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しおりを挟む中学生のとき、わたしは何度も死んだ。
自分の能力への自覚がなかったから、同じ事故に何度もあった。学校から帰宅している最中、前方不注意の車にひかれることが、繰り返し起こった。
そのたびにわたしは一週間前へと戻ったのだけれど、すぐにそれが能力のおかげであるとは気づかなかった。
毎回嫌な夢を見たな、で完結してしまっていた。だからはっきりとは記憶しようとはせずに、一週間後にはすっかりそのことをわすれてしまっていた。
これは夢ではない、と気づいたのは友達の助言があったからだった。
ーーそれって死帰りの能力なんじゃない?
わたしから事情を聞いた彼女はそう言って、具体的な症例を説明してくれた。
彼女の名前は会沢真琴。同じクラスの同級生だった。
マコは文学部に所属していて、将来は小説家を目指していた。能力者を題材としたものを書きたいという願望を持っていたので、そちらの方面にはいろいろと詳しかったのだ。
わたしはやけにリアルな悪夢を見るの、という相談を彼女にした。
たぶん、最低三回は死んだあとのことだったと思う。
死を何度も繰り返しているうちに、わたしの頭にはそのときの事故の映像がどんどん積み重なっていって、親友への相談というイベントに繋がったのだと思う。
マコはわたしから話を詳しく聞き出し、事故が起こる日を特定した。
死帰りは一週間前に戻る能力なので、悪夢を見た日から計算すれば簡単に判明した。
事故を回避することは簡単。基本的に前回と出来事はほぼ同じ時間に起きるので、そのときにその場にいなければ事故に巻き込まれることはない。
半信半疑ではあったけれど、わたしはマコのアドバイスに従うことにした。
わたしは中学時代もサッカー部のマネージャーをしていた。基本的にそんなにやることも多くはなかったので、体調不良を理由に途中で帰ることも難しくはなかった。
一応わざとらしく頭痛がするという演技もしたけれど、そんなことをしなくても早退は許されたと思う。
部活を最初から完全に休まなかったのは、あえて事故を目撃しようと思ったから。
夢で見たものが本当に起きるのかどうかこの目で確かめたかった。怖いもの見たさというか、ギリギリのところで死の運命を回避するという流れも面白いと思った。
事故が起こったのは交差点で、わたしはそこを少し前に通過した。
具体的な時間というものは、普段の帰宅時間からおおよそ計算することができた。
そこから少し離れた電柱に身を隠すようにして、わたしはそのときを待った。
そして、その時刻に差し掛かろうというとき、わたしは車のほうは見てはいなかった。
歩道のほうに視線を奪われていた。
向こうの方から海斗くんがやってきたから。
まだ部活の途中なのにどうして、という疑問を感じている間に、海斗くんは姿はどんどんと大きくなる。
このままじゃまずい、と気づいたときにはすでに遅かった。海斗くんはわたしが事故にあうはずだった場所にいた。車が交差点に侵入し、人影を認識して慌ててハンドルを切ったときには、すでに手遅れだった。
ーー海斗くんは命には別状はなかった。ただ、体の機能がすべて元通りになったわけではなかった。
複雑骨折の影響で前のように全速力で走ることはできなくなり、アスファルトにたたきつけられた影響で右目の視力はほとんどなくなってしまった。
海斗くんはそれでも、サッカー部をやめることはしなかった。練習のパートナーにはなれるから。激しいプレーは難しくても、ボール回しに苦労することはない。
もちろん、試合に出ることはできないけど、サッカーに携わっていくことがなによりの幸せだと、海斗くんは感じていたようだった。積極的に道具の片付けなんかもして、マネージャーとしての役割だって積極的にこなしていた。
それは高校になってからも同じ。
わたしはよく海斗くんから感謝の言葉を聞いた。莉子、お前がいてくれたから前向きに生きられるようになったんだよって。
わたしは確かに、海斗くんを必死に看病した。共働きの海斗くんの両親ができないことを引き受け、リハビリにも付き合い、前向きな言葉を繰り返し口にした。
でも、それは、あくまでも罪悪感から来る行動だった。
あの日、海斗くんはわたしを追って部活を早退した。わたしは部活を休むために激しく演技をしたから、もしかしたら途中で倒れてしまっているのかもしれないと不安になったらしかった。
もし、わたしが部活を早退しなければ?
いつもの時間に帰り、少し遠回りでもしておけば?
あの事故に巻き込まれることはなく、海斗くんが二度とサッカーができないようなことにはならなかったはず。
わたしが、海斗くんから未来を奪ってしまったのだ。わたしの未熟さが招いてしまった事故だった。
わたしは罪滅ぼしのために、海斗くんのために時間を割いた。すべてのプライベートを海斗くんのために捧げた。
それが恋愛感情だと海斗くんが誤解しても不思議じゃないくらいに、尽くした。
そのことがきっかけで、わたしたちは付き合うようになった。
海斗くんから告白をされたとき、わたしには断る勇気はなかった。近づけば近づくほどわたしの罪が露見するような気はしたけれど、でも、海斗くんの望美を否定することはできなかった。
わたしはたびたび思う。自分は本当に海斗くんを愛しているのかって。
その結論はいまも出ていない。罪悪感が大きすぎて、心の奥底までたどり着くことができないから。
海斗くんのことは嫌いじゃない。男子のなかで一番好きなのは間違いがない。
でも、恋愛と親しみには大きな隔たりがある。まだ十代のいま、わたしにはその違いなんかも理解できるはずもない。
海斗くんもにたようなものかもしれない。看病するわたしへのありがたみを、恋愛感情と誤解しているだけなのかもしれない。
それも、ひとつの形なのかもしれないとは思う。すべてのことを純粋に愛することが、必ずしも正しいとは言えない。なにかきっかけがあって、そこから本物の愛に近づいていくのかもしれない。
このまま大人になり結婚すれば、わたしたちはむしろ幸せになれるのかもしれない。
大人になれれば、の話ではあるけれど。
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