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この日、きみが楠姉妹との待ち合わせ場所として使っている公園にいくと、そこには見知らぬ女性が立っていた。三十くらいの眼鏡をかけた女性で、落ち着いた雰囲気がある。二人とともにいたので、どうやら双子の母親であるらしい。
きみが近づくと、その女性は楠真由と名乗った。やはり二人の母親で、すでにきみの名前も知っていた。
今回ここに来たのは、娘たちとよく遊んでいる男性ーーつまりきみのことをチェックするためらしい。どうやらきみと姉妹が猫殺しの犯人を見つけようとしていることが親にばれてしまった、ということのようだ。
「あなたと娘の関係はすべて聞きました。娘たちのお遊びに付き合ってくれたことは感謝しますし、それを止めるつもりもありません。ただ、親としてはあなたがどのような人物なのか知る権利があると思いまして、こうして会いにきたしだいです」
双子の母親、楠真由は淡々と述べている。もっともな主張ではあったが、ひとつの儀式をこなしているような感じがして、親らしさみたいなものが欠けているようにも思えた。
「すいません。こちらから挨拶すべきでした」
「いえ、お気になさらず。それよりも、あなたがどこの誰なのか、本人の口から説明していただきたいのですが」
きみは言われた通り、自分が誰なのかを伝えた。いまの話を聞く限り、二人はエッジリンクについては伏せたままらしいので、そこには触れることはしなかった。
「なるほど、子供だけでは事件を追うのは心配なので、手を貸すようになったと」
「はい」
「とはいえ、あなたも娘とさほど変わらない年齢、危険であることに変わりはないのではないのですか」
「まあ、そうなんですけど。ほくも猫が好きなので、放っておくことはできなかったというか」
「やさしいんですね」
「趣味みたいなものです。ミステリー小説が好きなので、探偵みたいなことに興味があるんです」
「犯人について、なにか情報は得られましたか?」
「いえ、まだ。女性ということはわかってるんですけど」
「女性?」
きみはハッとした。性別はエッジリンクで知ったものだった。これを明かすわけにはいかない。きみは慌てて言い直した。
「なんとなく、そう思っただけです。小さい動物を狙うのは、非力な女性である可能性が高いかと思ったので」
「動機が仮にストレスなら、性別は関係ないのでは?街で見かける動物は基本的に大柄なものは存在しませんし」
「そうですね、すいません」
「でも、実はわたしも同じ考えですね。この猫殺しの犯人は女性であるかもしれないと思っています」
「どうしてですか?」
「野良猫が一年近くにわたって殺されている。ということは、それだけ犯人と野良猫は接触があったということ。あなたは女性といったけれど、一般的には狂暴な事件が起きたとき、人は男性の犯人像を思い浮かべる。力=残虐性に結びつけやすいから。そんなある種の監視下に置かれたような状況で男性が頻繁に野良猫と接していれば、疑いの視線が向けられる確率はどんどん高くなる。長く事件が続いているということはつまり、猫と触れあっていても違和感を持たれづらい女性のほうが可能性が高いかもしれない」
なるほど、ときみは思った。確かにその通りだ。猫を子供に置き換えればわかりやすい。見知らぬ男性が子供に声をかけると変質者扱いされかねないが、女性ならそうはならない。
「もちろん、これも推論のひとつでしかないけれど」
「いえ、ぼくの指摘よりもよっぽど納得できます。ミステリー作家とかに向いているんじゃないですか」
「ありがとう」
そこで楠真由ははじめて笑顔を浮かべて見せた。それまでの堅苦しい表情とは違うもので、きみはようやく彼女がひとりの母親であるということを理解できた気がした。
「ところで、今日はひとつお願いがありまして」
楠真由が双子の一方の体を覗くようにすると、そちらの肩に手を置いた。
「この娘、優希を歯医者に連れていく予定があるんです。なので今日は優花と遊んでいてもらえますか」
「ええ、構いませんけど」
母親の趣味なのか、楠姉妹はいつも同じ服装だった。
簡単には見分けがつかないようにするのが楽しいという気持ちはきみにもわからなくもなかったが、毎回名乗られた後でもどちらがどちらかわからなくなるのには困っていた。
