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第一楽章
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「痛っってぇっ!!!」
酔っ払いは後ろから強かに引っぱたかれた後頭部を押さえた。
「何やってんだ、この酔っ払い。いや、変態!」
「痛ってえだろが! このバカ力! 脳挫傷したらどうしてくれる! そこに、怪我した子猫がいたから手当てしてやろうと思ったんだよ!」
酔っ払いは路地を指差して、綺麗な顔をこれでもかというほど顰めた男に反論した。
「はぁ? あんた、何言ってんの?」
路地を覗き込んだ男は今度はこれでもかと言うほど軽蔑した眼差しを酔っ払いに向けた。
「何もいませんけど。ここには一人でお医者さんごっこの台詞吐いてる、通報レベルの変態しかいませんけどー」
「おまえのせいで逃げたんだ……かわいそうに。あんなに辛そうだったのに、うるさいバカ力がやってきたせいで怯えて仕方なく逃げるはめに……」
「あんたねぇ、変態に磨きをかけた妄想に俺を登場させないでくれる?!」
繁華街の雑踏の中、行き交う人間たちより頭一つは軽く出ている二人が言い争う姿を、ちらりちらりとのぞく目はあるにしろ人波は留まることはなかった。
「入谷さん! 藤さん!」
流れ行く人波に、すみません、すみませんと謝罪を連発させながら波を横切って遠海は二人に辿り着いた。
「二人ともこんなところで何してるんですか。探しましたよ。皆、もう3次会で飲み始めてますよ」
「とぉみぃ! 聞いてくれ俺の話しを!」
「遠海チャン、聞かなくていいわよ。酔っ払った変態の戯言だから」
「えーっと……」
間に立たされた後輩の遠海は二人の顔を見比べつつ、ひとまず店に向かいながら話しましょっか……と、二人の酔っ払いを先導することを最優先にした。
「俺はさぁ、免許持ってるわけよ。いちおうね。これでもね。だから医者としてさぁ」
「やめて。あんたが医者とか言うと犯罪に聞こえるから」
「まぁまぁ藤先輩。入谷先輩、いいとこありますね。超絡まれ体質なのに、路地まで猫の様子見に行くなんて」
「そーだろーそーだろー? 俺って超絡まれ体質なのに、路地に入って勇気あるだろー。しっかし痛ってぇなあ。遠海、俺に意識消失や眠気、錯乱、視覚、聴覚、等々とにかく何か異常が見られたらCT取ってくれ」
「それ酔っ払ったときのいつものアンタでしょうが。それに日本語間違ってるから。色々間違ってるから。存在が間違ってるから。異常はあんたのデフォルトでしょうが。だいたいあの路地に入らなくても、その前に何人に腕つかまれそうになってると思ってんの? 酔ったオッサンから、いきがってるガキから、強面のスジモンから、キュートなボーイからワイルド系外人から一般旅行客まで! 俺がどれだけ……」
「きれいな目だったのに……しかも二人」
「俺の話し、スルー?!」
「二人? 入谷さん、さっき猫っていってませんでしたっけ?」
「遠海チャン、あんたまでスルーなの?! こう見えて俺、大変だったんだよ!」
初めてフレッドはエリックに肩をかしていた。自分たちに残されている記憶の中の初めて見る弱った姿のエリック。路地を抜けた先、歩行者専用区域内の公園に二人は座っていた。
「エリック。大丈夫?」
「……大丈夫だよ。機能は正常に戻っているみたい。痛みも消えた。早くジムたちに合流しよう」
いつものようにエリックはフレッドの手を引いて立ち上がろうとしたがフレッドは動かなかった。振り返ると泣きそうな顔をした自分と同じ顔、同じ瞳に自分が映った。
「エリック、あれなんだったんだろう。ジムたちになんて説明する? 僕たち壊れちゃったのかな。壊れちゃったら……」
泣き始めたフレッドの手をエリックは強く握った。
「大丈夫だよ、フレッド。僕は絶対にこの手を離さない。僕たちは絶対に離れない。俺様も無事だし、それにあの人との契約はまだ終わっていない。きっと迎えに来てくれるよ」
エリックの言葉にフレッドは頷いた。
「でも僕、恐いんだ。あのおじさん、僕がお父さんと間違えてついてきたって言ってたけど、僕、確かに引き寄せられたんだ。追跡する獲物を見つけたときみたいに」
「うん」
フレッドの獲物を発見する能力は高く間違えたことがない。でも獲物だと、追えと指示する命令がなければ動かない。そうプログラムされている。
「それから曲が聴こえた。怪獣が歌う曲」
「僕も聴こえたよ。ノイズだらけだったけど」
「なんだろう。今回のお仕事と関係あるのかな。それとも今までにも頭から音がする人間に会ったことあるのかな。消されちゃってるだけで」
「もしそうならあのとき俺様は驚かないし、そのデータは宝箱にしまってあるはず」
「僕たちがあの人と契約する前は? 俺様が来る前」
「それはわからない」
「僕たちわからないことだらけだね」
フレッドは握るエリックの手に力を入れて立ち上がった。
「僕ね、あの人が迎えに来てくれたら聞きたいことがあるんだ」
「何が聞きたいの? あ。わかった」
「言っちゃダメ。僕に言わせて」
「いいよ」
「あなたは僕たちのお父さんですか」
「うん。聞きたいね」
