6 / 36
第一章
夕焼け
しおりを挟む
史織から学校の駐車場に着いたと連絡が入り、由人は久場に背負われ駐車場まで行く。
史織は、家でも学校行事でも早恵子とは何度か会っているが、久場とはもちろん初めてだ。
いきなり現れた高身長のイケメンに弟が背負われていて史織は驚いた。
「はじめまして……弟が大変お世話になったみたいで、ありがとうございます」
「いいえ、応急処置はしたんですけど、明日病院で診てもらった方がいいと思います、伊勢川くんは後部座席に乗せますか?」
「はい、そうですね、ありがとうございます」
そんなやり取りがあって、久場は由人を一旦地面に降ろし、軽々と横抱きに抱いた。
由人と同じ制服の高校生でありながら、あまりにも飄々とプレイボーイな行動をする久場に史織は「Wow……」と感嘆の声をあげながら、後部座席のスライドドアを開ける。
「降ろすぞ、伊勢川……今日はよく頑張ったな、気をつけて帰れよ、明日ちゃんと病院行けよ」
過保護な事を言いながら久場はシートベルトまで閉めて、髪を撫でてくる。
指で前髪を触り、由人の瞳を見て人懐っこく笑う。
由人は真っ赤な顔をして頷くしか出来なかった。
早恵子は冷めた表情でそれを見ながら鞄と靴を車に置く。
「じゃあな」と、言ってからスライドドアを閉めた久場を、史織は見上げた。
「背が高いんですね」
「はい……」久場が少しだけ微笑み、スポーツ男子の機敏な動きで一歩下がり姿勢を正すと史織に一礼をする。
「史織さん、それじゃ、気をつけて~」
その隣で早恵子がにこにこと笑って手を振った。
「そうね、2人とも今日は本当にありがとう、助かりました」史織も一礼をして車に乗り込んだ。
発進した車を見送りながら早恵子と久場はしばらく手を振る。
「さっきのお姫様抱っこは何なのかしら、久場くんは由くんを女の子と間違えてないかしら?」手を振り終えて早恵子が久場を見据える。
「そんなつもりはない、ああした方が伊勢川を負担なく乗せられるからだよ」
「……まあ、いいわ……はっきり聞くけど、久場くんは由くんと友達になりたいの?」
「そうだよ」
「……弟みたいだから?」
「そうだね、弟みたいってのもあるけど伊勢川はいつも一生懸命だよな、すごくいい奴だ、正直仲良くなりたいし、可愛がりたい」
「私、自慢じゃないけど由くんの一番の友達なの」
「うん、そうだね」
「だからと言ってあなたと由くんを邪魔するつもりはないわ、それは由くんが決めることだし……でも、分かってると思うけど、あなたのだらしがない面を放っておくつもりもないの」
「なるほどな」
「もし、由くんを騙したり傷付けたりしたら、私あなたを許さないから」
「そんなつもりないよ、ただ学校で……内川さん達みたいに伊勢川と話をしたり仲良くしてもいいかな?」
「……由くんもあなたのこと友達だと思っているわ、でもやっぱり心配……あなた二面性があるもの」
「そうかな?」
「……あるでしょう」
「内川さんは俺の何を知っているのかな?」
「噂程度にしか知らないわ、でも生憎だけど、あなたに興味は無いの、由くんを守りたいだけだから」
「頼もしいな……内川さんは好きなの? 伊勢川のこと」
「いいえ、その辺はあなたと似てるわ、可愛いくて純粋で、あんなにいい子で健気な子ほっとけない」
「めちゃくちゃ同意」
「……図に乗らないでくれる、言いたいことは言ったし、帰るわ」
早恵子は地面に置いていた鞄を持ちすたすたと歩いて行く。
「……面白いな、内川さん……サッカーばっかしてて色んな人と話してなかったんだな、俺」
久場も鞄と体操袋を持ち直し駐車場を抜けて自転車置き場へと向かう。
途中、春でまだ冷たい水のプールに入れずに、第二グラウンドで基礎トレーニングをしている水泳部の前を通る。
「久場」
水泳部のキャプテン、時田に声をかけられ立ち止まる。
「今、帰り? 大久保と丸太は?」
「先に帰らせたよ、時田頑張ってんな」
「六月に最後の公式戦があるからな……お前は、引退したんだったか」
「ああ」
「俺も最後だからな、頑張るよ……あれ、お前、塾行くようにしたって言ってなかったか? 何でまだ学校いんの?」
「今日はな、ちょっと図書館に用事があったんだ」
久場はしばらく時田と話をして、学校の自転車置き場に行く。
クロスバイクを長い足で跨いで、空に広がる薄い雲と校舎を染めていく夕焼けを見る。
そのオレンジ色の光景に、切なさと寂しさを感じる。
いつも一緒にいる大久保と丸太がいないからだろうか。
いや、そんな事で寂しさなんて感じた事はないし、今まで部活帰りに、美しい夕焼けは何度も見てきたが、こんな風に足を止めて見入ったことはなかった。
感じたことのない切なさを、久場は不思議に思いながら、その微かに胸を締めつける物寂しさが、心地よかった。
