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25話
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校内警報が、普段とは違う緊迫した色を帯びて響いた。
真帆は静かにスケッチブックを閉じ、立ち上がった。廊下の向こうに設置されたタクティカル端末に走り寄り、警報の発信源を確認する。
――防衛網、第二エリア突破。敵性反応、学園内に侵入。
「……本当に、来たんだ」
まだ指が震えていた。けれど、彼女の目は揺れていなかった。
真帆は自室へ戻り、バイオギア〈ファム=ヘヴィリオン〉を起動する。部屋の中央で光と共に変換されるその姿は、まるで重火器を纏った戦う彫像だった。胸元と腹部の装甲はフレーム剥き出しで、透けるエネルギーラインが戦意の高まりを証明している。
「文哉くん……お願い、無事でいて」
彼の名を囁いた時、真帆の心の中で小さな炎が灯った。
目的地は、講堂裏手の旧研究棟跡地――今はほぼ使われていないエリアだった。
現場へ到着すると、瓦礫と焦げた匂いが辺りを包み、風に乗って奇妙なノイズが耳を打った。
「……ああ。これよ、この空気……。学園の空気、忌々しい匂い」
低く、女の声がした。そこにいたのは、鮮やかな黄色と黒を基調としたバイオギア――〈リファイン=カレント〉を纏った女。彼女の背にはドローンポッドが浮かび、光のデータ帯がひらひらと踊っている。
「あなたが、脱獄者?」
真帆は問いかけたが、その声に怒気はなかった。ただ、静かに確認するように。
その問いに、女はふっと笑う。
「へぇ……現れるのね、こんな小娘が」
そして続ける。
「学園なんて、潰れてしまえばいいのよ! あたしはそのために来たの。お遊びみたいな防衛システム、全部壊してあげる!」
真帆は答えない。ただ目を見開いて、敵の機体構造を読み取る。あのドローンポッド……支援型。それなら、こちらが主導権を握れる。
「……止める」
彼女が呟いた瞬間、〈ファム=ヘヴィリオン〉のミサイルコンテナが開き、ロックオンが走る。
「ふぅん……やる気はあるみたいね?」
次の瞬間、プティが展開したドローンポッドが、光の軌跡を描きながら真帆を包囲。数基がレーザー測距し、真帆の動きを完全に捉えていた。
「囲み戦術……!」
だが、真帆は臆さなかった。両肩のミサイルコンテナを一気に起動、射出された弾丸が空中で爆発、ドローンの索敵網を撹乱する。
「こっちも……守るって、決めたんだから」
背部のキャノンが唸りを上げる。赤いエネルギーがチャージされ、破壊の光が生まれる。
「やるじゃない。だったら、あたしの本気を見せてあげる!」
プティが手を広げると、データ帯が急加速し、無数のツールが空中に展開された。補助的な支援装備の中には、切断用レーザー、EMPフィールド展開装置など、戦闘用としても十分すぎる性能が揃っていた。
「ここが、あたしの――戦場よ!」
叫びと同時に、レーザーが真帆に向けて放たれ、彼女は間一髪で左へ跳躍。爆風が彼女のスカートを巻き上げ、装甲越しに熱が走る。
「っ……!」
真帆の肩口に傷が走った。だが、逃げるという選択肢はなかった。
「わたしの……場所を、あなたに壊させない!」
ミサイルを連射し、キャノンを構え、真帆は前に出る。
――戦いはまだ始まったばかりだった。
白熱する戦場に、耳をつんざく破砕音が鳴り響く。
夜の学園構内に響くのは、爆ぜる装甲の音と咆哮のような衝撃波。プティの〈リファイン=カレント〉が放つドローンポッドが宙に閃光の軌跡を描き、そこに柊 真帆の〈ファム=ヘヴィリオン〉が超重キャノンを展開し応じた。
「――どいてよ。ここは、あんたがいていい場所じゃない」
真帆の声は静かだった。けれど、その射線は迷いなき意思を示していた。
だが――敵は、それを嘲笑うかのように。
「へぇ……まだそんな目ができるんだ。面白いじゃない」