二人で同時に空を見上げれば薄い月がその答えを知っているぞとでも言いたげに笑っていた。
酔っ払いは後ろから強かに引っぱたかれた後頭部を押さえた。
「何やってんだ、この酔っ払い。いや、変態!」
「痛ってえだろが! このバカ力! 脳挫傷したらどうしてくれる! そこに、怪我した子猫がいたから手当てしてやろうと思ったんだよ!」
酔っ払いは路地を指差して、綺麗な顔をこれでもかというほど顰めた男に反論した。
「はぁ? あんた、何言ってんの?」
路地を覗き込んだ男は今度はこれでもかと言うほど軽蔑した眼差しを酔っ払いに向けた。
「何もいませんけど。ここには一人でお医者さんごっこの台詞吐いてる、通報レベルの変態しかいませんけどー」
「おまえのせいで逃げたんだ……かわいそうに。あんなに辛そうだったのに、うるさいバカ力がやってきたせいで怯えて仕方なく逃げるはめに……」
「あんたねぇ、変態に磨きをかけた妄想に俺を登場させないでくれる?!」
繁華街の雑踏の中、行き交う人間たちより頭一つは軽く出ている二人が言い争う姿を、ちらりちらりとのぞく目はあるにしろ人波は留まることはなかった。
「入谷さん! 藤さん!」
流れ行く人波に、すみません、すみませんと謝罪を連発させながら波を横切って遠海は二人に辿り着いた。
「二人ともこんなところで何してるんですか。探しましたよ。皆、もう3次会で飲み始めてますよ」
「とぉみぃ! 聞いてくれ俺の話しを!」
「遠海チャン、聞かなくていいわよ。酔っ払った変態の戯言だから」
「えーっと……」
間に立たされた後輩の遠海は二人の顔を見比べつつ、ひとまず店に向かいながら話しましょっか……と、二人の酔っ払いを先導することを最優先にした。
「俺はさぁ、免許持ってるわけよ。いちおうね。これでもね。だから医者としてさぁ」
「やめて。あんたが医者とか言うと犯罪に聞こえるから」
「まぁまぁ藤先輩。入谷先輩、いいとこありますね。超絡まれ体質なのに、路地まで猫の様子見に行くなんて」
「そーだろーそーだろー? 俺って超絡まれ体質なのに、路地に入って勇気あるだろー。しっかし痛ってぇなあ。遠海、俺に意識消失や眠気、錯乱、視覚、聴覚、等々とにかく何か異常が見られたらCT取ってくれ」
「それ酔っ払ったときのいつものアンタでしょうが。それに日本語間違ってるから。色々間違ってるから。存在が間違ってるから。異常はあんたのデフォルトでしょうが。だいたいあの路地に入らなくても、その前に何人に腕つかまれそうになってると思ってんの? 酔ったオッサンから、いきがってるガキから、強面のスジモンから、キュートなボーイからワイルド系外人から一般旅行客まで! 俺がどれだけ……」
「きれいな目だったのに……しかも二人」
「俺の話し、スルー?!」
「二人? 入谷さん、さっき猫っていってませんでしたっけ?」
「遠海チャン、あんたまでスルーなの?! こう見えて俺、大変だったんだよ!」
初めてフレッドはエリックに肩をかしていた。自分たちに残されている記憶の中の初めて見る弱った姿のエリック。路地を抜けた先、歩行者専用区域内の公園に二人は座っていた。
「エリック。大丈夫?」
「……大丈夫だよ。機能は正常に戻っているみたい。痛みも消えた。早くジムたちに合流しよう」
いつものようにエリックはフレッドの手を引いて立ち上がろうとしたがフレッドは動かなかった。振り返ると泣きそうな顔をした自分と同じ顔、同じ瞳に自分が映った。
「エリック、あれなんだったんだろう。ジムたちになんて説明する? 僕たち壊れちゃったのかな。壊れちゃったら……」
泣き始めたフレッドの手をエリックは強く握った。
「大丈夫だよ、フレッド。僕は絶対にこの手を離さない。僕たちは絶対に離れない。俺様も無事だし、それにあの人との契約はまだ終わっていない。きっと迎えに来てくれるよ」
エリックの言葉にフレッドは頷いた。
「でも僕、恐いんだ。あのおじさん、僕がお父さんと間違えてついてきたって言ってたけど、僕、確かに引き寄せられたんだ。追跡する獲物を見つけたときみたいに」
「うん」
フレッドの獲物を発見する能力は高く間違えたことがない。でも獲物だと、追えと指示する命令がなければ動かない。そうプログラムされている。
「それから曲が聴こえた。怪獣が歌う曲」
「僕も聴こえたよ。ノイズだらけだったけど」
「なんだろう。今回のお仕事と関係あるのかな。それとも今までにも頭から音がする人間に会ったことあるのかな。消されちゃってるだけで」
「もしそうならあのとき俺様は驚かないし、そのデータは宝箱にしまってあるはず」
「僕たちがあの人と契約する前は? 俺様が来る前」
「それはわからない」
「僕たちわからないことだらけだね」
フレッドは握るエリックの手に力を入れて立ち上がった。
「僕ね、あの人が迎えに来てくれたら聞きたいことがあるんだ」
「何が聞きたいの? あ。わかった」
「言っちゃダメ。僕に言わせて」
「いいよ」
「あなたは僕たちのお父さんですか」
「うん。聞きたいね」
二人で同時に空を見上げれば薄い月がその答えを知っているぞとでも言いたげに笑っていた。
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