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しおりを挟むそして放課後、わたしはグラウンドに立って、マネージャーとしてサッカー部の練習を眺めている。
隣にはもちろん、麗が立っている。
わたしに残された時間というのは限られている。何度もループを繰り返すわけにはいかない。
いつ体力が尽きて死ぬかはわからないけど、早めに動いたほうがいいのは間違いがない。
でも、慎重さも求められる。あからさまだと、いろいろと警戒されるかもしれない。あくまでも自然な流れを作らないといけない。
「莉子先輩、この前オススメした動画は見ました?」
「見たよ。すごかったけど、ちょっと吐き気がしたかな」
「ああいう人たちって本当に羨ましいですよね。わたし少食だから、憧れがあるんですよ」
「でも、男の人って、そういう女子のほうが好きだっていうよね。ガツガツ食べるよりはいいと思う」
「そうかもしれませんね。でも、それがすべてではないですよ。だってわたしなんて食べるのが遅いって、よく男子からバカにされましたから」
「そういうからかいをするってことは、むしろ好かれてるからじゃないの?よく言うでしょ、好きな人にこそちょっかいを出すって」
「まさか。小学生じゃないんですよ」
「男子なんて十代はずっと同じだよ。もし麗がその男子のことを好きなら、告白してみたらどう?」
「残念ながら、まったく興味はないんですよね。」
「もったいない。麗くらいかわいかったら、選び放題じゃない」
「恋愛に興味がないわけじゃないですよ。子供っぽい同級生の男子に興味がないだけです」
「じゃあ、麗は他に好きな人とかっているの?」
「まあ、いないこともないですよ」
「誰なの?教えてよ?」
それまで部員の練習に視線を注いでいた麗が、こちらに顔を向けた。
「今日はやけに積極的ですよね、莉子先輩。なにかありましたか?」
「……」
ここでためを作る。深刻に悩んでそうな表情をあえて浮かべる。
「わたしね、麗に相談しようかと思ってたんだ」
「相談?なんのですか?」
「わたしね、実は海斗くんと別れようかと思ってるんだよね」
「え?」
「他に好きな人がいるの。でも、それを打ち明けることができなくて、どうしたらいいのか、麗に相談したいと思ってたんだけれど」
もちろん、これは嘘。麗の心を海斗くんへと向けるための作戦のひとつにすぎない。
短期間で麗と海斗くんをくっつけるなら、まずはわたしが別れるという意思をしっかりと示さないといけない。そうじゃなければ、麗も一歩踏み出そうとはしないから。
「ほんとなんですか、それ?」
わたしは神妙な感じでうなずく。
「中学から付き合ってきて、なんか、これでいいのかなって思うようになったの。惰性的っていうか、海斗くんしか知らない人生ってつまらないなって思い始めたとき、その人が目の前に現れて」
「橘先輩よりも魅力的な人って、なかなかいないですよね。相手は誰なんですか?」
「それは秘密。まだ自分の気持ちは打ち明けてないから」
「もしかして、サッカー部の誰か、ということですか?」
「だから秘密だって」
「なら、答えようがないですよ。相手の情報がなかったら、的確なアドバイスもできませんし」
「こういう経験、麗にはないの?」
「ありませんよ。これまで誰とも付き合ったことがないので」
麗の口調は素っ気ない。
でも、それはこの話題に興味がないからじゃなく、むしろ逆。海斗くんと付き合える可能性があることを意識してしまっているから、あえて平然を装うとしているだけ。
「告白されたことは?」
「前に言いませんでした?告白をされたことはあります。でも断ってるんです」
「ふーん、麗って相手に求めるレベルが高そうだよね。誰でもいいから、なんて発想はなさそう」
「別に、イケメン好きというわけじゃないですけど、付き合うことを目的にはしないですね」
「じゃあ、海斗くんとかはどう?付き合うことはできそう?」
麗の目に戸惑いが浮かぶ。さすがにわたしへの不信感みたいなのが見てとれる。
「そういうのよくないですよ。橘先輩の気持ちを無視した言い方、気分悪いです」
「ごめん、ただ、海斗くんはああ見えて寂しがりやだから、誰かが近くにいてほしいと思っただけなの。それに、麗なら海斗くんにぴったりかなって。普段からよく話題にでるし」
「どんな話題ですか?」
「マネージャーの仕事ぶりをよく評価してるよ。あんなにかわいいのに、必死に働くから偉いなって」
ちょっと露骨すぎたかな、と思わないこともなかった。海斗くんが言うような台詞じゃないから、嘘がばれたかもって。
「橘先輩のことを心配する気持ちがあるのなら、別れる必要はないと思いますけど」
大丈夫みたい。麗はわたしの発言を信じている。
「恋愛感情と友情は別だよ。わたしは他の人と付き合いたいと願っているけど、海斗くんにも幸せになってもらいたいと思っている。これって悪いことかな?」
「……ちゃんと橘先輩に気持ちを伝えたあとなら、問題はないと思いますけど、橘先輩が幸せになるかどうかはわかりませんよね」
「そうだね。これはわたしのワガママなんだよ。2つのことを同時に追おうとしている。麗が海斗くんを支えてくれさえすれば、すべてが解決するんだけど」
少しは麗の気持ちも揺れ動いてるかな。少なくとも、これでわたしへの遠慮というものはなくなった気がする。
「ねぇ、麗。わたしの代わりに海斗くんにこの気持ち、伝えてくれない?」
「別れたい、ということをですか」
「そう。海斗くんが傷つくような顔は見たくはないから」
「莉子先輩、それくらいの覚悟はないとダメですよ。そこは他人を頼ってはいけないところです」
まあ、このイベントはなくても大丈夫。わたしが死んだあと、麗がわたしからこう言うことを実は言われたんだ、という展開さえあればいい。
「そう、だよね。なんでもかんでも人を頼っちゃダメだよね」
「恋愛には責任も伴いますからね」
「わかった。わたしの口からちゃんと」
そう言ってわたしは頭を手で抑えると、ことさら苦しそうな表情を浮かべ、ふらふらとよろめいて見せた。
「どうかしたんですか?」
「ごめん、実は朝からずっと調子が悪くて、どうにか我慢してたんだけれど、限界が来たみたい。わたし、早退するね。顧問の先生には麗から伝えておいて」
とりあえずひとつの目的は達した。麗はわたしと海斗くんが別れることを知った。それで充分。こうした小さなきっかけがあれば、あとで大きな決断の後押しになるから。
「保健室に行きます?」
「ううん、もう帰る。麗、長い話を聞いてくれて、ありがとう、じゃあね」
わたしはそう言い残して、その場を立ち去った。
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