プティの機体が宙に舞い、背部のドローンポッドが一斉に展開。ホログラムの光帯が真帆を取り囲み、同時多角的な支援射撃と撹乱の波を浴びせてくる。
「っ……!」
真帆は両肩のミサイルコンテナを展開、応戦するも――その砲撃は迎撃をすり抜けるように滑り込む。ドローンの高精度な制御が、重火器機体の鈍さを突いてきた。
まるで、重さそのものが枷になるかのように。
「ううん……足りない……。わたし、こんなものなの……?」
自問とともに、膝を突きかける。
だが――その瞬間。
「真帆、下がってッ!!」
風を裂くような声が飛び――疾風のごとく割り込んだ漆黒の影。
しずくだった。
〈オブシディアン=ヴェノム〉の双翼が大気を斬り裂き、飛翔しながらプティの背部に回り込む。
「あなた、私たちの仲間を傷つける気? だったら、私は絶対に許さない!」
怒気すら帯びた声とともに、背部のナノブレードウィングから複数の闇色の刃が射出された。
「っ……邪魔!」
プティが即座に回避行動を取るが、刃の一部が肩アーマーを削り、白熱した火花が空中に散った。
「真帆ちゃん、もう一度。わたしが抑えるから!」
「……うん!」
共闘の意思が、静かに合流する。
重火器と毒刃――真逆のスタイルが、一点に収束するように重なり、ドローンの囲みを破壊しながら接近戦に持ち込む。
プティも応戦を試みるが、その機体はサポート特化型。真正面の火力には分が悪い。
「くっ……この程度で……私は……!」
必死の反撃を試みるプティを、真帆のキャノンが撃ち抜き、しずくの脚部スパイクが追い打ちをかける。
そして、もう一撃で――というタイミングで、プティはドローンを一斉爆破。爆煙とセンサー妨害の閃光が視界を覆い――
「くっ、逃げた……っ!」
闇の中、プティの機影は消えていた。
二人の少女だけが、静寂に残された。
しずくはゆっくりと肩で息をしながら、真帆の隣に立つ。
「……助かった」
小さくそう呟いた真帆に、しずくはにっと笑いかけた。
「いいの。文哉くんのこと、大事にしてる仲間だもん。助けるのは当然でしょ」
その言葉に、真帆は言葉を返さず、ただスケッチブックの端をぎゅっと握りしめるのだった。
真帆は静かにスケッチブックを閉じ、立ち上がった。廊下の向こうに設置されたタクティカル端末に走り寄り、警報の発信源を確認する。
――防衛網、第二エリア突破。敵性反応、学園内に侵入。
「……本当に、来たんだ」
まだ指が震えていた。けれど、彼女の目は揺れていなかった。
真帆は自室へ戻り、バイオギア〈ファム=ヘヴィリオン〉を起動する。部屋の中央で光と共に変換されるその姿は、まるで重火器を纏った戦う彫像だった。胸元と腹部の装甲はフレーム剥き出しで、透けるエネルギーラインが戦意の高まりを証明している。
「文哉くん……お願い、無事でいて」
彼の名を囁いた時、真帆の心の中で小さな炎が灯った。
目的地は、講堂裏手の旧研究棟跡地――今はほぼ使われていないエリアだった。
現場へ到着すると、瓦礫と焦げた匂いが辺りを包み、風に乗って奇妙なノイズが耳を打った。
「……ああ。これよ、この空気……。学園の空気、忌々しい匂い」
低く、女の声がした。そこにいたのは、鮮やかな黄色と黒を基調としたバイオギア――〈リファイン=カレント〉を纏った女。彼女の背にはドローンポッドが浮かび、光のデータ帯がひらひらと踊っている。
「あなたが、脱獄者?」
真帆は問いかけたが、その声に怒気はなかった。ただ、静かに確認するように。
その問いに、女はふっと笑う。
「へぇ……現れるのね、こんな小娘が」
そして続ける。
「学園なんて、潰れてしまえばいいのよ! あたしはそのために来たの。お遊びみたいな防衛システム、全部壊してあげる!」
真帆は答えない。ただ目を見開いて、敵の機体構造を読み取る。あのドローンポッド……支援型。それなら、こちらが主導権を握れる。
「……止める」
彼女が呟いた瞬間、〈ファム=ヘヴィリオン〉のミサイルコンテナが開き、ロックオンが走る。