史織は、家でも学校行事でも早恵子とは何度か会っているが、久場とはもちろん初めてだ。
いきなり現れた高身長のイケメンに弟が背負われていて史織は驚いた。
「はじめまして……弟が大変お世話になったみたいで、ありがとうございます」
「いいえ、応急処置はしたんですけど、明日病院で診てもらった方がいいと思います、伊勢川くんは後部座席に乗せますか?」
「はい、そうですね、ありがとうございます」
そんなやり取りがあって、久場は由人を一旦地面に降ろし、軽々と横抱きに抱いた。
由人と同じ制服の高校生でありながら、あまりにも飄々とプレイボーイな行動をする久場に史織は「Wow……」と感嘆の声をあげながら、後部座席のスライドドアを開ける。
「降ろすぞ、伊勢川……今日はよく頑張ったな、気をつけて帰れよ、明日ちゃんと病院行けよ」
過保護な事を言いながら久場はシートベルトまで閉めて、髪を撫でてくる。
指で前髪を触り、由人の瞳を見て人懐っこく笑う。
由人は真っ赤な顔をして頷くしか出来なかった。
早恵子は冷めた表情でそれを見ながら鞄と靴を車に置く。
「じゃあな」と、言ってからスライドドアを閉めた久場を、史織は見上げた。
「背が高いんですね」
「はい……」久場が少しだけ微笑み、スポーツ男子の機敏な動きで一歩下がり姿勢を正すと史織に一礼をする。
「史織さん、それじゃ、気をつけて~」
その隣で早恵子がにこにこと笑って手を振った。
「そうね、2人とも今日は本当にありがとう、助かりました」史織も一礼をして車に乗り込んだ。
発進した車を見送りながら早恵子と久場はしばらく手を振る。
「さっきのお姫様抱っこは何なのかしら、久場くんは由くんを女の子と間違えてないかしら?」手を振り終えて早恵子が久場を見据える。
「そんなつもりはない、ああした方が伊勢川を負担なく乗せられるからだよ」
「……まあ、いいわ……はっきり聞くけど、久場くんは由くんと友達になりたいの?」
「そうだよ」
「……弟みたいだから?」
「そうだね、弟みたいってのもあるけど伊勢川はいつも一生懸命だよな、すごくいい奴だ、正直仲良くなりたいし、可愛がりたい」
「私、自慢じゃないけど由くんの一番の友達なの」
「うん、そうだね」
「だからと言ってあなたと由くんを邪魔するつもりはないわ、それは由くんが決めることだし……でも、分かってると思うけど、あなたのだらしがない面を放っておくつもりもないの」
「なるほどな」
「もし、由くんを騙したり傷付けたりしたら、私あなたを許さないから」
「そんなつもりないよ、ただ学校で……内川さん達みたいに伊勢川と話をしたり仲良くしてもいいかな?」
「……由くんもあなたのこと友達だと思っているわ、でもやっぱり心配……あなた二面性があるもの」
「そうかな?」
「……あるでしょう」
「内川さんは俺の何を知っているのかな?」
「噂程度にしか知らないわ、でも生憎だけど、あなたに興味は無いの、由くんを守りたいだけだから」
「頼もしいな……内川さんは好きなの? 伊勢川のこと」
「いいえ、その辺はあなたと似てるわ、可愛いくて純粋で、あんなにいい子で健気な子ほっとけない」
「めちゃくちゃ同意」
「……図に乗らないでくれる、言いたいことは言ったし、帰るわ」
早恵子は地面に置いていた鞄を持ちすたすたと歩いて行く。
「……面白いな、内川さん……サッカーばっかしてて色んな人と話してなかったんだな、俺」
久場も鞄と体操袋を持ち直し駐車場を抜けて自転車置き場へと向かう。
途中、春でまだ冷たい水のプールに入れずに、第二グラウンドで基礎トレーニングをしている水泳部の前を通る。
「久場」
水泳部のキャプテン、時田に声をかけられ立ち止まる。
「今、帰り? 大久保と丸太は?」
「先に帰らせたよ、時田頑張ってんな」
「六月に最後の公式戦があるからな……お前は、引退したんだったか」
「ああ」
「俺も最後だからな、頑張るよ……あれ、お前、塾行くようにしたって言ってなかったか? 何でまだ学校いんの?」
「今日はな、ちょっと図書館に用事があったんだ」
久場はしばらく時田と話をして、学校の自転車置き場に行く。
クロスバイクを長い足で跨いで、空に広がる薄い雲と校舎を染めていく夕焼けを見る。
そのオレンジ色の光景に、切なさと寂しさを感じる。
いつも一緒にいる大久保と丸太がいないからだろうか。
いや、そんな事で寂しさなんて感じた事はないし、今まで部活帰りに、美しい夕焼けは何度も見てきたが、こんな風に足を止めて見入ったことはなかった。
感じたことのない切なさを、久場は不思議に思いながら、その微かに胸を締めつける物寂しさが、心地よかった。
23
あなたにおすすめの小説
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
