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萌え眼鏡の日
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駅からの地下道を出た梅先は焼けたアスファルトの暑さを感じた。その前を強い風が吹き抜け熱をさらおうとするが、力及ばず涼しい風とは言えない熱風となっていた。
やけに今日は暑いな。
四月も初めだと言うのにやたらと気温を高く感じる。昨日までは肌寒さすら感じる気候だったのに、今はじんわりと汗でもかきそうな体感。
『電車でのボヤ騒ぎとか人身だとか今朝の事故続きは、この異常気象のせいかな。突然の気温上昇に伴う暴風?』
今通り抜けていった風はとてもじゃないが穏やかな春風とは程遠い。春先から田植え頃まで吹くと言う強い西風、暴れ風というのもあるらしいが、今ここで吹き荒れている風は暴れると言うより取っ組み合いの喧嘩でもしているようだった。
例年の、いつもの四月とは違う四月初日に小さく溜息をつきながら、梅先は会社が入るビルの自動ドアをくぐった。
会社のある階で古いエレベーターのドアが立て付けの悪い引き戸のような音を立てて開き、いつも通りそのエレベーターの溝を踏まないよう右足からまたいだ梅先の耳に普段は聞くことのない叫びが届いた。
『なにごと? 紫野の声じゃないし』
叫び声といえばたまに紫野があげる奇妙なおたけび、奇声、それぐらいであって今聞こえてきた子供のような悲鳴はついぞきかない。同時に一気にフロアの温度が上昇したような感覚に襲われると換気口、エアコンの吹き出し口から突然強風がふきだし、また少し離れた階段フロアから会社ビル前で遭遇したような風がなだれこんできた。
「な……?!」
驚いた梅先が急いでエレベーターホールを後にすると会社のドア前で八武に履歴書で見た新人が詰め寄られていた。
『くらげちゃん……』
「お早うございます、八武さん。何かありましたか?」
「んん? そういうチミは梅先氏。僕が鍵をあけようとしたら、この萌え眼鏡女子がいたわけだよ」
「萌え眼鏡女子……」
八武の言葉を反芻した梅先がその姿を見てみれば、確かに履歴書の写真ではかけていなかった黒縁眼鏡をかけ、それもやや今はズレており、鞄を胸に抱え明らかに怯えた表情の鳴海月が「お、お早うございます。わ、私、今日からお世話になります鳴海月と申します」と泣きそうな声で自己紹介を始めた。梅先はほっと息をはき、鳴海と八武をみやるとなんとなく状況がわかったような気がした。
「うん。お早う。鳴海さん。その……大変だったね。多分、色々と……ちょっと驚いちゃったりとか……」
「は、はい。大丈夫です。有難うございます」
梅先の柔らかな表情と声に鳴海が倒れかけていた体勢を立て直すと二人のやり取りを見ていた八武は「なに! 梅先氏、この萌え眼鏡女子と知り合いですか!?」とぶんぶんと鍵を振り回しながら、梅先に詰め寄った。
「八武さん、鍵! 危ないですって! 落ち着いて下さい! 彼女、新入社員です。今日から僕と同じグループの新人です」
「しんじん……迷い眼鏡女子ではないですか?」
「違います。鍵、ください。会社、入りましょう」
「しんじん……新萌え眼鏡……」
八武から鍵を受け取った梅先はドアを開け、鳴海を両手で自分の前に並べると八武の視線を遮りつつフロアの奥へと案内した。
フロア内はいつもよりも暑かったが、天井の空調から出る風は先程廊下でふきすさんだあの風ではなくいつも通りの作動音と風量だった。
『なんだったんだろうさっきの……』
梅先は先日掃除した新人用のデスクに案内した鳴海をちらりと見ると、深い深い安堵の溜息を吐き出し、ちょっと疲れた様子で肩を落としているどこからどうみても普通の新人女子が座っていた。
やけに今日は暑いな。
四月も初めだと言うのにやたらと気温を高く感じる。昨日までは肌寒さすら感じる気候だったのに、今はじんわりと汗でもかきそうな体感。
『電車でのボヤ騒ぎとか人身だとか今朝の事故続きは、この異常気象のせいかな。突然の気温上昇に伴う暴風?』
今通り抜けていった風はとてもじゃないが穏やかな春風とは程遠い。春先から田植え頃まで吹くと言う強い西風、暴れ風というのもあるらしいが、今ここで吹き荒れている風は暴れると言うより取っ組み合いの喧嘩でもしているようだった。
例年の、いつもの四月とは違う四月初日に小さく溜息をつきながら、梅先は会社が入るビルの自動ドアをくぐった。
会社のある階で古いエレベーターのドアが立て付けの悪い引き戸のような音を立てて開き、いつも通りそのエレベーターの溝を踏まないよう右足からまたいだ梅先の耳に普段は聞くことのない叫びが届いた。
『なにごと? 紫野の声じゃないし』
叫び声といえばたまに紫野があげる奇妙なおたけび、奇声、それぐらいであって今聞こえてきた子供のような悲鳴はついぞきかない。同時に一気にフロアの温度が上昇したような感覚に襲われると換気口、エアコンの吹き出し口から突然強風がふきだし、また少し離れた階段フロアから会社ビル前で遭遇したような風がなだれこんできた。
「な……?!」
驚いた梅先が急いでエレベーターホールを後にすると会社のドア前で八武に履歴書で見た新人が詰め寄られていた。
『くらげちゃん……』
「お早うございます、八武さん。何かありましたか?」
「んん? そういうチミは梅先氏。僕が鍵をあけようとしたら、この萌え眼鏡女子がいたわけだよ」
「萌え眼鏡女子……」
八武の言葉を反芻した梅先がその姿を見てみれば、確かに履歴書の写真ではかけていなかった黒縁眼鏡をかけ、それもやや今はズレており、鞄を胸に抱え明らかに怯えた表情の鳴海月が「お、お早うございます。わ、私、今日からお世話になります鳴海月と申します」と泣きそうな声で自己紹介を始めた。梅先はほっと息をはき、鳴海と八武をみやるとなんとなく状況がわかったような気がした。
「うん。お早う。鳴海さん。その……大変だったね。多分、色々と……ちょっと驚いちゃったりとか……」
「は、はい。大丈夫です。有難うございます」
梅先の柔らかな表情と声に鳴海が倒れかけていた体勢を立て直すと二人のやり取りを見ていた八武は「なに! 梅先氏、この萌え眼鏡女子と知り合いですか!?」とぶんぶんと鍵を振り回しながら、梅先に詰め寄った。
「八武さん、鍵! 危ないですって! 落ち着いて下さい! 彼女、新入社員です。今日から僕と同じグループの新人です」
「しんじん……迷い眼鏡女子ではないですか?」
「違います。鍵、ください。会社、入りましょう」
「しんじん……新萌え眼鏡……」
八武から鍵を受け取った梅先はドアを開け、鳴海を両手で自分の前に並べると八武の視線を遮りつつフロアの奥へと案内した。
フロア内はいつもよりも暑かったが、天井の空調から出る風は先程廊下でふきすさんだあの風ではなくいつも通りの作動音と風量だった。
『なんだったんだろうさっきの……』
梅先は先日掃除した新人用のデスクに案内した鳴海をちらりと見ると、深い深い安堵の溜息を吐き出し、ちょっと疲れた様子で肩を落としているどこからどうみても普通の新人女子が座っていた。
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