この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん

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2話

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 午後の授業が終わると、学園内に一気に開放的な空気が広がる。

 大半の女子たちは部活動や補習に向かい、男子専用通路の周囲は自然と静かになる。
 文哉も、しばらく屋上にでも行ってみようかと考えながら、教室を後にした。

(……さっきの梨羽のテンション、すごかったな)

 少し疲れたような息をついて、文哉は階段を上がる。
 ノア・クロスの校舎は広く、屋上は男子生徒にも“気分転換用”に開放されていた。

 屋上のドアを開けると、春の風がやさしく頬を撫でた。
 そして、その奥――白くまぶしい日差しの中に、一人、佇む人影があった。

 ベンチの端に座っていたのは、柊 真帆(ひいらぎ・まほ)。

 長い睫毛の下で伏せた目が、午後の光に淡く溶けている。
 白いカーディガンの袖からのぞく細い指先には、紙のスケッチブック。
 風がページをめくるたび、淡い色の世界が見え隠れした。

(……声、かけていいのか?)

 少しだけ悩んで、静かに歩み寄る。

「……こんにちは。ひょっとして、真帆さん?」

 ふいに名を呼ばれ、真帆は少しだけ眉を動かした。

「……柊でいいよ。あと……タメ口で、大丈夫」

 それだけ言って、視線をスケッチブックから逸らさずにいた。

(会話、苦手なタイプ……かな)

 文哉は、隣のベンチに腰を下ろす。距離は少しあけたまま。
 風が通り、ページが一枚めくれた。

 そこには、咲きかけの花と、その隣に――自分に似た横顔が描かれていた。

「……これ、俺?」

 真帆は、一瞬だけ驚いたようにこちらを見て、そして……微かに頷いた。

「……ごめん。無断で、描いた。
 でも……あの、最初に見た時、絵にしたいって思って……止まらなかったの」

「いや、嬉しいよ。むしろ……ありがとう」

 その言葉に、真帆はほっとしたような顔をして、やっと文哉のほうに体を向けた。
 そして、ぽつりと言葉をこぼす。

「私……男子と話すの、すごく苦手。
 変に思われるのも、怖いし……気持ちが先に動くと、空回りするから……」

 それは、真帆の“告白”だった。
 彼女は、他の誰よりも慎重で、感情を表に出すのが苦手で、
 それでも“自分の気持ちを絵にすることでしか”伝えられないタイプの少女だった。

「でも……文哉くんは、話しかけてくれたから。
 それだけで、ちょっと、嬉しかった」

 その声は風にかき消されそうなほど小さいけれど、
 その笑顔はどこまでも、まっすぐだった。

 文哉はゆっくりと、隣に手を差し出す。

「ならさ、少しずつ、慣れていこうよ。
 俺も正直、この世界のこと、まだよくわかんないし。
 一緒に、ゆっくり進めたらいいと思う」

 真帆は少しだけ躊躇って――そして、そっとその手を握った。

 それは一瞬のことだった。
 彼女はすぐに手を引っ込め、うつむいて小さく呟く。

「……ちょっとだけ、勇気出してみた。……恥ずかしい」

 赤く染まった耳元を見ながら、文哉は思う。

(この子……すごく、丁寧に人と向き合おうとしてるんだな)

 梨羽のような太陽とは違う。
 けれど、真帆の静かな情熱は、胸の奥にゆっくり火を灯すような温かさがあった。

「……また、絵、見せてくれる?」

「うん。……文哉くんだけには、見せたいって……思ってるから」

 この日、文哉は確かに感じた。
 ――柊 真帆の、最初の本当の笑顔を。

✿✿✿✿

 柊 真帆と手を離したあとも、そのぬくもりはしばらく残っていた。

 文哉は屋上のベンチにひとり残り、淡い夕焼けの空を見上げる。
 吹き抜ける風が静かで、どこか懐かしさを感じさせる気がした。

(……手、あったかかったな)

 あんなふうに素直に感情を向けてくれる相手は、久しぶりだった。
 いや、思えば――そもそも自分は、前の世界で“誰かと親しくなること”すら、ろくにできていなかった。

(……あっちは、あっちで、なにもない人生だったからな)

 ベッドの上での生活。
 学校にも通えず、自由に歩くことすらままならなかったあの日々。

 病院の窓から見えた空と、遠くの校舎。
 それがどんな場所か、自分にはわからなかった。
 ただ、ネットの中や小説の中でだけ、疑似的に“青春”というものに触れていた。

(この世界に来て……自由になった。足も、身体も、痛くない。息苦しさもない)

 けれど。

 心のどこかでは、まだ“俺がここにいる意味”がわからずにいた。

 自分は、事故で死んだ。
 そしてなぜか、**“最も男性に都合がいいような世界”**に転生してしまった。

 男女比1:100。
 男子は保護対象。
 女子たちは礼儀を守り、好意を向けてくる。

(……たしかに、楽しいこともある。だけど)

