フラれた彼女のことを忘れようとしたのに、彼女の妹は全て知っていた

ワールド

文字の大きさ
15 / 22

第15話 泣いていいですか

しおりを挟む
 絵里ちゃんの突然の告白に、俺の心は停止した。彼女の表情には迷いがなかったが、俺は完全に混乱していた。何を言っているんだ、絵里は。どうしてこんな嘘をつくのか。俺たちは何もないのに。

 周りは沈黙に包まれた。亮介が必死に雰囲気を盛り上げようとしていたが、その努力も空回りしているように見えた。合コンの楽しい雰囲気は完全に消え失せ、緊張感が部屋を支配していた。

 その中で、立花さんが「えっと……」と切り出した。彼女の声は小さく、緊張に満ちていた。俺は立花さんの方に目を向けた。彼女の表情には、何か言いたいことがあるように見えた。

「その、私たちも驚いているんですけど……」立花さんが言葉を選びながら話し始めた。「絵里さんと名雲さんが付き合っているなんて、初めて聞いたので……」

 彼女の言葉に、周りの空気がさらに硬くなった。俺はただ呆然として、何も言えないでいた。絵里ちゃんのこの行動が何を意味しているのか、全く理解できなかった。

 絵里ちゃんは笑っていたが、その笑顔には何か計算されたものを感じた。彼女は何を企んでいるのだろうか。そして、俺はどう対応すればいいのだろうか。


 絵里ちゃんの突然の宣言に、俺は吐き気を感じるほどのショックを受けた。今にでも崩れ落ちそうな気分だった。それでも、絵里ちゃんは俺の手を握る力を強めた。彼女は、安心しろと言いたいのだろうか。

 風間は俺たちを見て笑って、「いい関係だな、微笑ましい」と言った。しかし、その言葉が終わるやいなや、絵里ちゃんは更なる宣言をした。

「言い忘れましたけど、私の名前は絵里と言いましたけど、苗字は岩浪……私には姉がいるんですけど、偶然にも立花さんと風間さんと同じ大学でしたね! ねぇ?先輩?」

 絵里ちゃんは小悪魔のような笑いを浮かべながら、横目で俺を見た。

 その瞬間、俺は「あ、終わった」と感じ、魂が抜けたような状態に陥った。絵里ちゃんの言葉が何を意味しているのか、その全貌が俺の頭の中で組み立てられた。彼女は、姉の亜美、風間、立花さんとの関係を示唆しているのだ。



 立花さんは何かを察したのか、会話の流れを変えようと試みた。しかし、風間がそれを遮るように話し始めた。

「そういうことか……君が亜美の元カレだったか! そういえばいたね、そんなやつ」風間はにやりと笑いながら、俺を見下ろすような態度を取った。

 その瞬間、俺の中で何かが弾けたような感覚があった。ぞわっとした感覚と同時に、怒りがわき上がってきた。俺は立ち上がり、自分の分のお代をテーブルに置いた。

「帰る」


 俺は言い、絵里ちゃんの手を強く払いのけた。そして、逃げるように居酒屋を出て行った。背後から何か声が聞こえたような気がしたが、俺は振り返らなかった。

 夜の街を歩きながら、俺の心は怒りと混乱でいっぱいだった。風間の言葉、絵里ちゃんの行動、そして亜美への未練。すべてが頭の中で渦を巻いていた。

「なぜ、こんなことになったんだ……」

 俺は独り言をつぶやいた。この一連の出来事が何を意味しているのか、まだ完全には理解できていなかった。

 絵里ちゃんが追いかけてくる。

「なんですか?」

 聞いてきたが、俺はただ「ごめん、一人にしてくれ」と答えることしかできなかった。今は絵里ちゃんというか誰かと一緒に居たくない。
 恥ずかしさと、悔しさと、怒りで何をするか分からないからだ。

 なぜこんな状況になったのか、その理由が分からなかった。

 しかし、一つだけはっきりしていたことがあった。それは、俺がもうすべてを失ったということだ。彼女も、俺を好きになってくれた人も、親友も、新たな出会いの女の子も。

 居酒屋から出て、どうしようもない気持ちのまま、俺は近くの公園まで走った。そこでベンチに座り、涙が止まらなくなった。心の中は悲しみと絶望でいっぱいだった。

 夜風が冷たく感じられる中で、俺はベンチに座ったまま、何も考えられなくなった。絵里ちゃんの行動、風間の挑発、そして自分の感情。すべてが心の中で混ざり合い、理解できない複雑な感情が渦巻いていた。

「なんで俺は……くそ」

 繰り返し考えたが、答えは見つからなかった。ただ、深い悲しみが俺を包み込み、涙は止まることを知らなかった。

 公園のベンチで泣いている自分が、情けなく感じられた。でも、その時はもう、何をどうすればいいのか、どう感じればいいのか、何も考えられなかった。

 夜が更けていく中で、俺はただ一人、公園のベンチで涙を流し続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました

もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

処理中です...