351 / 472
【 第三部 】 愛の記憶
13.
しおりを挟む冬乃は沖田を見上げたまま、小さく吐息を零した。
もう幾度抱かれていても、離れてしまえば、そんな時間を昨日よりももっと強く求めてしまう。ずっと離れないで傍にいて、埋め尽くしてほしいと。
貴方で、
貴方との愛で。
この世での全ての記憶を。
そんなことをいっそ叫んでしまいたい心を、冬乃はかわらず持て余している。
「・・冷えるから、急ごう」
何か言いかけなかったか。首を傾げかけた冬乃の、
うなじと襟の間に、次には熱い手が挿しこまれ。冬乃はぞくりと奔りぬけた感で息を震わせた。
大きな手は襦袢の襟をつたい、紐を解いて前を開きながら肩先をゆっくりと滑らせる。
露わになるサラシを隠そうと咄嗟に交差した冬乃の腕は、背中に向かって剥ぎ取られてゆく襦袢に引かれ、むなしく後ろへと伸ばされた。
ばさりと空中で冬乃の襦袢を一度広げた沖田は、衣桁にかけ終えると、さっさと自分の残りの服も脱いでゆく。冬乃は慌てて目を逸らし、再び前で交差した両の腕を強めた。
すぐに冬乃の視界の端には、褐色の肌が映り。刹那に深く抱き締められた冬乃は、力強い温もりのなかであの常の幸福感に一瞬に包まれて、
冬乃は心と躰に点った、もっと近づきたい感情に素直に、己の両腕を抜くと沖田の背へと回した。
強く。
硬くて安心する彼の胸へと、擦り寄り。うっとりと瞼をとじる。
「たまには、耐えてみるかな・・」
降ってきた溜息に、冬乃はすぐまた目をあけた。
(耐える・・?)
沖田が身を離し、冬乃の手を取って布団へと歩み出す。
(あ)
冬乃は再び急激に高まる鼓動に、乱れそうになった息を押して、
「総司さ、ん」
呼びかけた。
「なにを」
耐えるの
問いかけた冬乃の、体はそれより一寸早く大きく引かれて、
沖田へと崩れるように倒れこんだ、
先で、逞しい腕に支えられ、視界が回転し。
ふわりと。背に、厚い幾層もの敷布団を感じた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
923
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる