あなたと過ごす最後の七日間

パプリカ

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麗はまだ遠くには行っていなかった。まっすぐに道を歩いていたので、すぐに見つけることができた。

「麗!」

信号待ちをしている麗に近づき、わたしは叫ぶように言った。

「莉子先輩?」

麗が振り向く。

「ねぇ、本当なの、離婚したって」
「え?」
「いいから、早く答えて!」

わたしは麗の両肩をつかんで、その体を揺さぶった。

「ちょ、ちょっと落ち着いてください」
「どうなの、ねぇ、どうなの!?」

麗は助けを求めるように視線を横にやった。
わたしは隣に立つ、お母さんらしき人に目を向けた。

「麗のお母さんですよね。教えてください、夫と別れたのかどうかを、いますぐ」
「あの、あなたは?」
「わたし、芹沢莉子っていいます。麗さんとはサッカー部のマネージャーを一緒にやってました」
「名前は聞いたことあるけど」

怪訝そうな顔をしながらも、麗のお母さんは比較的冷静な対応だった。それでわたしも少し落ち着くことができた。

そうだ、ここは歩道。土曜日の今日は往来も多い。大騒ぎをすれば警察が駆けつけてくるかもしれない。

変な人だと思われちゃだめ。ちゃんと確認すべきことを確認しないと。

「いえ、麗さんの様子が最近おかしくて、その原因が両親の離婚によるものではないかと、知り合いから聞いたもので」
「あら、そうなの。離婚してもう三ヶ月も経つけど、まだ引きずっているの?」

お母さんからそう確認をされても、麗はまだ戸惑いを浮かべている。きっと麗は必死に隠してきたんだと思う。それが知られてしまっていたことで動揺してまっている。

「お母さん、わたし先輩とちょっと話していくから」

絞り出すようにして言ってお母さんを先に行かせると、麗はわたしに向き直った。

「どうして、わたしの親が離婚したことを知ったんですか」
「さっき言った通り。先輩からそういう話を聞いたの」
「もしかして、新しく付き合い始めた彼氏、ですか」
「そうだけど」
「本当に、橘先輩とは別れたんですね」
「うん、そうだよ」
「莉子先輩、ほんとどうしちゃったんですか。幼馴染みの彼氏と別れたかと思ったら、すぐに別の人と付き合って、その上、わたしの両親の離婚に妙にこだわったりして、もうわけわかんないですよ」

わたしだってそんなことはわかっている。いまのわたしは他人から見たらおかしな人だってことくらいちゃんと理解している。

「それよりも、どうして両親が離婚したの?その理由を教えて」
「だから、どうしてそこまでうちの親にこだわるんですか。莉子先輩の親と不倫をしたわけでもないですよね」
「不倫?それが離婚の原因なの?」

麗は呆れたようにため息をついた。

「父親の浮気ですよ。いまはもう、新しい奥さんと一緒に暮らしています。これでいいですか?」
「じゃあ、家を追い出されたってこと?」
「そうですよ。でも別に不満はありませんよ。お金の面では苦労してないですから。ただ、周りから視線が気になるから何も言わなかっただけです。そういう役割りみたいなのを求められるので。莉子先輩には言うつもりだったんですけど、タイミングが合わなかったですね」

目の前が真っ暗になった気がした。まだ可能性は残されているとはいえ、はっきりと大丈夫とは言えなくなる。
これでは自殺だって、できない。そんなことしたら、すべてが終わってしまう。

もう一度繰り返す?

でも、麗の両親はとっくに離婚してしまっている。一週間よりもずっと前に。
きっと結果は同じになる。麗は大丈夫かもしれないけど、海斗くんは……。

「あの、莉子先輩?」

空中をぼうっと見ているわたしに、麗が声をかけてくる。

「なに?」
「なにって、感情の振り幅、大きすぎじゃないですか。さっきまであんなに必死だったのに、突然呆然として」
「そう、だね。麗には迷惑かけたね」
「ほんと、大丈夫ですか?マネージャーを突然やめて、橘先輩と別れ、わたしとの会話には一度も出てこなかった先輩と付き合い、わたしの両親が離婚したかを知りたがる、これここ最近に起きたことですよ」
「いろいろと、わたしにも事情があったんだよ」
「どんな事情ですか」

もういっそ、すべてを麗に打ち明けてしまおうかな。そんな誘惑にもかられてしまうけど、どうせ半信半疑で終わっちゃうか。

「ごめん、もう用は済んだから、お母さんのところに行っていいよ」
「ほんと、なんなんですか」

麗は眉をひそめたまま、その場を立ち去ろうとした。
次の瞬間。
轟音が辺りに響き渡った。

「え?」

音のするほうを見た。少し先にあるビルから響いてきた。
雑居ビルの三階、その窓からモクモクと煙が吹き出している。

「あ、そうか。今日なんだ、爆弾が爆発するのって」
この近くで起きることを、すっかり忘れていた。解体を待つような古いビルで、内部には誰もいないことをわたしは知っている。爆風で飛び散ったガラスで怪我をする人摺すらいない。だから特別な危機感も生まれなかったのかもしれない。

「な、なにが起こったんですか」

狼狽える麗。
わたしはその隣に立った。

「あれはこの一年くらい起きてる爆弾魔の事件。でも安心して、あのなかには誰もいないから、今回も死人は出てないよ」

落ち着いた説明に、麗はまばたきを繰り返す。

「なんでわかるんですか?」
「まあ、さっき通りかかったから?」
「疑問系なのが気になるんですけど」

わたしにとってはこんなイベント、どうでもいいこと。仮に人が死んだってなにも思わないはず。

とりあえず試してみるしかない。いまはもう、時間が過ぎるのを待とう。いまからできることなんて、もう何もないんだから。
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