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はじまっていた日 12:18~
しおりを挟む呼ばれ奇声を上げて返事をしたもののノソリノソリとやってきた紫野の顔面は蒼白で、大粒の汗を額に光らせていた。そんな紫野の肩をあとからやってきた梅先が優しく叩いたが、紫野にはやけに梅先のその掌が重たく感じられた。さあ、行こうか。まるで刑の執行を受ける罪人が温厚な神官に導かれるような……そんなアニメ最近見たっけか……紫野は現実から意識が遠ざかるのを感じた。が、現実はそれを許さなかった。
「紫野」
『ハイィィッ! キタコレー! ソノ目ツキ!! 射殺サレルヤツネ!!!』
鬼切はこめかみを押さえたくなるような状況の連続に、あほらしさをとうに通り越し怒りへと変換させていた。またそれを腹の中で押さえ込んでいるつもりだったが、瞼の母に語りかけるほどの後ろ暗さ、鬼切から指示された新人教育云々について、つい数分前すっかり失念していたことすら完全に記憶の彼方に追いやっていた紫野にはまさに自分へ向けられる刃の如くの視線であった。今のところその視線の根源は勘違いだが知る由もない。
幽体離脱、エクトプラズムになりかけた紫野の意識はたった一言名前を呼ばれただけで身体の中へと引っ込んだ。
『俺、ここで死ぬのかな……鬼切さん……茶山さんそこにいますよ。がっつり見てますよ。確実にそこに目撃者、いますよ。それとも、そんなことも関係ないんすかね……』
紫野は辛うじて返事を返す声を絞り出したつもりだったが、短く小さく奇妙な声が上がっただけだった。顔の汗が滝のように流れる。目にしみるほどに。
「お前、なんでそんなに汗かいてんの?」
「あああ汗っすか。かいてます? かいてるかな? かいてます! 暑いっすから!」
隣の挙動がおかしい男に梅先は同情を禁じえなかった。
『紫野、まず、落ち着け。死に際に見苦しいぞ。奇跡が起きるかもしれないんだ』
だが、期待もしていた。
「暑いか? まあいい。お前たち二人、ちょっと外行ってこい」
「!!」
紫野は鬼切の命令に肩を跳ね上げ、瞼の母に末期の別れを告げた。
「外ですか? 何しに?」
『梅先さん! 決まってるじゃないですか! 俺、外でやられるんですよ! しかもアナタに!! やっぱりここじゃ、アレがアレっすから! 目撃者が!』
紫野は顔面だけでなく、背中にも大汗をかきはじめた。
「三戸さんとこの新人探して連れて来い」
「探してこいってどういうことですか?」
「その新人が朝ここまで来たらしいが、会社のドアが開いてなかったから近くのコンビ二に行くと言って出て行って未だ帰ってこないらしい。お前たちそのふざけた新人を探して連れて来い」
「携帯にかけてみたらどうですか?」
「それが、連絡先、固定電話の番号だけなのよ~」
茶山がザ・個人情報の履歴書(もちろん原本)をひらひらと振ってみせ、なるほどと梅先は頷いた。
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