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【 第三部 】 愛の記憶

13.

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 冬乃は沖田を見上げたまま、小さく吐息を零した。
 
 もう幾度抱かれていても、離れてしまえば、そんな時間を昨日よりももっと強く求めてしまう。ずっと離れないで傍にいて、埋め尽くしてほしいと。
 
 貴方で、
 貴方との愛で。
 この世での全ての記憶を。
 
 そんなことをいっそ叫んでしまいたい心を、冬乃はかわらず持て余している。
 
 
 「・・冷えるから、急ごう」
 
 何か言いかけなかったか。首を傾げかけた冬乃の、
 うなじと襟の間に、次には熱い手が挿しこまれ。冬乃はぞくりと奔りぬけた感で息を震わせた。
 
 大きな手は襦袢の襟をつたい、紐を解いて前を開きながら肩先をゆっくりと滑らせる。
 露わになるサラシを隠そうと咄嗟に交差した冬乃の腕は、背中に向かって剥ぎ取られてゆく襦袢に引かれ、むなしく後ろへと伸ばされた。
 
 ばさりと空中で冬乃の襦袢を一度広げた沖田は、衣桁にかけ終えると、さっさと自分の残りの服も脱いでゆく。冬乃は慌てて目を逸らし、再び前で交差した両の腕を強めた。
 
 すぐに冬乃の視界の端には、褐色の肌が映り。刹那に深く抱き締められた冬乃は、力強い温もりのなかであの常の幸福感に一瞬に包まれて、
 
 冬乃は心と躰に点った、もっと近づきたい感情に素直に、己の両腕を抜くと沖田の背へと回した。
 
 強く。
 硬くて安心する彼の胸へと、擦り寄り。うっとりと瞼をとじる。
 
 
 「たまには、耐えてみるかな・・」
 
 降ってきた溜息に、冬乃はすぐまた目をあけた。

 
 (耐える・・?)
 
 沖田が身を離し、冬乃の手を取って布団へと歩み出す。
 (あ)
 冬乃は再び急激に高まる鼓動に、乱れそうになった息を押して、
 「総司さ、ん」
 呼びかけた。
 
 「なにを」
 耐えるの
 
 問いかけた冬乃の、体はそれより一寸早く大きく引かれて、
 沖田へと崩れるように倒れこんだ、
 先で、逞しい腕に支えられ、視界が回転し。
 
 ふわりと。背に、厚い幾層もの敷布団を感じた。




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