この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん

文字の大きさ
24 / 36

24話

しおりを挟む
 ――空が、裂けた。

 紫電を帯びた白金の剣が振り下ろされ、地を割る閃光が砂塵とともに炸裂した。

 ノノの〈レガリア=ブレイズリリー〉が舞っていた。金の花弁粒子を散らしながら、彼女はまるで神罰を下す女神のように上空から降り注ぐ。一度失われたはずの理性は、もうそこにはなかった。ただ破壊のためだけに構築された自動人形――かつて“ノノ”と呼ばれた存在だけが、暴走し続けていた。

 「ノノ……っ!」

 俺は叫んだ。けれど、その声に彼女は振り向かない。

 〈アカツキ=バーンブレイカー〉の機体が、揺れる。肩装甲の一部が弾け、煙が上がった。反撃の暇も与えず、ノノの剣が頭上から振り抜かれる。

 「くっ……!」

 咄嗟に高速スラスターで飛び退いたが、衝撃波が地面を薙ぎ払った。破壊された建物の残骸が吹き飛び、木々が焼け、火花が夜空に舞う。

 彼女はもう、止まらない。

 知っていた。わかっていた。……だが、どうしても俺の手は、動かなかった。

 あのときの言葉が、頭を離れない。

 最後に聞いたあの言葉。

 ――「文哉、最後にお願いがある。私じゃなくなった私を、解放してほしい」

 その時の、儚く笑ったノノの表情が、焼き付いている。

 だから、俺は攻撃できない。

 剣を振れない。

 たとえ今、彼女が俺の命を奪おうとしていたとしても。

 ……そんな俺の中に、ふと、声が響いた。

 『――お願い、文哉。』

 風に混じって、誰かが囁いた気がした。

 『もう、私は……戻れない』

 それは幻覚かもしれなかった。でも、俺の胸の奥を確かに貫いた。

 『ありがとう。あなたに会えて、私は――嬉しかった』

 その声は、今まででいちばん……優しかった。

 「……っ、やめろよ」

 気づけば、俺は涙を流していた。

 「やめてくれよ……そんな風に言われたら……!」

 彼女を斬ることが、これほどまでに辛いなんて。

 でも、俺しかいない。

 俺しか、ノノを止められない。

 だから――俺は叫んだ。

 「ノノ……! お前を、助けたかった……!」

 〈アカツキ=バーンブレイカー〉の全身に、紅蓮の閃光が灯る。

 両腕、両脚、胸部、背部の推進器が同時に高出力解放。赤い稲妻が空を駆け、俺の周囲に炎の渦が発生する。

 「だから、せめて……!」

 ノノがこちらへと突撃してくる。光の剣を振りかざし、まっすぐに、迷いなく。

 俺は迎え撃つ。

 「せめて……俺の手で、お前を終わらせてやる!」

 ――〈紅蓮閃破(バーニング・シンフォニア)〉!

 俺の拳が、全身のエネルギーを一点に集約して放たれる。

 衝突の一瞬、ノノの姿が見えた。虚ろな瞳。けれどその奥に、ほんのわずかに、笑っているような影があった。

 そして。

 光が、爆ぜた。

 白金と紅蓮が混ざり合い、爆音と衝撃波が戦場を覆い尽くした――

✿✿✿✿

 空が、静かだった。

 炎も、風も、煙さえも、すべてが嘘のように沈黙する。

 その中心に、彼女はいた。

 金の花弁を失った白の騎士機――〈レガリア=ブレイズリリー〉が、崩れ落ちるように膝をついていた。先程の激闘で装甲の大半は剥がれ落ち、神々しかった装いは今や朽ちた彫像のようだった。片翼を失った背部装甲からは、煙が静かに立ち昇っている。

 「……ノノ!」

 俺は叫び、走った。

 全身の力を使い果たした〈アカツキ=バーンブレイカー〉から、装甲を強制排出。蒸気を噴き上げながら機体が解けていくと同時に、俺はその中心から地面へと飛び出す。焼け焦げた地面を踏みしめ、転びそうになりながらも彼女の元へ駆け寄った。

 ノノの装甲が、緩やかに開いた。

 胸部コクピットが裂け、中から彼女の姿がゆっくりと倒れ込んでくる。

 「ノノっ……!」

 俺はその身体を抱きとめた。温かさが、かすかにあった。

 黒髪のショートが煤け、頬には裂傷。けれど、瞳は……どこまでも透き通っていた。

 彼女の唇が、かすかに動いた。

 「……ふみ……や……」

 「ノノ……! 喋らないで、すぐ、すぐ助けを――!」

 「……ううん……もう……いい……」

 掠れた声だった。けれど、確かに彼女は微笑んでいた。

 「……私……やっと……終われる……ありがとう、ふみや……」

 震える手が、俺の頬に触れる。

 「……私……戦うために、生まれたけど……最後に、あなたに……会えて……」

 「……やめろ、やめてくれよ、ノノ……!」

 俺の声が震える。

 「助けるって、言ったんだぞ……! 俺が、お前を……!」

 ノノの目が、そっと閉じられていく。

 「……それだけで、十分だよ……私……人として……終われる……」

 その声が、静かに、空気へと溶けていった。

 そして、何も言わなくなったノノの身体が、そっと力を失った。

 俺は、言葉を失ったまま、その身体を抱き締め続けた。

 ――音が消えていた。

 風も、鳥の声も、誰の気配もない。ただ、俺と……彼女だけの空間。

 やがて、堪えていたものが溢れた。

 「……バカだよ、お前……」

 掠れた声が、喉を震わせる。

 「こんな結末、望んでなかったのに……!」

 嗚咽が、胸の奥を突き上げる。

 「なのに……どうして……」

 声が涙に滲み、崩れていく。

 静かに、静かに、俺は泣いた。

 誰にも見られないように。

 誰にも届かないように。

 ――彼女の、あたたかさが、まだ腕の中に残っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。 ↓ PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

貞操逆転世界に転生してイチャイチャする話

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が自分の欲望のままに生きる話。

貞操逆転したようなのでとりあえず女を叩く

やまいし
ファンタジー
じしんの優位性を生かして女叩きをする男の話。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

男が少ない世界に転生して

美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです! 旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします! 交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。

処理中です...