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10話
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夕暮れの演習棟裏。朱に染まる空の下、冷却ユニットの駆動音だけが響いている。コンクリートの壁に背を預け、しずくは肩で息をしていた。
その全身を覆っていたのは、〈オブシディアン=ヴェノム〉――禍々しくも妖艶な闇の装甲。光を拒む漆黒と鈍く燻んだ金が絡み合い、身体のラインをあえて露出させるような造形。装甲の隙間から覗く黒いスキンには、まるで血管のように赤いエネルギーラインが浮かび上がり、見る者を魅了し、威圧する。
「……ふぅ、派手にやっちゃったかも」
ヘルム型フェイスマスクを外すと、しずくの顔にはまだ戦闘の熱気が残っていた。額に浮かぶ汗、赤みの差した頬。だがその瞳は、遠くを見ているようで――近くを、見ていた。
「文哉くん……見てた?」
物陰から、そっと姿を現した文哉。彼女にとって“守るべき存在”でありながら、戦場を共に歩む“戦友”でもある彼が、視界に入った瞬間、しずくの顔が緩む。
「見てたよ。あの一撃、すごかった。最後の……あのナノブレードの展開、演出まで完璧だった」
「ふふっ、でしょ? ちょっと張り切っちゃった」
文哉はゆっくりと歩み寄り、彼女の目前に立つ。ほんの数十センチ。演習後であれば接触も違反にはならない“曖昧な時間”――けれど、この世界ではそれでもギリギリの距離感だ。
「でも……」
「……?」
「装甲、少し危なかったよ。腰のあたり、完全にスキンがむき出しで……あんな構造で動くなんて、ちょっと心配だった」
文哉の言葉は、心配と照れと――ほんの少しの“無自覚な男の視線”が混じっていた。
「……っ! そ、それって見てたってこと? わ、私の、あのへん――全部?」
しずくの声が一瞬で裏返る。彼女の鎧〈オブシディアン=ヴェノム〉は、腰回りをクロス装甲+ハイレグ構造で大胆に露出させている。しかも、その装甲の隙間からは、黒煙のようなエネルギーが脈打つ――戦場であっても視線を集めずにはいられない艶やかさ。
「……かっこよかったよ。すごく、似合ってた」
文哉は正面から、まっすぐにそう言った。
それが致命的だった。
「~~~~っ!」
しずくの顔は一気に真っ赤になり、耳の先まで染まった。体幹の強さには定評がある彼女の足が、今にも崩れそうに震える。
「な、なにそれ、そんなん……反則……だよ」
「え?」
「そ、そんな真顔で褒められたら……わたし……っ、わたし、また頑張っちゃうじゃん!」
その瞬間、しずくは衝動的に文哉に一歩詰め寄った。
だが寸前で、ピタリと足を止める。顔は近いのに、指一本触れていない――この世界で女性が“手を出す”ことがどれほど重大か、彼女はよく分かっているから。
だからこそ――彼女は、言葉で伝えようとした。
「……私、文哉くんのために、強くなりたい。……一番、近くで守れる存在になりたい。……いいかな、そんなの」
「うん」
たった一言の肯定。それだけで、しずくの胸の奥が“毒気”ではなく、“光”に満たされていく。
彼の瞳に、ほんのわずかな優しさと、興味と、気遣いと――たぶん、それだけじゃない何かが、映っていた。
演習場の照明が落ち、空はすっかり夜の帳に包まれていた。
✿✿✿✿
その全身を覆っていたのは、〈オブシディアン=ヴェノム〉――禍々しくも妖艶な闇の装甲。光を拒む漆黒と鈍く燻んだ金が絡み合い、身体のラインをあえて露出させるような造形。装甲の隙間から覗く黒いスキンには、まるで血管のように赤いエネルギーラインが浮かび上がり、見る者を魅了し、威圧する。
「……ふぅ、派手にやっちゃったかも」
ヘルム型フェイスマスクを外すと、しずくの顔にはまだ戦闘の熱気が残っていた。額に浮かぶ汗、赤みの差した頬。だがその瞳は、遠くを見ているようで――近くを、見ていた。
「文哉くん……見てた?」
物陰から、そっと姿を現した文哉。彼女にとって“守るべき存在”でありながら、戦場を共に歩む“戦友”でもある彼が、視界に入った瞬間、しずくの顔が緩む。
「見てたよ。あの一撃、すごかった。最後の……あのナノブレードの展開、演出まで完璧だった」
「ふふっ、でしょ? ちょっと張り切っちゃった」
文哉はゆっくりと歩み寄り、彼女の目前に立つ。ほんの数十センチ。演習後であれば接触も違反にはならない“曖昧な時間”――けれど、この世界ではそれでもギリギリの距離感だ。
「でも……」
「……?」
「装甲、少し危なかったよ。腰のあたり、完全にスキンがむき出しで……あんな構造で動くなんて、ちょっと心配だった」
文哉の言葉は、心配と照れと――ほんの少しの“無自覚な男の視線”が混じっていた。
「……っ! そ、それって見てたってこと? わ、私の、あのへん――全部?」
しずくの声が一瞬で裏返る。彼女の鎧〈オブシディアン=ヴェノム〉は、腰回りをクロス装甲+ハイレグ構造で大胆に露出させている。しかも、その装甲の隙間からは、黒煙のようなエネルギーが脈打つ――戦場であっても視線を集めずにはいられない艶やかさ。
「……かっこよかったよ。すごく、似合ってた」
文哉は正面から、まっすぐにそう言った。
それが致命的だった。
「~~~~っ!」
しずくの顔は一気に真っ赤になり、耳の先まで染まった。体幹の強さには定評がある彼女の足が、今にも崩れそうに震える。
「な、なにそれ、そんなん……反則……だよ」
「え?」
「そ、そんな真顔で褒められたら……わたし……っ、わたし、また頑張っちゃうじゃん!」
その瞬間、しずくは衝動的に文哉に一歩詰め寄った。
だが寸前で、ピタリと足を止める。顔は近いのに、指一本触れていない――この世界で女性が“手を出す”ことがどれほど重大か、彼女はよく分かっているから。
だからこそ――彼女は、言葉で伝えようとした。
「……私、文哉くんのために、強くなりたい。……一番、近くで守れる存在になりたい。……いいかな、そんなの」
「うん」
たった一言の肯定。それだけで、しずくの胸の奥が“毒気”ではなく、“光”に満たされていく。
彼の瞳に、ほんのわずかな優しさと、興味と、気遣いと――たぶん、それだけじゃない何かが、映っていた。
演習場の照明が落ち、空はすっかり夜の帳に包まれていた。
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