14 / 34
14
しおりを挟む
麗はまだ遠くには行っていなかった。まっすぐに道を歩いていたので、すぐに見つけることができた。
「麗!」
信号待ちをしている麗に近づき、わたしは叫ぶように言った。
「莉子先輩?」
麗が振り向く。
「ねぇ、本当なの、離婚したって」
「え?」
「いいから、早く答えて!」
わたしは麗の両肩をつかんで、その体を揺さぶった。
「ちょ、ちょっと落ち着いてください」
「どうなの、ねぇ、どうなの!?」
麗は助けを求めるように視線を横にやった。
わたしは隣に立つ、お母さんらしき人に目を向けた。
「麗のお母さんですよね。教えてください、夫と別れたのかどうかを、いますぐ」
「あの、あなたは?」
「わたし、芹沢莉子っていいます。麗さんとはサッカー部のマネージャーを一緒にやってました」
「名前は聞いたことあるけど」
怪訝そうな顔をしながらも、麗のお母さんは比較的冷静な対応だった。それでわたしも少し落ち着くことができた。
そうだ、ここは歩道。土曜日の今日は往来も多い。大騒ぎをすれば警察が駆けつけてくるかもしれない。
変な人だと思われちゃだめ。ちゃんと確認すべきことを確認しないと。
「いえ、麗さんの様子が最近おかしくて、その原因が両親の離婚によるものではないかと、知り合いから聞いたもので」
「あら、そうなの。離婚してもう三ヶ月も経つけど、まだ引きずっているの?」
お母さんからそう確認をされても、麗はまだ戸惑いを浮かべている。きっと麗は必死に隠してきたんだと思う。それが知られてしまっていたことで動揺してまっている。
「お母さん、わたし先輩とちょっと話していくから」
絞り出すようにして言ってお母さんを先に行かせると、麗はわたしに向き直った。
「どうして、わたしの親が離婚したことを知ったんですか」
「さっき言った通り。先輩からそういう話を聞いたの」
「もしかして、新しく付き合い始めた彼氏、ですか」
「そうだけど」
「本当に、橘先輩とは別れたんですね」
「うん、そうだよ」
「莉子先輩、ほんとどうしちゃったんですか。幼馴染みの彼氏と別れたかと思ったら、すぐに別の人と付き合って、その上、わたしの両親の離婚に妙にこだわったりして、もうわけわかんないですよ」
わたしだってそんなことはわかっている。いまのわたしは他人から見たらおかしな人だってことくらいちゃんと理解している。
「それよりも、どうして両親が離婚したの?その理由を教えて」
「だから、どうしてそこまでうちの親にこだわるんですか。莉子先輩の親と不倫をしたわけでもないですよね」
「不倫?それが離婚の原因なの?」
麗は呆れたようにため息をついた。
「父親の浮気ですよ。いまはもう、新しい奥さんと一緒に暮らしています。これでいいですか?」
「じゃあ、家を追い出されたってこと?」
「そうですよ。でも別に不満はありませんよ。お金の面では苦労してないですから。ただ、周りから視線が気になるから何も言わなかっただけです。そういう役割りみたいなのを求められるので。莉子先輩には言うつもりだったんですけど、タイミングが合わなかったですね」
目の前が真っ暗になった気がした。まだ可能性は残されているとはいえ、はっきりと大丈夫とは言えなくなる。
これでは自殺だって、できない。そんなことしたら、すべてが終わってしまう。
もう一度繰り返す?
でも、麗の両親はとっくに離婚してしまっている。一週間よりもずっと前に。
きっと結果は同じになる。麗は大丈夫かもしれないけど、海斗くんは……。
「あの、莉子先輩?」
空中をぼうっと見ているわたしに、麗が声をかけてくる。
「なに?」
「なにって、感情の振り幅、大きすぎじゃないですか。さっきまであんなに必死だったのに、突然呆然として」
「そう、だね。麗には迷惑かけたね」
「ほんと、大丈夫ですか?マネージャーを突然やめて、橘先輩と別れ、わたしとの会話には一度も出てこなかった先輩と付き合い、わたしの両親が離婚したかを知りたがる、これここ最近に起きたことですよ」
「いろいろと、わたしにも事情があったんだよ」
「どんな事情ですか」
もういっそ、すべてを麗に打ち明けてしまおうかな。そんな誘惑にもかられてしまうけど、どうせ半信半疑で終わっちゃうか。
「ごめん、もう用は済んだから、お母さんのところに行っていいよ」
「ほんと、なんなんですか」
麗は眉をひそめたまま、その場を立ち去ろうとした。
次の瞬間。
轟音が辺りに響き渡った。
「え?」
音のするほうを見た。少し先にあるビルから響いてきた。
雑居ビルの三階、その窓からモクモクと煙が吹き出している。
「あ、そうか。今日なんだ、爆弾が爆発するのって」
この近くで起きることを、すっかり忘れていた。解体を待つような古いビルで、内部には誰もいないことをわたしは知っている。爆風で飛び散ったガラスで怪我をする人摺すらいない。だから特別な危機感も生まれなかったのかもしれない。
「な、なにが起こったんですか」
狼狽える麗。
わたしはその隣に立った。
「あれはこの一年くらい起きてる爆弾魔の事件。でも安心して、あのなかには誰もいないから、今回も死人は出てないよ」
落ち着いた説明に、麗はまばたきを繰り返す。
「なんでわかるんですか?」
「まあ、さっき通りかかったから?」
「疑問系なのが気になるんですけど」
わたしにとってはこんなイベント、どうでもいいこと。仮に人が死んだってなにも思わないはず。
とりあえず試してみるしかない。いまはもう、時間が過ぎるのを待とう。いまからできることなんて、もう何もないんだから。
