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帽子屋

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はじまっていた日 09:40AM

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 肩で息する紫野は顔に汗をかき首元のボタンもすでに外しているようで「マジであちい……なんだこの暑さ……」とぶつくさ言いながらガタガタと年季の入ったタイムカード打刻機に紙のカードを押し込んでいる。その横で、魂が抜けたような新人が茶山の後をついてミーティングルームへと向かっていった。
「おはよう、紫野。鬼切さんより早く着けて良かったな」
「鬼切さん来てない?! よっしゃ! 助かった!!」
拳を固めガッツポーズした紫野は思い出したように梅先に挨拶を返す。
「梅先さん、はよーございます。いやー助かったー。遅延証明持ってても、あの人が先に来てると何言われるかわかんないから。遅延証明あるっつーの。……そういや外も異常に暑かったけど、なんで社内こんなに暑いの? とうとうサーバーとうとう燃えたとか」
鬼切より先に到着した安堵からか、駅から猛ダッシュしてきた呼吸がようやく落ち着いてきたからか、我に返ったらしい紫野は手で顔を仰ぎながら社内を見回す。熱せられた空気が室内に留まっている気がして、朝から走りっぱなしで汗だくの背中にまた一汗かきそうな勢いだった。
「いや、あのサーバー燃えたらまずいだろ。あれでまだ作業してる案件あるんだから」
と言われたサーバーは、既に機体もOSもソフトに至ってもメーカーの保証期間はとうの昔に切れた前世紀の遺物であり、まだこのサーバーが保証期間内だった頃に設置してある場所が悪かったために今や老体の状態はすこぶる悪かった。
 当時社内ではフロア各自の席に灰皿があるような常態で、作業しながら喫煙するのが当たり前だった。そんな鬼切をはじめとするヘビースモーカーたちの席の近くにこのサーバーは置かれていたために、機体のファンはイヤでもイヤというほどその煙を吸い込むと言う、サーバーにその意図はないにしろ必然的且つ望まないのに能動的受動喫煙の被害を受けまくっていた。結果、年末大掃除の時期に中を開けてみれば、ファンだけでなく、機体の中はヤニとそのヤニに吸着したホコリで悲惨な状態となっていることに気が付いたのはだいぶ月日が経ってからのことだった。それでも健気に劣悪な環境で働いていたサーバーだったが、熱暴走するほどファンの動きが鈍くなってきた頃、鬼切が、音がうるさい、近くにあると暑い、とサーバーを遠くへ移設すると言い出し、それとともに、このサーバーは一線を退くことになった。それでも老練となったサーバーは細々ではあるが現役での活動を続け今に至る。時にはものすごい熱を発し、相変わらず熱暴走しながらも。紫野が言った「燃えたとか」は実際のところそんなに遠くない未来を予感させるには十分だった。
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