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暑い日

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梅先は机に鞄を置いて、季節はずれの暑さから上着を脱いだ。廊下で吹き荒れた熱風とは言わないが、やはり室内が暑い。
『管理のおじさんに言ってもらって冷房入れてもらおう』
この時期、空調はまだ暖房モードになっているはず。ビル管理へ空調切り替えの連絡をお願いしようと入口近くの総務エリアを見やるがまだ誰もきていないようだった。
『いつも通り、総務はまだこないか。今日は総務と紫野とどっちが早いかな……』
梅先は新人のところに向かうと、疲れて肩を落としていた鳴海は不安と思案が入り混じったようなそんな顔をしていた。
『色々考えちゃっているのかな。出勤初日に会社が開いてない。そしてよりにもよって第一社員発見が八武さんじゃ、無理もないかも』
隣のエリアにいるであろう八武の席を見れば、音楽を聴いているのか小刻みに身体を動かしている男の姿が見えた。知らず溜息がもれる。
「待たせてごめんね。もう少ししたら総務の人、来ると思うから」
今日の本来の予定では、朝当番の紫野が会社のドアを開け、総務が来るまで新人の相手をする。総務が来たら、総務のところまで案内する。これがスケジュールだったはずだ。とは言え、紫野といつもいい勝負で出社してくる総務の人間が、各路線遅延マークだらけの今日、来る気配はない。梅先はスマホを取り出して運行情報のページを開いていた。都内で2箇所、そして主要駅での事故が原因でほぼ全ての路線に遅延マークがついている。梅先は路線情報のページについでにツイッターをのぞいてみた。
『あれ? これって……』
「ふーん。この駅でも似たような事象か……興味深いね……」
梅先はツイートされた投稿に、無意識に独り事をつぶやいていた。
<急に気温が上がった?>
<超暑かった>
<レール膨張で止まった?>
興味深い投稿が散見する画面をスクロールさえながら鳴海にもその話題をふってみたが、幸いにも事故には巻き込まれなかったらしい。それどころか、事故があったことすら気付いてない様子だ。
「……朝から事故は大変ですね。皆さん公共交通機関を使われているから遅れてしまいますね」
『公共交通機関? 間違ってないけど、不思議な言い回し……』
「……事故はままあることだけど」
鳴海が発した単語に気を取られて変な間が空いてしまった。
『うーん。やっぱり、同じような時間に同じような場所で同じような事象。それに……』
今度は
<突然熱いって騒ぎながら男が電車から降りて来た>
<駅で男が熱い!熱い!って騒いでた>
<超鼻息荒い男の人いた>
<救急車来たよ>
<見た見た。救急車来てた>
路線の異常以外に人身事故騒ぎの投稿に目を奪われ、やはり間が空いてしまった。
「……一昔前の年末人身じゃあるまいし。こんな同じ日の同じ時間帯の同じような場所で同じような事故が重なるってなかなかないんじゃないかな?」
興味と好奇心それ以上の何かをかきたてる現象に、梅先は熱く語り合える仲間(かどうかの確認)に向けての第一歩、まだ誰も出社してきていないこの空間、奇妙な事象について語り合うことの出来る絶好の環境、さあ鳴海さん。あなたはこの事象をどう考えますか。と、鳴海を見たが、彼女はいたって冷静だった。さらっとかるく一言「そうなんですね」とほわわんとしながら返してきた。梅先の熱はスンと冷めた。
『最近の若い人って落ち着きすぎ……超常現象に興味ないの? 世の中に科学では解明できないことあると思うんだけどな。だいたい紫野もさ。あいつももう少しこう……』
何とも言えない不完全燃焼のやりきれなさは、紫野に対しての評価として表現されていた。
「すごく良いやつって言えないところがなんともね」
『ほんと。もう少し、俺の話を聞けって話だよ』
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