ふた想い
悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。
だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。
叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。
誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。
*基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。
(表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)
【完結】観察者、愛されて壊される。
Y(ワイ)
BL
一途な同室者【針崎澪】×スキャンダル大好き性悪新聞部員【垣根孝】
利害一致で始めた″擬装カップル″。友人以上恋人未満の2人の関係は、垣根孝が澪以外の人間に関心を持ったことで破綻していく。
※この作品は単体でも読めますが、
本編「腹黒王子と俺が″擬装カップル″を演じることになりました」(腹黒完璧風紀委員長【天瀬晴人】×不憫な隠れ腐男子【根津美咲】)のスピンオフになります。
****
【あらすじ】
「やあやあ、どうもどうも。針崎澪くん、で合ってるよね?」
「君って、面白いね。この学園に染まってない感じ」
「告白とか面倒だろ? 恋人がいれば、そういうの減るよ。俺と“擬装カップル”やらない?」
軽い声音に、無遠慮な笑顔。
癖のあるパーマがかかった茶色の前髪を適当に撫でつけて、猫背気味に荷物を下ろすその仕草は、どこか“舞台役者”めいていた。
″胡散臭い男″それが垣根孝に対する、第一印象だった。
「大丈夫、俺も君に本気になんかならないから。逆に好都合じゃない? 恋愛沙汰を避けるための盾ってことでさ」
「恋人ってことにしとけば、告白とかー、絡まれるのとかー、無くなりはしなくても多少は減るでしょ?
俺もああいうの、面倒だからさ。で、君は、目立ってるし、噂もすぐ立つと思う。だから、ね」
「安心して。俺は君に本気になんかならないよ。むしろ都合がいいでしょ、お互いに」
軽薄で胡散臭い男、垣根孝は人の行動や感情を観察するのが大好きだった。
学園の恋愛事情を避けるため、″擬装カップル″として利害が一致していたはずの2人。
しかし垣根が根津美咲に固執したことをきっかけに、2人の関係は破綻していく。
執着と所有欲が表面化した針崎 澪。
逃げ出した孝を、徹底的に追い詰め、捕まえ、管理する。
拒絶、抵抗、絶望、諦め——そして、麻痺。
壊されて、従って、愛してしまった。
これは、「支配」と「観察」から始まった、因果応報な男の末路。
【青春BLカップ投稿作品】
【完結】Ωになりたくない僕には運命なんて必要ない!
なつか
BL
≪登場人物≫
七海 千歳(ななみ ちとせ):高校三年生。二次性、未確定。新聞部所属。
佐久間 累(さくま るい):高校一年生。二次性、α。バスケットボール部所属。
田辺 湊(たなべ みなと):千歳の同級生。二次性、α。新聞部所属。
≪あらすじ≫
α、β、Ωという二次性が存在する世界。通常10歳で確定する二次性が、千歳は高校三年生になった今でも未確定のまま。
そのことを隠してβとして高校生活を送っていた千歳の前に現れたαの累。彼は千歳の運命の番だった。
運命の番である累がそばにいると、千歳はΩになってしまうかもしれない。だから、近づかないようにしようと思ってるのに、そんな千歳にかまうことなく累はぐいぐいと迫ってくる。しかも、βだと思っていた友人の湊も実はαだったことが判明。
二人にのαに挟まれ、果たして千歳はβとして生きていくことができるのか。
インフルエンサー
うた
BL
イケメン同級生の大衡は、なぜか俺にだけ異様なほど塩対応をする。修学旅行でも大衡と同じ班になってしまって憂鬱な俺だったが、大衡の正体がSNSフォロワー5万人超えの憧れのインフルエンサーだと気づいてしまい……。
※pixivにも投稿しています
【完結】通学路ですれ違う君は、俺の恋しい人
厘
BL
毎朝、通学路ですれ違う他校の男子同士。初めは気にも留めなかったのだが、ちょっとしたきっかけで話す事に。進学校優秀腹黒男子 高梨流水(たかなし りう)とバスケ男子 柳 来冬(やなぎ らいと)。意外と気が合い、友達になっていく。そして……。
■完結済(予約投稿済です)。
月末まで毎日更新。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる