友達も一人がいない、ぼっちでも最強になれます！ 多分

第9話 ぼっちでも交戦します

　突如現れたラヴァゴーレムに、僕はただ圧倒されるばかり。でも、七海さんは違う。彼女は果敢にレイピアを振るって、魔物に立ち向かっていった。以前の彼女は速く、鋭い一撃を見せていた。その動きには無駄がなく、まさに練達の戦士だった。

　しかし、今は状況が全く違っていた。周囲の地形、環境、そして対峙している魔物の違いが、戦いに大きな影響を与えている。そのレイピアの刃は、魔物の硬い表面に弾かれる。これは良くない……。

　そんな時、僕のスキルが発動する。ラヴァゴーレムに関する情報が、次々と頭に流れ込む。硬度、弱点、攻撃パターン。これらの情報が僕にとって大きな武器になるはずだ。焦点を合わせずに、動き回りながら魔物の行動を分析する。

　そして、目を合わせないようにする。そう、僕はコミュニケーション障害だから。魔物でさえ、目を見て話すことができない。自分の心の中で、不安と恐れが渦巻く。でも、この場で何かを成すためには、それを乗り越えなければならない。


　僕はこの火山の地獄のような環境の中に立っている。頭の中は、恐怖と不安でいっぱいだ。自分のコミュニケーションの障害、いつものコミュ障が、今の状況でどれほど足枷になるのか……そんなことを考えると、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。

　「僕に、本当にこれができるのかな？」

　自分に問いかけるが、答えは簡単には見つからない。だけど、ここにいる以上は、前に進むしかない。そう自分に言い聞かせるけれど、足は重く、心はずっと不安でいっぱいだ。

　七海さんの姿が目に入る。彼女は、僕とは正反対のように、明るく、自信に満ち溢れている。その強さが、僕にとっては刺激となるが、同時に自分の未熟さを痛感させる。彼女との間にある、見えない壁を感じる。

　魔物が現れた時、その圧倒的な存在感に、僕は一瞬、呼吸を忘れるほどだった。怖い、本当に怖い。でも、ここで何もしなければ、僕は何のためにここに来たのだろう？　七海さんは果敢に前に出ていく。彼女の背中が、僕にはあまりにも遠く、大きく見える。

　「僕も何かできるはずだ」

　僕は自分に言い聞かせる。でも、心の中はまだ不安でいっぱいだ。自分の内側で何かが戦っている。恐れと、何かを変えたいという思いが交錯している。

　魔物の動きが激しくなる。七海さんとは違って、僕はその場に固まってしまう。なぜ動けないんだ、自分。僕は怒りと同時に、絶望を感じる。でも、僕はここに来た。何かを変えるために。自分を変えるために。

　「動かなきゃ、何も始まらない。僕が変わらなきゃ……」

　僕は自分を奮い立たせ、ぎこちない動きで前に進む。それが、僕がこの瞬間にできる最大の抵抗だ。


　魔物は巨大で、その体はまるで岩のように固い。七海さんのレイピアがその硬い体にぶつかり、弾かれてしまう。彼女の攻撃は力強いが、このゴーレムにはほとんど効果がないようだ。ゲームの知識から考えれば、たとえ最強の武器でも、相手の防御が高ければダメージは半減してしまう。

　スキル「解析」によって、魔物の情報が僕の頭に流れ込む。解析の結果、その弱点は胸部にあることがわかった。全身が岩のように堅固だが、巨大な敵には必ず弱点が存在する。これはゲームの常識だ。

　「そうか、弱点は胸部にあるんだ……」

　心の中でつぶやく。そして、僕の最近取得した属性弓。これを使えば、もしかしたら楽に倒せるかもしれない。だが、その考えが頭をよぎると同時に、自分の心の中で何かが突き刺さるような感覚がある。

　「待てよ、何を冷静に分析してるんだ、僕は……！」

　自分に言い聞かせる。これはただのゲームじゃない。現実だ。そして、目の前の七海さんは、今にも危険な状況に陥りそうだ。

　僕はあまりの恐怖に体が動かない。この状況で、僕に何ができるだろうか？コミュニケーションの障害はここでは関係ない。今必要なのは、行動する勇気だ。

　しかし、自分が一歩を踏み出す前に、七海さんが再びレイピアで攻撃を仕掛けていた。彼女の勇敢さに、僕は同時に感心し、恐怖も感じていた。

　「七海さんが……どうして、僕は何もできないんだろう？」

　心の中で自分に問いかける。僕の心は混乱し、緊張感で満ちている。彼女を助けたい、でも、自分にはそれができるのだろうか？


　七海さんの存在は、僕にとって、まるで異次元のようなものだ。彼女は明るくて、社交的で、何よりも強い。それに比べて、僕はどこまでも平凡で、内向的、そして何よりもコミュ障。僕たちの間には、見えない大きな壁があるように思える。

　それでも、僕は七海さんに対して、ある種の憧れのような感情を抱いていた。彼女のように自由に、自信を持って生きることができたらどんなにいいだろうと思う。彼女の明るい笑顔、周囲を引き付ける魅力、それらは僕には到底真似できないものだ。

　しかし、今ここで七海さんが苦しんでいる。
　何よりも彼女を助けたいという強い意志が僕を突き動かした。

　「七海さんは、いつもみんなを助けている……でも、今は彼女が助けを必要としている。今度は僕が何かできるかもしれない……」

　そう自分に言い聞かせながら、僕は彼女に手を差し伸べた。これは僕にとって大きな一歩だ。いつもは人との接触を避けがちな僕が、自分から誰かに近づくなんて、想像もできなかったことだ。

　僕の心の中には、七海さんへの複雑な感情が渦巻いている。彼女に対する尊敬、憧れ、そして少しの羨望。僕は自分でもよくわからないこの感情と共に、彼女の安全を確認したいと強く願っていた。

　「七海さんが無事であれば、それでいい。それが今の僕にできることだ」


　しかし、やっぱり。


　「攻撃しなきゃ……でも、僕がこれで英雄みたいになっちゃったら…あわわわわわ……！」

　そんな余計なことを考えている間に、七海さんがゴーレムの強烈な一撃に吹き飛ばされてしまった。彼女の身体が地面に激しく叩きつけられる。彼女が痛みに顔を歪めるのが見えた。

　その瞬間、僕の中で何かが切り替わった。迷いは消え、決意が芽生える。属性弓を手に、僕はゴーレムに向かって矢を放つ。解析した情報によれば、その弱点は水。胸部を狙えばいい。今の僕には、後のことなどどうでも良かった。

　「でも、本当に僕にこれができるのかな……？　いや、やるぞ」

　不安に思いながらも、僕は一歩を踏み出した。魔物の巨体に圧倒されながらも、僕は自分のスキルを信じて行動する。七海さんはすでにゴーレムと戦っている。僕も何かできるはずだ。

　ゴーレムは容赦なく攻撃を仕掛けてきた。その一挙手一投足は、まるで大地を揺るがすような力を持っていた。僕は、その動きを注意深く観察し、攻撃の隙を伺った。

　そして、僕の手にあるのは属性弓。これが今の僕の最大の武器だ。焦点を合わせず、ゴーレムの周りを動きながら、胸部を狙う。僕は自分の恐怖を抑えながら、矢を放つタイミングを計る。

　僕の矢は、まるで光のように速く、ゴーレムの胸部を正確に貫いた。その瞬間、ゴーレムの体はまるでガラスのように粉々に崩れ、大きな音を立てて地面に崩れ落ちた。その光景に、僕自身も信じられない気持ちになった。

　本当に、僕が倒したんだ……！

　七海さんの方を振り返ると、彼女は驚いた表情をしていた。僕がこんなことができるとは思ってもいなかったのだろう。その瞬間、僕は何か大きなことを成し遂げたという実感が湧いてきた。だが同時に、これからどうなるのだろうという不安も生まれた。

　「大丈夫ですか、七海さん！」

　僕は彼女のもとに駆け寄る。その瞬間、コミュ障なんてことはどうでもよくなっていた。今はただ、七海さんが無事であることが重要だった。彼女に近づく僕の心は、緊張とともに少しの達成感で満たされていた。

　これで、少しはクラスメイトたちとの距離が縮まったのだろうか？ そんなことを考えながら、僕は七海さんに手を差し伸べる。これが僕の、ひとつの新しい始まりなのかもしれない。

　全身汗びっしょりだけど、気持ち悪い。うえ。もう、どうにでもなれ。