ぼくの中の探偵

パプリカ

文字の大きさ
11 / 17

10

しおりを挟む
この日、きみが楠姉妹との待ち合わせ場所として使っている公園にいくと、そこには見知らぬ女性が立っていた。三十くらいの眼鏡をかけた女性で、落ち着いた雰囲気がある。二人とともにいたので、どうやら双子の母親であるらしい。

きみが近づくと、その女性は楠真由と名乗った。やはり二人の母親で、すでにきみの名前も知っていた。

今回ここに来たのは、娘たちとよく遊んでいる男性ーーつまりきみのことをチェックするためらしい。どうやらきみと姉妹が猫殺しの犯人を見つけようとしていることが親にばれてしまった、ということのようだ。

「あなたと娘の関係はすべて聞きました。娘たちのお遊びに付き合ってくれたことは感謝しますし、それを止めるつもりもありません。ただ、親としてはあなたがどのような人物なのか知る権利があると思いまして、こうして会いにきたしだいです」

双子の母親、楠真由は淡々と述べている。もっともな主張ではあったが、ひとつの儀式をこなしているような感じがして、親らしさみたいなものが欠けているようにも思えた。

「すいません。こちらから挨拶すべきでした」
「いえ、お気になさらず。それよりも、あなたがどこの誰なのか、本人の口から説明していただきたいのですが」

きみは言われた通り、自分が誰なのかを伝えた。いまの話を聞く限り、二人はエッジリンクについては伏せたままらしいので、そこには触れることはしなかった。

「なるほど、子供だけでは事件を追うのは心配なので、手を貸すようになったと」
「はい」
「とはいえ、あなたも娘とさほど変わらない年齢、危険であることに変わりはないのではないのですか」
「まあ、そうなんですけど。ほくも猫が好きなので、放っておくことはできなかったというか」
「やさしいんですね」
「趣味みたいなものです。ミステリー小説が好きなので、探偵みたいなことに興味があるんです」
「犯人について、なにか情報は得られましたか?」
「いえ、まだ。女性ということはわかってるんですけど」
「女性?」

きみはハッとした。性別はエッジリンクで知ったものだった。これを明かすわけにはいかない。きみは慌てて言い直した。

「なんとなく、そう思っただけです。小さい動物を狙うのは、非力な女性である可能性が高いかと思ったので」
「動機が仮にストレスなら、性別は関係ないのでは?街で見かける動物は基本的に大柄なものは存在しませんし」
「そうですね、すいません」
「でも、実はわたしも同じ考えですね。この猫殺しの犯人は女性であるかもしれないと思っています」
「どうしてですか?」
「野良猫が一年近くにわたって殺されている。ということは、それだけ犯人と野良猫は接触があったということ。あなたは女性といったけれど、一般的には狂暴な事件が起きたとき、人は男性の犯人像を思い浮かべる。力=残虐性に結びつけやすいから。そんなある種の監視下に置かれたような状況で男性が頻繁に野良猫と接していれば、疑いの視線が向けられる確率はどんどん高くなる。長く事件が続いているということはつまり、猫と触れあっていても違和感を持たれづらい女性のほうが可能性が高いかもしれない」

なるほど、ときみは思った。確かにその通りだ。猫を子供に置き換えればわかりやすい。見知らぬ男性が子供に声をかけると変質者扱いされかねないが、女性ならそうはならない。

「もちろん、これも推論のひとつでしかないけれど」
「いえ、ぼくの指摘よりもよっぽど納得できます。ミステリー作家とかに向いているんじゃないですか」
「ありがとう」

そこで楠真由ははじめて笑顔を浮かべて見せた。それまでの堅苦しい表情とは違うもので、きみはようやく彼女がひとりの母親であるということを理解できた気がした。

「ところで、今日はひとつお願いがありまして」

楠真由が双子の一方の体を覗くようにすると、そちらの肩に手を置いた。

「この娘、優希を歯医者に連れていく予定があるんです。なので今日は優花と遊んでいてもらえますか」
「ええ、構いませんけど」

母親の趣味なのか、楠姉妹はいつも同じ服装だった。
簡単には見分けがつかないようにするのが楽しいという気持ちはきみにもわからなくもなかったが、毎回名乗られた後でもどちらがどちらかわからなくなるのには困っていた。
これは親もそうだろうと考えていたが、楠真由はすぐに特定していた。服を覗いていたのでホクロのありなしで判断しているのかもしれない。

「それでは、お願いしますね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

処理中です...