これは親もそうだろうと考えていたが、楠真由はすぐに特定していた。服を覗いていたのでホクロのありなしで判断しているのかもしれない。
「それでは、お願いしますね」
きみが近づくと、その女性は楠真由と名乗った。やはり二人の母親で、すでにきみの名前も知っていた。
今回ここに来たのは、娘たちとよく遊んでいる男性ーーつまりきみのことをチェックするためらしい。どうやらきみと姉妹が猫殺しの犯人を見つけようとしていることが親にばれてしまった、ということのようだ。
「あなたと娘の関係はすべて聞きました。娘たちのお遊びに付き合ってくれたことは感謝しますし、それを止めるつもりもありません。ただ、親としてはあなたがどのような人物なのか知る権利があると思いまして、こうして会いにきたしだいです」
双子の母親、楠真由は淡々と述べている。もっともな主張ではあったが、ひとつの儀式をこなしているような感じがして、親らしさみたいなものが欠けているようにも思えた。
「すいません。こちらから挨拶すべきでした」
「いえ、お気になさらず。それよりも、あなたがどこの誰なのか、本人の口から説明していただきたいのですが」
きみは言われた通り、自分が誰なのかを伝えた。いまの話を聞く限り、二人はエッジリンクについては伏せたままらしいので、そこには触れることはしなかった。
「なるほど、子供だけでは事件を追うのは心配なので、手を貸すようになったと」
「はい」
「とはいえ、あなたも娘とさほど変わらない年齢、危険であることに変わりはないのではないのですか」
「まあ、そうなんですけど。ほくも猫が好きなので、放っておくことはできなかったというか」
「やさしいんですね」
「趣味みたいなものです。ミステリー小説が好きなので、探偵みたいなことに興味があるんです」
「犯人について、なにか情報は得られましたか?」
「いえ、まだ。女性ということはわかってるんですけど」
「女性?」
きみはハッとした。性別はエッジリンクで知ったものだった。これを明かすわけにはいかない。きみは慌てて言い直した。
「なんとなく、そう思っただけです。小さい動物を狙うのは、非力な女性である可能性が高いかと思ったので」
「動機が仮にストレスなら、性別は関係ないのでは?街で見かける動物は基本的に大柄なものは存在しませんし」
「そうですね、すいません」
「でも、実はわたしも同じ考えですね。この猫殺しの犯人は女性であるかもしれないと思っています」
「どうしてですか?」
「野良猫が一年近くにわたって殺されている。ということは、それだけ犯人と野良猫は接触があったということ。あなたは女性といったけれど、一般的には狂暴な事件が起きたとき、人は男性の犯人像を思い浮かべる。力=残虐性に結びつけやすいから。そんなある種の監視下に置かれたような状況で男性が頻繁に野良猫と接していれば、疑いの視線が向けられる確率はどんどん高くなる。長く事件が続いているということはつまり、猫と触れあっていても違和感を持たれづらい女性のほうが可能性が高いかもしれない」
なるほど、ときみは思った。確かにその通りだ。猫を子供に置き換えればわかりやすい。見知らぬ男性が子供に声をかけると変質者扱いされかねないが、女性ならそうはならない。
「もちろん、これも推論のひとつでしかないけれど」
「いえ、ぼくの指摘よりもよっぽど納得できます。ミステリー作家とかに向いているんじゃないですか」
「ありがとう」
そこで楠真由ははじめて笑顔を浮かべて見せた。それまでの堅苦しい表情とは違うもので、きみはようやく彼女がひとりの母親であるということを理解できた気がした。
「ところで、今日はひとつお願いがありまして」
楠真由が双子の一方の体を覗くようにすると、そちらの肩に手を置いた。
「この娘、優希を歯医者に連れていく予定があるんです。なので今日は優花と遊んでいてもらえますか」
「ええ、構いませんけど」
母親の趣味なのか、楠姉妹はいつも同じ服装だった。
簡単には見分けがつかないようにするのが楽しいという気持ちはきみにもわからなくもなかったが、毎回名乗られた後でもどちらがどちらかわからなくなるのには困っていた。
これは親もそうだろうと考えていたが、楠真由はすぐに特定していた。服を覗いていたのでホクロのありなしで判断しているのかもしれない。
「それでは、お願いしますね」
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