 それだけでは満たされない。

 “選ばれる”だけの存在。
 “保護される”ことを前提にされた生活。
 それは、自由とは少し違う。

(俺は、ただ甘やかされたいわけじゃないんだよ)

 誰かに必要とされたい。
 選ばれるんじゃなく、自分の意志で誰かを選びたい。

 そんな“対等な関係”を、どこかで望んでいた。

 真帆が、言葉にしにくい気持ちを絵で伝えてきたとき――
 文哉は確かに、何かが動いた気がした。

 “守られて当然”という扱いを、どこかで窮屈に感じていた自分。
 そんな自分に、真帆はただ一人の人間としてまっすぐ向き合ってくれた。

(……俺、ちゃんとこの世界で“生きて”いきたいんだな)

 誰かに守られるだけじゃなく、
 誰かを守ってみたい。
 誰かのために、戦ってみたい。

 ――そんな考えが、心のどこかに静かに宿っていた。

「ふーみーやーくーん!! 屋上にいたんだ~!」

 階段の向こうから、聞き慣れた陽気な声がした。
 桜葉梨羽だった。

「ねえねえ、なんで屋上? 連絡してくれたらよかったのに~!」

「いや、ちょっと……風に当たりたくてな」

 梨羽が近づいてくるのを見て、文哉はそっと微笑んだ。
 彼女の明るさも、今はなんだか心地よかった。

(……俺、ほんとに変わってきてるな)

 そんな自分の変化に、文哉は小さく息をついた。

 この世界で。
 この体で。
 この心で。

 “ただの転生者”から、今度こそ“誰かの何か”になれる気がしていた。

 翌朝の《ノア・クロス》は、まだ春の気配を残しながらも、わずかに冷たい風が吹いていた。

 文哉は、指定された男子通学ルートを外れ、あえて少し遠回りになる裏道を歩いていた。

 護衛付きのルートは、便利だし安全だ。
 でも、誰かに守られてばかりじゃ、ほんとうに“自由”とは言えない――そんな思いが、どこかにあった。

(このくらい、平気だろ……)

 けれど、それはすぐに甘い考えだと思い知らされる。

 背後から、足音ではない何か――金属が擦れるような音が迫ってきた。

 その瞬間。

「危ないっ!」

 鋭く、それでいてよく通る声が響いた。

 文哉の前に、風のように少女が飛び出す。
 白と水色のラインが入った制服、短く切った髪が跳ね、鋭い蹴りが振り下ろされた金属棒を弾き飛ばした。

 甲高い音が一度響き、何者かの影が人混みに逃げ込んで消えていった。

「ふぅ……ったく、朝っぱらからこれか~。油断できないな」

 振り返ったその少女は、文哉を見てぱっと明るく笑う。

「おっはよー! 大丈夫? ケガしてない?」

「あ、うん……ありがとう。助かった」

「そっか、よかった~! ってことで――自己紹介!」

 彼女は胸を張って、サムズアップ。

「戦術育成科所属、海里しずく! 自他ともに認める男子護衛のプロフェッショナル、だよっ!」

「……文哉。一般教養科所属。あの……たぶん、初めて“守られた”かもしれない」

 その言葉に、しずくは嬉しそうに目を細めて、満面の笑みを浮かべる。

「おおっ! じゃあ文哉くんにとっての“初ガード”記念ってことだね! やった~♪」

(……テンション、高っ)

 少しだけ圧倒されながらも、文哉は笑ってしまう。
 彼女の明るさは、まるで陽射しそのもので、不思議と嫌な感じがしなかった。

「でもさ、どうして一人で歩いてたの? このルート、男子には危ないって有名だよ?」

「うーん……なんとなく、風に当たりたくて。自由に歩きたかった、っていうか」

「そっかぁ……その気持ちはわかるな~。でもね?」

 しずくは急に表情を引き締め、文哉の前に回り込んで目を見つめてくる。

「文哉くんは、男子でしょ? だからさ、“守られる自由”ってのも、大事にしてほしいんだよね」

「……守られる自由?」

「そう! 自分を大事にできる人って、すっごくかっこいいと思うからさ!」

 言葉の裏に、彼女なりの“信念”が透けて見えた。

 その笑顔の奥には、ただ明るいだけじゃない想いがある。
 誰かを守るために、自分を磨いてきた少女の強さが確かに感じられた。

「……よかったら、これから通学、一緒にしてもいい?」

 しずくの声が、少しだけ静かになった。

「え? しずくが?」

「うん! 護衛申請も出すけど、まずは……本人のOKもらわないとね?」

「……断ったら?」

「そしたらストーカーっぽくなるけど……それでも、見守っちゃうかも!」

 冗談めかして、けれど真剣な瞳で笑う。

「……じゃあ、お願いしようかな。一緒に来てもらえると、心強いし」

「よーっし、それじゃ今日から“しずくガード”始動だねっ!」

 しずくが文哉の横に並ぶ。

 どこか誇らしげに歩くその背中が、まるで「君は任せて!」と語っているようだった。

 ――それは、守られることの“ありがたさ”を、初めて素直に受け止められた瞬間だった。
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