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しおりを挟むその過去を、わたしは海斗くんには伝えていない。
だから海斗くんはいまも、わたしのせいで事故に遭ったなんてことは知らない。
わたしの謝罪の言葉も、届くわけがなかった。
「まだあのときのことなんか気にしてるのか。お前が悪い要素なんてひとつもないだろ。交通事故なんてものは偶然に過ぎないんだから」
いつか説明したいとは思っていた。わたしの能力も含めて、海斗くんに理解してもらいたいと。
でも、その可能性はもうない。
少なくとも、いまは。
「むしろ、感謝してるんだ。莉子、お前が熱心に看病してくれたから、いまのおれがあると思っている。あのままだったらおれ、すべてのことに絶望して生きるのをやめたかもしれない。あのときの絶望感を晴らしてくれたのは莉子、お前なんだよ」
「……」
「今度はさ、おれが莉子のことを守るよ。お前がちゃんと前みたいな生活を送れるよう、リハビリにも付き合う。部活だってもうやめるつもりなんだ。だから、生きるのを諦めるな。」
「……部活」
「ちょうど踏ん切りをつけるべきときなのかもしれない。どうせ、まともにはサッカーなんてやれないんだから、スパッと諦めたほうがいいのかもな」
「ダメ、だよ。海斗くんは、サッカーがすべて、なんでしょ」
「おまえに比べたら、大したことないよ。サッカーはプレーするだけがすべてじゃない。地元のチームを応援することだけでも十分に楽しめるんだ」
嘘、だよ。だったら、どうしてサッカー部に入ってるの?プレーすることに意味を感じてるからでしょ。いつかこの目も治るかもしれない、そんな期待を抱いているからでしょ。
「おまえが元気になったら、またスタジアムに応援に行こうな。二人で大声で選手の背中を押すんだ。そうすればきっとチームも勝つからさ」
胸が痛かった。
そしてそんな痛みを感じるということは、わたしにはまだ生きる気力があるのだと悟った。
わたしにはまだ、やるべきことがある。
生きよう、海斗くんのために。
あと数時間だけれど、このまま意識を保っていれば、わたしの自殺は成立しないはず。
そうすればまた、7月17日に戻ることができる。
「……海斗くん」
「なんだ?」
「わたしね、今度こそ、海斗くんを救うから」
「え?」
「どんなことをしても、海斗くんを守るから。わたしの命が尽きる前に、成功させてみせるから」
「莉子、どうしたんだ。混乱しているのか」
絶望はもう、許されない。わたしはこの命が尽きるまで、ううん、つきる前に、必ず計画を成功させてみせる。
「ねぇ、海斗くん、この部屋にテレビってある?」
「ああ。隅のほうに置いてあるけど」
「どこでもいいから、つけてみて」
「見たい番組とかあるのか?」
「いいから、お願い」
「あ、ああ」
海斗くんの姿が視界から消えた。顔を満足に動かすことができないので、そのあとを追うことはできない。
海斗くんの声を頻繁に聞いていたからか、不思議と聴力はダメージを受けてはいなかった。海斗くんの足音やテレビをつける音までわたしは認識することができた。
「な、なんだよこれ」
呆然とする海斗くんの声。
おそらく、テレビには緊急のニュース映像が流れているはず。
「本当、なのか、これ」
ーー国民のみなさまに緊急ニュースをお伝えします。
落ち着いて聞いてください。
これより数時間後、この国に隕石が落下します。
もはや直撃は避けられない状況となっています。
隕石は極めて大きく、少なくとも日本列島の多くが影響を受けることは確実です。
繰り返します、まもなくこの国に隕石が落下します。
すでに空港や港は閉鎖されています。
国外へ逃げることは諦めてください。
いまは家族や友人と、最後の時間をお過ごしください。
海斗くんの携帯が鳴っている。両親がお姉さんが慌てて連絡してきているのかもしれない。
海斗くんが電話に出る様子はない。あまりの出来事に、呆然としているのかもしれない。
最初の週はもっとしっかりしていた。わたしがそばにいたから、決して弱い自分を見せようとはしなかった。
「大丈夫だよ、海斗くん」
反応はまったくなかった。海斗くんはわたしの声が聞こえない距離に立っている。
「あなただけは、わたしが救うから」
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