛び起きてしまう」
「それが相談したかったこと?」

芹沢優愛はうなずいた。どこかが悪いというより、悪夢で睡眠不足に陥っているようだった。

「ごめん、そんなことになってるなんて知らなかった。もっとちゃんと話を聞いてあげればよかったね」
「その悪夢にだんだん現実が侵食されていくような気がして、わたし、このままだとどうにかなっちゃいそうで、だから橘くんにそばにいてもらいたかったの」
「なにか、きっかけみたいなものはあったの?」
「わからない。突然のことだったから」
「思春期だからかもしれない。ぼくらくらいの年齢だと、心が不安定になることはよくあるから」
「そうなのかな」

きみは芹沢優愛のことを心配している。当然だ。恋人が弱っているのだから、支えたいという気持ちが沸き上がるのはごく普通なことだ。

しかし、きみは素直にこの感情を受け止められないところがある。きみが芹沢優愛と付き合おうとしたのは、その父親に接近するためだった。

たまたま彼女も本が好きで文芸部に入ったことで自然と付き合う方向に進んだが、もし別の部活を彼女が選んでいたらきみもそちらを選択していただろう。

自分は芹沢優愛のことが女性として好きなのかどうか、きみはたまに考える。嫌いでないことは確かだ。打算的なものだけでは決してない。

一緒にいて楽しいと感じることはたびたびある。ただ、父親への疑惑がある限り、心の底から愛せると言いきれないのも確かではある。

事件が解決したとき、きみたちは本当の恋人になれるのだろうか。仮に父親が犯人であったとしても、きみは彼女を愛することができるのだろうか。

いや、それはおそらくきみの問題ではなく、あくまでも彼女の受け止め方次第なのかもしれない。
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