「ふぅん……やる気はあるみたいね?」
次の瞬間、プティが展開したドローンポッドが、光の軌跡を描きながら真帆を包囲。数基がレーザー測距し、真帆の動きを完全に捉えていた。
「囲み戦術……!」
だが、真帆は臆さなかった。両肩のミサイルコンテナを一気に起動、射出された弾丸が空中で爆発、ドローンの索敵網を撹乱する。
「こっちも……守るって、決めたんだから」
背部のキャノンが唸りを上げる。赤いエネルギーがチャージされ、破壊の光が生まれる。
「やるじゃない。だったら、あたしの本気を見せてあげる!」
プティが手を広げると、データ帯が急加速し、無数のツールが空中に展開された。補助的な支援装備の中には、切断用レーザー、EMPフィールド展開装置など、戦闘用としても十分すぎる性能が揃っていた。
「ここが、あたしの――戦場よ!」
叫びと同時に、レーザーが真帆に向けて放たれ、彼女は間一髪で左へ跳躍。爆風が彼女のスカートを巻き上げ、装甲越しに熱が走る。
「っ……!」
真帆の肩口に傷が走った。だが、逃げるという選択肢はなかった。
「わたしの……場所を、あなたに壊させない!」
ミサイルを連射し、キャノンを構え、真帆は前に出る。
――戦いはまだ始まったばかりだった。
白熱する戦場に、耳をつんざく破砕音が鳴り響く。
夜の学園構内に響くのは、爆ぜる装甲の音と咆哮のような衝撃波。プティの〈リファイン=カレント〉が放つドローンポッドが宙に閃光の軌跡を描き、そこに柊 真帆の〈ファム=ヘヴィリオン〉が超重キャノンを展開し応じた。
「――どいてよ。ここは、あんたがいていい場所じゃない」
真帆の声は静かだった。けれど、その射線は迷いなき意思を示していた。
だが――敵は、それを嘲笑うかのように。
「へぇ……まだそんな目ができるんだ。面白いじゃない」
プティの機体が宙に舞い、背部のドローンポッドが一斉に展開。ホログラムの光帯が真帆を取り囲み、同時多角的な支援射撃と撹乱の波を浴びせてくる。
「っ……!」
真帆は両肩のミサイルコンテナを展開、応戦するも――その砲撃は迎撃をすり抜けるように滑り込む。ドローンの高精度な制御が、重火器機体の鈍さを突いてきた。
まるで、重さそのものが枷になるかのように。
「ううん……足りない……。わたし、こんなものなの……?」
自問とともに、膝を突きかける。
だが――その瞬間。
「真帆、下がってッ!!」
風を裂くような声が飛び――疾風のごとく割り込んだ漆黒の影。
しずくだった。
〈オブシディアン=ヴェノム〉の双翼が大気を斬り裂き、飛翔しながらプティの背部に回り込む。
「あなた、私たちの仲間を傷つける気? だったら、私は絶対に許さない!」
怒気すら帯びた声とともに、背部のナノブレードウィングから複数の闇色の刃が射出された。
「っ……邪魔!」
プティが即座に回避行動を取るが、刃の一部が肩アーマーを削り、白熱した火花が空中に散った。
「真帆ちゃん、もう一度。わたしが抑えるから!」
「……うん!」
共闘の意思が、静かに合流する。
重火器と毒刃――真逆のスタイルが、一点に収束するように重なり、ドローンの囲みを破壊しながら接近戦に持ち込む。
プティも応戦を試みるが、その機体はサポート特化型。真正面の火力には分が悪い。
「くっ……この程度で……私は……!」
必死の反撃を試みるプティを、真帆のキャノンが撃ち抜き、しずくの脚部スパイクが追い打ちをかける。
そして、もう一撃で――というタイミングで、プティはドローンを一斉爆破。爆煙とセンサー妨害の閃光が視界を覆い――
「くっ、逃げた……っ!」
闇の中、プティの機影は消えていた。
二人の少女だけが、静寂に残された。
しずくはゆっくりと肩で息をしながら、真帆の隣に立つ。
「……助かった」
小さくそう呟いた真帆に、しずくはにっと笑いかけた。
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