雪原脳花

帽子屋

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第一楽章

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 前世紀の遺物と揶揄される愛車のステアリングに手を掛け、指示された色気のないランデブーポイントまではもう数ブロックだった。気付けばブライアンとの通話の後のスピーカーからは、ラジオのHumanity(♪)が流れていた。

 あの日、猟犬ハウンドになった俺たちに贈られた白い箱を開けた日から、俺たちは精巧に出来た機械仕掛けのような大佐が企画するティーパーティを次から次へと送り込まれた。犬と気取られぬようそれとわからないように小奇麗な姿をして砂糖菓子を載せたティアードトレイ片手に笑顔でゲストを招き、或いは招かれた。そしてやつらが甘い砂糖菓子に酔い痺れているうちに、空いた片手で腹と頭を開いて中を覗き、黒い箱ブラックボックスを詰めて最後に糸を掛けてやる。糸は丹念に。脚に。腕に。首に。
 招待客が来ないなら迎えに行くまでだ。猟犬よろしくどこまでも臭いを追って。何も首に掛けるのは糸だけじゃない。片手が空いているのなら、銃でもナイフでも、主人のお気に召すままに。

 俺たちは命令オーダーを受け何度でもうまくやって来た。
 甘い甘い血の臭いを振りまきながらいくらでも獲物を誘い出して来たはずだろう。
 だが……血の臭いは甘かっただろうか。

 嫌な予感がする。
 忘れるはずもない。現実に帰れば甘いはずもない。
 腐敗した血の臭いが漂う予感。

 曲のフェードアウトとともに車内ラジオのDJが口早に次の曲を紹介した。
 Welcome to the Jungle(♪)

 猟犬になる少し前「さぁパーティだ! 死ぬまでステップを踏みつづけろ!」と檻を開かれた場所はいつだってジャングルの泥濘の中だった。地雷やトラップを死に物狂いで避けるステップは観客にとってはさぞかし滑稽だったろう。汚泥にまみれ体が腐ったような悪臭と息苦しい湿度の中を、銃口の先にある標的を殺し、殺されないよう走り続ける。パーティエンドの声が聞こえるまで。ただひたすらに。そこかしこに転がる倒れた人間は、敵の死体だったか味方の死体だったか。

 俺の現実は、変わりゃしない。ジャングルはここだ。これが現実だ。



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