「麗!」
信号待ちをしている麗に近づき、わたしは叫ぶように言った。
「莉子先輩?」
麗が振り向く。
「ねぇ、本当なの、離婚したって」
「え?」
「いいから、早く答えて!」
わたしは麗の両肩をつかんで、その体を揺さぶった。
「ちょ、ちょっと落ち着いてください」
「どうなの、ねぇ、どうなの!?」
麗は助けを求めるように視線を横にやった。
わたしは隣に立つ、お母さんらしき人に目を向けた。
「麗のお母さんですよね。教えてください、夫と別れたのかどうかを、いますぐ」
「あの、あなたは?」
「わたし、芹沢莉子っていいます。麗さんとはサッカー部のマネージャーを一緒にやってました」
「名前は聞いたことあるけど」
怪訝そうな顔をしながらも、麗のお母さんは比較的冷静な対応だった。それでわたしも少し落ち着くことができた。
そうだ、ここは歩道。土曜日の今日は往来も多い。大騒ぎをすれば警察が駆けつけてくるかもしれない。
変な人だと思われちゃだめ。ちゃんと確認すべきことを確認しないと。
「いえ、麗さんの様子が最近おかしくて、その原因が両親の離婚によるものではないかと、知り合いから聞いたもので」
「あら、そうなの。離婚してもう三ヶ月も経つけど、まだ引きずっているの?」
お母さんからそう確認をされても、麗はまだ戸惑いを浮かべている。きっと麗は必死に隠してきたんだと思う。それが知られてしまっていたことで動揺してまっている。
「お母さん、わたし先輩とちょっと話していくから」
絞り出すようにして言ってお母さんを先に行かせると、麗はわたしに向き直った。
「どうして、わたしの親が離婚したことを知ったんですか」
「さっき言った通り。先輩からそういう話を聞いたの」
「もしかして、新しく付き合い始めた彼氏、ですか」
「そうだけど」
「本当に、橘先輩とは別れたんですね」
「うん、そうだよ」
「莉子先輩、ほんとどうしちゃったんですか。幼馴染みの彼氏と別れたかと思ったら、すぐに別の人と付き合って、その上、わたしの両親の離婚に妙にこだわったりして、もうわけわかんないですよ」
わたしだってそんなことはわかっている。いまのわたしは他人から見たらおかしな人だってことくらいちゃんと理解している。
「それよりも、どうして両親が離婚したの?その理由を教えて」
「だから、どうしてそこまでうちの親にこだわるんですか。莉子先輩の親と不倫をしたわけでもないですよね」
「不倫?それが離婚の原因なの?」
麗は呆れたようにため息をついた。
「父親の浮気ですよ。いまはもう、新しい奥さんと一緒に暮らしています。これでいいですか?」
「じゃあ、家を追い出されたってこと?」
「そうですよ。でも別に不満はありませんよ。お金の面では苦労してないですから。ただ、周りから視線が気になるから何も言わなかっただけです。そういう役割りみたいなのを求められるので。莉子先輩には言うつもりだったんですけど、タイミングが合わなかったですね」
目の前が真っ暗になった気がした。まだ可能性は残されているとはいえ、はっきりと大丈夫とは言えなくなる。
これでは自殺だって、できない。そんなことしたら、すべてが終わってしまう。
もう一度繰り返す?
でも、麗の両親はとっくに離婚してしまっている。一週間よりもずっと前に。
きっと結果は同じになる。麗は大丈夫かもしれないけど、海斗くんは……。
「あの、莉子先輩?」
空中をぼうっと見ているわたしに、麗が声をかけてくる。
「なに?」
「なにって、感情の振り幅、大きすぎじゃないですか。さっきまであんなに必死だったのに、突然呆然として」
「そう、だね。麗には迷惑かけたね」
「ほんと、大丈夫ですか?マネージャーを突然やめて、橘先輩と別れ、わたしとの会話には一度も出てこなかった先輩と付き合い、わたしの両親が離婚したかを知りたがる、これここ最近に起きたことですよ」
「いろいろと、わたしにも事情があったんだよ」
「どんな事情ですか」
もういっそ、すべてを麗に打ち明けてしまおうかな。そんな誘惑にもかられてしまうけど、どうせ半信半疑で終わっちゃうか。
「ごめん、もう用は済んだから、お母さんのところに行っていいよ」
「ほんと、なんなんですか」
麗は眉をひそめたまま、その場を立ち去ろうとした。
次の瞬間。
轟音が辺りに響き渡った。
「え?」
音のするほうを見た。少し先にあるビルから響いてきた。
雑居ビルの三階、その窓からモクモクと煙が吹き出している。
「あ、そうか。今日なんだ、爆弾が爆発するのって」
この近くで起きることを、すっかり忘れていた。解体を待つような古いビルで、内部には誰もいないことをわたしは知っている。爆風で飛び散ったガラスで怪我をする人摺すらいない。だから特別な危機感も生まれなかったのかもしれない。
「な、なにが起こったんですか」
狼狽える麗。
わたしはその隣に立った。
「あれはこの一年くらい起きてる爆弾魔の事件。でも安心して、あのなかには誰もいないから、今回も死人は出てないよ」
落ち着いた説明に、麗はまばたきを繰り返す。
「なんでわかるんですか?」
「まあ、さっき通りかかったから?」
「疑問系なのが気になるんですけど」
わたしにとってはこんなイベント、どうでもいいこと。仮に人が死んだってなにも思わないはず。
とりあえず試してみるしかない。いまはもう、時間が過ぎるのを待とう。いまからできることなんて、もう何もないんだから。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる